Ep1-3 視線の先の世界
いまだに本編に入れません。なるべく説明をわかりやすいように、小難しくならないように頑張ってみましたが。
解り辛くないといいのですが。
転生したわけではない
その言葉が重くのしかかってくる。
そうなると、自分の記憶はいったい何なのだろう?
夢?幻?
いや、結論はまだ早い。
パニックになりそうな心を理性で押さえつける。
何のことはない。試験問題と同じ話だ。
意図的に情報を規制し、ミスリードを図る。しかし、よく問題を読んでみると、正解へと至る文言が隠されている。今の状態では、人間であった記憶が夢だったかと断定はできない。
アザリーはこう言ったのだ。
君が君であるまま、再び君を世界に送り出したのさ、っと
-おやっ、もう少し焦ってくれると思ったんだけど-
-少々、落ち着きすぎたよ?君-
ぬけぬけと言い放つアザリー。
くそっ、やっぱり意図して情報を正確に伝えなかったんだな。
少し怒りが込み上げてくるが、あくまでも一方的に情報を得ている立場としてはあまり強く言えない。少々、もどかしいが、立場的にこちらが不利なのは仕方ないかも知れない。
自虐的に自分を落ち着かせているのがわかったのだろう、アザリーは少しすまなそうに言葉を紡いだ。
-嘘を言ったわけじゃないさ-
-まあ、言ってしまえば《正確》ではなかった、っというところかな-
正確じゃなかった?
-そう-
-少々、面倒な話になるから大まかに説明すると・・・厳密にいうと輪廻転生という言葉は、実際には存在しないのさ-
つまり、生まれ変わりというものは存在しない?じゃあ、俺の記憶はどうなるのだろう?
-まあまあ、順番に話していこう-
-この世界には、ありとあらゆる世界、平行世界、多次元世界、過去、未来と君たちが想像している世界が実際に存在しているんだ-
-ただ違うことは一つ-
-その世界は、同時に存在している-
-今、この時も-
??
理解が追い付かない。自分の生まれ変わりの話からどうして世界の話になるのだろう?
-順を追って説明しているだけさ-
苦笑気味に答えるアザリー。相変わらず、お尻のあたりがムズムズするが気を散らさずに情報の収集に努めるとしよう。
-あらゆる世界があり、その世界にはありとあらゆる君がいる-
-どの世界の君も君であり、根源では君とつながっているのさ-
-例えるなら木の幹と枝-
-枝そのものは別々に伸び、別々の成長をするが、大本は同じ木である-
-ここまでは理解したかい?-
何となくだが理解できる部分があるため頷いておく。前は人間だったが、他にも猫、猿などの動物の俺がいる可能性があるという事だろう。
-今、君が君である事を認識しているのは、根源たる存在の視線が犬である世界に向いたからさ-
-そうだね、ここでも例えを出してみよう-
-君が人間で、君の前には無限にも近いモニターがあるとしよう-
-それぞれのモニターにはそれぞれの世界、それぞれの時間の君が、それぞれ思うように生活している-
-君が意識してみることができるのは一つだけ-
-前回は人間のモニターを見ていたが、今回は犬のモニターを見ている、っということさ-
-視点が変わっただけで、生まれ変わったわけではないのさ-
ちょっと待ってくれないか?
話は納得できるとして、前回の俺は死亡して、今回の俺はたった今、生まれた。そのことを考えると、生まれ変わったとしか思えないんだけど。
正直、そのあたりは重要そうではない気がする。だけど、好奇心が抑えきれない。
-それはたまたまさ-
苦笑してアザリーは続ける。
-今回は、意識が切り替わる時、《死亡》の後に、《誕生》という風につながる事を君が無意識に望んでしまったために起こった事でもある-
-他にあった可能性としては、前回、君が人間であった時の類似した世界の類似した時間帯、もしくは救命救急処置で死亡しなかった世界に意識が切り替わっていた可能性もある-
-他の可能性としては《過去》に意識が移った、という可能性もあるね-
え?
どういうこと?
-言っただろう-
-世界は同時に過去、未来も存在すると-
正直、こんがらかってきている。別の世界に意識が移っても、のあたりはまだ少し理解できる。気になる部分はあるといえばあるのだが。しかし、《意識が過去に移る》?
もしもやり直したいと強く願っていれば、やり直せた可能性があるという事だろうか?
しかし時間遡行するという事なのだろうけど、まず矛盾が生じるんじゃ?
意識が他の世界に移る時もそうだが、過去に戻ったとしたら《記憶》という問題が出てくるのでは?
明らかにおかしければ、そもそも今までそのことに気が付く人がいないはずがない。
-どうやってそれを確認するんだい?-
言われて気が付く。証明の手段がない。
だけど、別の世界に意識が移れば、別の世界の常識で動く人間が出てきそうな気がするのだけれど?
知り合いではなかった人間が突然、親しげに話しかけてくる、という事態も起きるだろう。いきなりチンプンカンプンなことを言い始める人たちも出るのでは?
-まずは記憶というところから話そうか-
-記憶は、基本的に肉体の方に保存されるんだ-
-例え記憶が過去に移ったとしても、戻る前の記憶は残らない-
-違和感は残る可能性があるが、それは《夢》として解消されてしまう-
-別世界に意識が移動したときも同じことさ-
-例えば、今すぐに君の意識が異世界の15歳の体に移ったとしても-
-移る前の記憶がないので移ったこと自体に気が付かない-
-それまで蓄積された記憶を検索することで何不自由なく生活できる、というわけさ-
-多少の既視感はあるかもしれないけどね-
説明されて、恐怖が襲ってくる。
言ってしまえば、今、この瞬間にも無限に俺がいるという事。大量の俺があるという事。
俺がこの瞬間に消えても、そのことに気が付くことすらできない
では、今、この場にいる俺の存在の価値は?
存在する理由は?
-無論、存在する理由はあるさ-
アザリーは話を続ける。幾分、気を使っているような雰囲気があるのは気のせいだろうか?
-《魂》の《枝》の記憶は本来、継承されない-
-しかし、魂が経験を積み上げることで得た強さは、《枝》から《幹》へと流れ込む-
-蓄積された経験は《幹》を昇華させる-
-枝一本一本にもそれぞれの価値があるのさ-
その言葉に少しだけ慰められる。
確かに使い捨てに近い存在でも
確かに吹けば消えゆく存在でも
それぞれにはそれなりに意味があるのだと。
つまらない《人間》であった俺にも意味はあったのだと、その事実が俺には救いでもあった。
少し落ち着くと新たなる疑問が出てくる。
記憶は肉体に保存される
ならば、今、俺はなぜ《人間》であった時の記憶を持っているのか
-それは簡単なこと-
-余りに君の《君のままである》という執着が強く、魂に記憶を焼き付けた-
-そして、本来、《幹》に吸収されるべき《枝》が他の《枝》に絡み合った-
-《枝》と《枝》が融合したのさ-
アザリーは言う。本来、役目を終えた枝は幹に吸収されるが、《極僅かに》俺のように執着が強すぎる場合に《枝》と《枝》が絡まり、融合することがあると。
それは本来ありえない現象
それは本当に極僅かな可能性
ほぼ0に近いような奇跡の出来事
それにより起こることは記憶の継承と
そして魂の濃度の上昇による特殊能力の獲得
おお
何という事だろう
一気にテンションが上がってきた
これって俺伝説の開始だろう?
それぞれの世界の、それぞれの存在は自動で動いていると思っていただくといいかもしれません。GAMEで言うところの自動操縦状態でしょうか
次回は、主人公の能力説明に入りたいと思います。