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満月の夜  作者: 桐生初
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大量惨殺事件発生

翌朝、夏目は初めて一番に来て居らず、甘粕と霞と同時に来たらしい。


 甘粕がニヤニヤしながら、給湯室で太宰にこっそり教えてくれた。


 「なーんか機嫌いいんですよ。あの不敵にニヤリじゃなくて、素で普通に笑うんです。しかも第一声、『おはようございます。コーヒーいかがですか?』ですよ。新人のくせに茶碗も満足に洗えないあの男が。」


 夏目も気を遣ってか、原則セルフサービスの洗い物を洗ってくれるのだが、凄まじい勢いで割る。ツルッと滑って2メートル吹っ飛んで、粉々になった事もあるので、夏目は新人でもそういう事はしなくていいと、太宰自ら指令を出した位である。

 コーヒーメーカーのポットは、来て1ヶ月だというのに、もう4回も割ったので、絶対割れないステンレス製に変えた位だ。当然、コーヒーの入れ方も知らなかった。


 「マジ?」


 「マジです。それにあれ、家で朝飯食って来てますよ。」


 夏目は、彼女に出て行かれてから、いつも隣のコーヒーショップでサンドイッチっぽいものを買って来て食べていると、甘粕は言った。


 「あいつ、料理一切出来ねえって言ってたじゃん。つまり、甘粕。」


 「そう。戻って来てくれたんじゃないかと。」


 二人でコソコソ話していると、霞がぶっ飛んで来た。

 勢い余って、ドアのストッパーにつまづき、ダイビング状態で転びそうになったのを、甘粕が支えたが、お互い照れる前に、スクープ発表となった。


 「聞いちゃった!聞いちゃった!」


 「霞ちゃん、夏目?」


 「そうなんです!課長!昨日あれから師匠のお宅に行って、お話しして、結婚が決まって、戻って来てくれたそうです!名前は、美しい雨と書いて、みうちゃんだそうです!」


 「おお!霞ちゃんのお陰だな!やはり甘粕、強引がいい…。」


 全部言う前に、ドカッと思い切り足を踏まれた。


 「いでえええ~!あまかーす!お前は本とに俺を上司と思っておるのかああ~!」


 「正直に言います!」


 「なんだあ!」


 「たまに忘れます!」


 あまりの正直な物言いに太宰は目を点にし、霞は笑い転げてしまった。


 「忘れ…ちゃうの…?」


 「はい!」


 「ああ…、そう…。」


 若干寂しそうな背中の太宰に付いて給湯室から出ると、夏目は一人頬杖をついて、キャメルを吸いながらにやけていた。


 「ハッピーな感じだのう。そんなにいい女なのかしらん。」


 「そうなんじゃないですかあ。夏目ってもてそうですもん。なのに、知り合ってからずっと、その子一筋だった訳ですから。」


 「なるほどねえ。」


その日は、やっと一家惨殺事件に取り掛かれた。

証拠などを揃え、ホワイトボードに概要を纏めた頃、定時を迎えた。


 「じゃあ、プロファイリングは明日にしよう。定時に帰れる時に、帰っておかないとね。」


太宰はそう言った後、付け加えた。

 

 「そうだ。今度の休み、みんなでうちに来いよ。夏目は美雨ちゃんも連れておいで。」


 夏目は太宰がドン引くのも構わず、満面の笑みでいい返事をした。


 「はい。是非。」


 「じゃ…じゃあ、鐘も鳴った事だし、帰ろっか…。」


 いそいそという形容がピッタリの様子の夏目が上着を取った。


 「デ、デートかい…、夏目…。」


 「うちで待ってるので、今夜はハンバーグです!」


 振り返って、変死体を前にしている柊木の様に嬉しそうに言った。


 ーハンバーグが嬉しいのか、美雨ちゃんが嬉しいのか…。どっちなんだ、夏目よ…。


 目を線にしながら太宰がコートに袖を通した時、電話が鳴った。

 夏目は嫌な顔もせず、電話を取った。

 普通なら多少なりともしそうなものだが、夏目はプライベートがどうなっていようとも、仕事が嫌だという素振りは見せた事が無い。

 ドSで、新人のくせに誰相手でも言いたい事を言う男だが、真面目なのである。

 返事をしながらメモを取っていく夏目の顔が、徐々に緊張感を増して行った。

 単なる相談では無いことは、すぐに三人にも分かった。

 電話を切った夏目は太宰を見つめて言った。


 「目黒区の民家で三十体の惨殺体が発見されたそうです…。」


 夏目の目が珍しく動揺していた。


 その動揺は、車内で事件の概要を聞いて、納得がいった。


 「家主の上村ミヨ七十六歳の甥が発見したそうです。

家に妙な連中を入れている様なので、再三心配で訪ねていたが、いつも玄関で追い返されていたのに、今日は玄関の鍵が開いていたので、そのまま入ったら、凄まじい血の臭いと、一階の四畳半の和室に首無し死体が血だまりの中にあり、慌てて通報。

警察官がざっと見た所、二階には、十人の無傷の遺体の部屋、胸にぽっかり穴の開いた十五人の遺体の部屋、胸部と腹部がぐちゃぐちゃの遺体二人分の部屋と、三部屋に分けて置かれていたそうです。柊木先生がもう行かれているそうです。」


 「柊木、ウハウハだろうな…。」


 太宰のセリフに、思わず絶句してしまった。


 恐らく、ほぼ間違いなく、ルンルンしているはずである。


 「まあ、柊木はともかく、霞ちゃんや甘粕に任せっきりにせず、俺達も自分の目で見て考えようぜ。」


 「はい。霞さん、遺体の損壊状況に寄って部屋を分けてるのは、意味があるんですよね。」


 「だと思うわ。行って見てみない事には、法則性と理由は分からないけど。」


 「秩序型ってやつですか。」


 「よく勉強してるわね!夏目さん!そうです。秩序型と思われます。」

  


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