証拠が徐々に…
甘粕は家宅捜索で残り、二人を連行し、早速DNA検査にかけると、安田少年が握りしめていた毛髪とも、爪の中の皮膚片のDNAは福井悠斗のものと判明した。
「さて。甘粕の方はどうかな。」
太宰が呟いた所で、折よく甘粕から連絡が入った。
「福井里子の部屋の押し入れから、原田美咲から悠斗宛のラブレターがごっそり出て来ました。
それと、美咲の遺書を練習した書き損じの便せん多数。
更にもう一つ。SDカードも一緒に仕舞ってありました。
ざっと確認したところ、例の原田美咲のヌード写真のデータでした。
それから、悠斗の部屋から、大村君、飯山君、立川君の名前が書いてあるマンガやゲーム類、藤木少年が言っていた、貢ぎ物として渡した、豪華装丁版のマンガなど、言っていたもの全てありました。
悠斗のパソコンはまだざっとしか見てませんが、爆弾製造の手引き、材料購入の形跡などがあり、押し入れからもそれらの材料が出て来てます。
幸田班長に見て頂いたら、資格が無いと入手出来ない薬品が欠けているとの事でした。
室田先生を取り込もうとしたのは、この為かと。
原田美咲のヌード写真もありました。」
「御苦労さん。里子は保険かけたとみて良さそうだな。揺さぶってみるか。」
「そうですね。あと、児童虐待の方ですが、悠斗の部屋のベットのシーツ、ゴミ箱から、二人分のDNAが出ました。」
「おう。それ絡みで俺からも一つ。里子の医療記録を調べてもらったところ、産科に二回行ってる。」
「ー堕胎ですか…。」
「おそらくな。また何か出たら知らせてくれ。目処がついたら、お前も帰ってこいよ?」
「はい。出来る範囲で証拠固めしておきます。」
電話を切り、マッジクミラーで仕切られた観察室に入ると、夏目が注意深く、取り調べ室の悠斗を観察していた。
「どうだ。」
「異様に落ち着いています。」
福井悠斗は椅子に座って、両手をデスクの上に置き、時々辺りを見回したりしているが、動揺している様子は無く、むしろ面白がっているようにすら見えた。
「じゃ、俺は里子から攻めようかな。霞ちゃんどう思う?」
里子の様子を見て来た霞が答えた。
「攻め時だと思います。かなり怯えた様子ですし、ちょっと証拠を見せれば、容易に吐くかと。それに、保険をかけていた辺り、どっぷり呪縛から逃れられないというわけでも無さそうですし。DV被害者や、監禁状態の被害者と同じ心理状態ではないかと思います。私は、悠斗の方と雑談してようかと思いますが、いいですか?」
「うん。念の為、夏目が付きなさい。じゃ、その辺踏まえて、行ってくるぜ。」
太宰は、愛想良く取調室に入った。
霞が言った通り、里子は動揺し、怯えきっていた。
「十三歳未満の青少年との性交は、理由の如何を問わず、児童虐待に問われます。とりあえず、今現在の証拠は発見されました。いつからですか?悠斗君とそういう関係になったのは。」
「……。」
「貴方、悠斗君が十二歳と十三歳の時に、二回も堕胎手術を受けられてますね。誰の子ですか?悠斗君の子供じゃないんですか。病院の記録では、父親の名前は書かれていなかったようですが、その病院、貴方の赤ちゃんを保存してましてね。今、お借りして、DNA検査にかけてるところです。すぐに誰が父親かは分かりますよ。」
真っ青になり、震えている里子に、太宰が笑いかけた。
「実は虐待されてるのは、あなただったりして。」
里子が驚いた顔で太宰を見た。
「同僚の方から聞きました。どう見ても、殴られたとしか思えない怪我をしていたり、首を絞められたような痣があったり、五時になると、悠斗君のご飯を作らなきゃと、血相を変えて必死になって帰るそうですね。夕食の時間が少しでも遅くなると、殴られたり、首を絞められたりするのでは?」
「……。」
「あなたの部屋から、原田美咲さんから悠斗君に宛てたラブレターや、遺書の練習をした残骸、美咲さんのヌード写真のデータの入ったSDカードが出て来ました。それらは、悠斗君に処分しておけと言われたものなのでは?」
「ーそうです。」
「何故取って置いたんです?いざという時に自分を守るためではないんですか。だとしたら、今が使う時ですよ。」
「児童虐待の件は…。」
「私が判断する事ではありませんが、あなたが正直に知っている事を全て話して下されば、かなり心証も変わって来ますし、状況によっては、児童虐待そのものも立件には至らないかもしれません。」
「あの…、刑事さんはどこまでご存知で、悠斗をどうしようと思っていらっしゃるんですか…。」
かなり慎重な性格のようだし、悠斗の報復を恐れている様にも見えたので、太宰は全て正直に話す事にした。
「2008年9月の鶏変死事件。
同年12月奥山宅の飼い犬が農薬中毒死した事件。
2009年8月の安田裕翔君失踪事件。これは昨日殺人死体遺棄事件になりました。
鑑定の結果、福井悠斗君の毛髪と皮膚片が被害者から出ています。
お宅の悠斗君は最重要容疑者です。
それから、2009年10月に起きた福井家ガス漏れ爆発死亡事故。
今年、2010年1月の里村友弘君の自殺。
同年5月の大村君、飯山君の死亡事故。
6月の室田教諭の自殺。同月の原田美咲さんの自殺。
今月7月の田端教諭の自殺。
同じ日の遠藤京子さんの自殺。
これら全ての事件、自殺、事故に悠斗君は積極的に関与。
もっとはっきり言えば、事故、自殺にみせかけ殺害していると、我々は見ています。
安田裕翔君の殺害は、庭の水道の蛇口付近で安田君の頭を十数回鉄枠部分に打ち付け、裕翔君を床下に引っ張り込み、外から見えない範囲の所に、軽く埋めていました。
床下といっても、安田邸のは、一メートルちょっとあったので、出来たんだと思いますが、深く掘るには、高さが足りなかったようですね。
うちの刑事がすぐに見付けましたよ。
安田君は、頭を打ち付けられている際、優斗君の毛髪を掴み、爪で優斗君の体を引っ掻いた様で、骨になっても、毛髪を握りしめ、爪の中に皮膚を残していてくれました。
田端教諭の自殺したと思われる時間の監視カメラも、今調べを進めています。
自殺に関しては、状況証拠と証言しか今のところありませんが、かなり有力な物を得ています。」
里子は、太宰の言葉を噛み締めるかの様に暫く黙って考え込んだ後、途切れ途切れに聞いた。
「あの子を…、捕まえて下さるんですか…。」
「はい。」
「本当に?すぐ釈放されたりしたら、私殺されるんですよ?」
「多分、逮捕したら、一生出て来られません。出て来れたとしても、監視が付きます。あなたに危害を加えることはありませんよ。」
「ーでしたら…、お話しします…。どこからお話しすれば…?。」
「悠斗君が小さい時からの事でもなんでも。知っている事全てお願いします。」
「わかりました…。」