太宰は偉大?
車に乗り込み、太宰は三人に大丈夫か聞いた。
柊木と太宰の掛け合い漫才のお陰で、なんとか三人とも具合が悪くなる事もなく、乗り切れた様だ。
「私、本物と思わない様にしましたから。」
「ん。それがいいね。夏目は…見た目通り、やっぱり大丈夫なのか。」
運転しながら夏目が苦笑した。
「なんです、見た目通りって。ふてぶてしい?」
「そうそう。」
「まあ確かに。へえ、すげえなと思って見てました。」
「若干柊木が入っておるのう。」
「入ってないです。」
「いや、入って…。」
「無いです。」
断言。
それも太宰に最後まで言わせずに言い切るものだから、珍しく太宰の方が黙った。
助手席に座っている甘粕が面白そうに笑っている。
「甘粕は?」
「いつも通りです。感情と見ている物を切り離す。心頭滅却すれば火もまた涼し。」
甘粕の一課時代の渾名は武士だった。何事にも動じないし、ぶっきらぼうだし、どんなに無頓着でも姿勢は良く、品があるから。
甘粕が動じるのを見たのは、霞絡みが初めてという位である。
「それにしても、柊木先生って面白い方ですね。課長ともいいコンビ。高校の時から仲良かったんですか?」
霞が思い出し笑いをしながら聞いた。
「いや、そんな仲いいってわけじゃ…。正確には中高ね。なぜか、ずううう~っと同じクラス。アイツにはマトモな医者になってる双子の兄貴も居るというのに、なぜかアイツとばっかし。アイツは昔から変わり者でさあ。変な特技持っててね。人体標本、どんなにバラバラになってても、瞬時に直してしまうという…。」
「既に片鱗があったんですね。」
夏目のセリフに皆笑ってしまった。
「そうなんだよ。家に遊びに行っても、アイツの部屋は悪夢を見ないのかと思う位、臓器とか人体とか骨とかの模型で溢れ返り…。不思議な男だった。」
「やっぱり仲良しさんだったんですね。」
「ま…まあね。実を言えば、アイツの影響で刑事になったという面はある。」
「あら。それはどういういきさつで?」
「あいつがね、海外の猟奇殺人の死体とか現場の写真見せてくれたんだ。アイツは『俺はこういう死体を調べてみてえんだ。』って言ってて、俺はそれ見た時、人間が人間をどうしてこんな風に出来るんだろうってもの凄く疑問に思って、そっちに興味が湧いたんだな。どんなに憎い相手でも、普通の神経じゃここまで出来ない。でも犯人達は憎悪じゃなくて、楽しみでそうしてる。その理由が知りたいと思った。それで、当時は犯罪心理学科なんて無かったから、そういう授業がある所探して入って、刑事になったという訳なのよ。」
「ああ…。だから課長は俺の意見よく聞いてくれたんですね。」
「うん。俺よりずっとちゃんと勉強して来れてるから。」
「今の課長があるのは、柊木先生のお陰なんですね。」
太宰は、笑顔でそう言う霞をじっとりと見つめた。
「ー霞ちゃん…。柊木のお陰ってえのはおかしくないか…。」
「あら?そうでしょうかあ?」
「おかしいとと思うんだけども!」
すると前の二人も、
「柊木先生のお陰ですね。」
と言いながら、しみじみと頷いている。
「ちっが~う!柊木のお陰なんかじゃなああ~い!」
三人は、凄まじい変死体を見て来た直後とは思えぬ程、笑いっぱなしになった。
ある意味、太宰は偉大である。