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満月の夜  作者: 桐生初
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対決2

太宰も加わり、四人で入ると、風間弁護士は悠斗の言い分を代弁した。

一通り聞き終えると、太宰が言った。


 「叔母さんの言い分も折角だから弁護士さんにも聞いてもらおうかな。」


 里子の自供の抜粋を流す。

 電車に轢かれるのを見るのが一番いいとか、そんな話しをしていたというくだりだ。


 「酷いよ…叔母さん…。」


 風間弁護士は悠斗を労りながらも、何か違和感を覚えたような考え込んだ顔をしていた。


 「どっちが本当かという話ですよね?風間さん。これも見て。」


 霞が風間弁護士が来るまでの取調室の悠斗の様子を流した。

 風間弁護士は言葉を失っている。


 「信じないでください!みんなこの人達がさせたんだ!」


 必死に風間弁護士にすがりつく悠斗を横目で見ながら、甘粕が言った。


 「その手の嘘はつくだろうと思って、叔母さんの事件当日のアリバイ、全て調べ上げて来た。

犯行時刻のほとんどが会社に居る時か、電車に乗っている時間。

自宅に居る時でも、叔母さんはほとんど出掛けられないせいか、通販の宅配が多いみたいでね。

その時間、運良く宅配便が来てる。

それから自動改札の記録。

今の自動改札は子供、女、男、ちゃんと判別してるし、叔母さんは定期券だ。

履歴を見るだけで、それは証明されてる。

宅配便も全てオンライン化されてるから、死亡時刻全てに記録があった。

そして君のSuicaだ。田端先生が亡くなる五分前に田端先生が亡くなった駅の改札を通ってる。

田端先生の定期券の後にね。

そして田端先生の死後、君のSuicaは再び同じ改札を通って駅からでてる。

映像解析の結果は、今、君の大好きな夏目巡査が聞きに行ってるが、もう一つ。

遠藤京子ちゃんの乗ったタクシーを追ってくれと君が頼んで乗ったタクシーの運転手を発見した。

遠藤京子ちゃんが降りるなり、君も降りて、京子ちゃんをトラックの前に突き飛ばしたのをしっかり見てたよ。

その運転手は、前科者で、怖くて証言しに来られなかった様だが、しっかり証言してくれた。」


 更に太宰も捲し立てる。


 「ご両親と弟さんが亡くなった事故の直前に自分の大事なものだけ避難させる為に、レンタル倉庫を借りたね?

しっかり記録が残っていたよ。

それから、田端先生が亡くなる直前、君の家から港南診療所に君の名前で予約を入れた事も判明してる。

受付の女性が、田端先生が付き添って行くとおっしゃっていたのも覚えていた。

自殺する人間が教え子の病院の予約は取らないよなあ。

他の人達の自殺の線も全て崩れてる。

叔母さんのアリバイは完璧。

逆に君のアリバイは無い。

このイケメン刑事が言った様に、証言や、Suicaの記録もある。

君は叔母さんに罪を着せる為に、こちらが掴んだ全ての事件が他殺によるものだと認めてしまった。

叔母さんじゃない事は明白だ。

刑事なめんなよ。

二十年もやってりゃ、嘘ついてるか、本との事言ってんのかぐらいすぐ見分けがつくんだよ。さあ、どうすんだ。今度はなんて言い訳する。」


更に遅れて入って来た夏目が言った。


「科捜研の映像解析が出た。お前さんが、田端先生をホームから突き落として田端先生がグチャグチャに轢き殺されてるのを、嬉しそうに見てるのが、しっかり映ってたぜ。」


そう言って、夏目は、西大井駅のホームで邪悪に笑う悠斗の写真を出した。

悠斗以外の人間は、慌てふためいたり、顔を覆っていたりする中、悠斗だけは、まるで娯楽映画でも見ているかの様な楽しげな様子で映っている。


 風間弁護士は悠斗を悲しげな目で見つめた。


 「正直に話して、少しでも罪を軽くする方に持って行った方がいい。ちゃんとお話ししなさい。精神鑑定も申請するから…。」


 悠斗は風間弁護士を睨みつけ、怒鳴った。


 「てめえ、どういうつもりだ!子供だからって馬鹿にしてんのか!金ならあるんだよ!てめえは黙って俺の弁護だけちゃんとやってりゃいいんだよ!」


 「僕はあった事を無かった事になどしない。それは在ってはならんことだ。弁護士とは罪を犯した人が適切な処罰を受け、人権侵害を受ける事の無い様、盾となる存在なんだ。」


 確かにモラリストだった。

 だが、悠斗にとってみたら面白くは無いし、全く当てが外れたわけである。

 黙り込み、次の手を考えている悠斗にその隙を与えず、今度は霞が言った。


 「でもお粗末よねえ。完全犯罪だと思ってたんでしょうけど、穴だらけじゃないの。完全に支配下にあると思っていた叔母さんには裏切られるし、調べてみたら証拠は残し放題。監視カメラにも気付かないなんて、やっぱり子供ね。みんなに病院病院て言われるだけのことはあるわね。精神鑑定、私も必要だと思うわ。」


 「俺は完璧だ!大体今までバレなかったじゃないか!」


 「そんな事無いじゃない。室田先生、田端先生、遠藤さん、サイコパスっていうのまでバレてたわよ?小学校の時の堺先生はどう?」


 「あいつらの事は言うな!」


 「私には全然分からないけどなあ。君が完璧だなんて…。」


 「じゃあ教えてやるよ!犬の殺し方も、安田の隠し場所も、親父達の殺し方も、他の奴らの殺し方も、全部俺一人で考えてやったんだ!他の奴にこんな事できるか!頭がおかしかったら、こんな事できねえんだよ!俺が天才だからできたんだ!実際、みんな俺に騙されてたじゃないか!警察だって!全て俺の思うがままなんだよ!」


 「確かにそうねえ。でも、もうちょっと詳しく教えてくれないと分かんないなあ。」


 悠斗は得意気にニヤリと笑うと、聞いても居なかった鶏の変死から、不良達への万引き指南、そして全ての死亡事件について、細部に渡り、事細かく話し始めた。いかに自分が頭がいいかをひけらかす為に、犯行の計画や手段や下調べについても詳しく自慢げに語り、殺害部分に関しては、耳を覆いたくなるほど、特に生々しく、悦に入ってるかのように恍惚とした表情で語った。


 先ほどとは打って変わり、霞も悠斗に同調し、時には褒めたり感心したりして、全ての自供を引き出した。


 安田裕翔殺害は、やはりもみ合いになどなっておらず、常に学年トップを争っているので邪魔になり、予てより殺害計画を練る為に安田邸を度々訪れ、計画し、実行に移したのは、模試と期末の連続で首位を奪われたのがきっかけらしいが、霞は敢えて触れず、終始機嫌良く話させた。


 さらにその後、福井悠斗の携帯の写真データから、全ての被害動物と人物の死の瞬間を写した物が出て来た。

自供とそれを裏付ける全ての証拠が出揃い、優斗は規程の十日を超える事なく、送検できた。


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