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プロローグ

初めまして、(わたくし)は"タマ”と申します。

この物語は私、タマの徒然なるままに記す日記のようなものでございます。生後1年にも満たぬ若輩者でございますが、以後よしなに。

さて、私が仕える鈴城家との出会いをお話させていただきます。




私と主様がたの初めての出会いはペットショップでございました。

その頃の私といえば、お恥ずかしい事に"売れ残り”と称される状況でございました。周りにいた同期たちはおろか、後輩たちにも先に仕えるべきお方を見つけ"かわれて"いきました。特にいつも私を見てせせら笑っていたチワワなんぞさっさとこの檻から抜けだしていきました。あぁ!あの時のアヤツの顔ときたら!思い出すだけで腹が煮えくり返るわ!

……ハァハァ、お見苦しい様を晒してしまいました。大変失礼いたしました。

そんな私と主様がたとの出会いは簡単でございます。主様がたが守衛を求められ私が選ばれたのでございます。え?もっと詳細が知りたいと?かしこまりました。もう少しお話しましょう。



そう、あれは春の気配を感じ始める頃の事でした────

私は犬種のせいやもしれませぬが、周りの者よりも大きくなり"かわれる”事を諦めかけておりました。売れ残りの者の末路など……もう想像したくもございません。

昼過ぎ頃でしょうか。店内がにわかにざわめき出したのでございます。

何事かとガラスに近寄り、外を見ますと美しきご夫婦が店内に入ってきた所でした。周りの若い者は我こそはと浮き足立っておりましたが────私には関係ないと思っておりました。

そのご夫婦……特に奥様が熱心にガラスの向こうからこちらを覗きこんでおりました。見れば見るほどお美しい。

旦那様は切れ長の涼しげな瞳、面長の顔、すっきりとした目鼻立ちで若い頃はそれはそれはおモテになられただろうと想像のつく凛々しいお顔をされ、奥様はつぶらなのに大きな瞳と色白の肌全てのパーツが小さくてふわふわとした柔らかそうな髪で縁取られたお顔はとても愛らしいの一言につきます。

とても中睦まじげなお二人にかわれる者はさぞ幸せだろうと私は他人事のように考えておりました。


しかし、運命のいたずらとはこの事ではございませんでしょうか。


お二人はなんと私の目の前でお止まりになられ、覗き込んでこられたのです。

「この子、可愛い~。豆柴だからかな、目の上の模様が眉みたいね」

いえ、貴方様の方が何百倍も可愛いです。そうお伝えしたくなるようなお顔が目の前にございました。

旦那様も釣られてのぞかれまして、

「うん、大きいしこの子にしよう」

と、頷かれておりました。

その時の私の衝撃といったら呆然自失の状態だったという一言で表せられることでしょう。羨望の眼差しを浴びながら私は一生この方々に尽くそう!そう思った時でした。

「名前は何がいいかしら?」

そう奥様は旦那様に話しかけられました。すると旦那様は、

「眉がマロっぽいから、田村麻呂(たむらまろ)で」

そうおっしゃられました。その瞬間周りの視線が羨望から同情へと変わりました。私も名前の変更を望みました。

その時奥様が、

「信夫さん、この子、女の子なのよ。眉からならタマ……はどうかしら?」

そう、助け舟を出していただきました。

「タマか……君が考えてくれたものだし、この子はタマにしようか」

旦那様もあの名前に特に思い入れがないのか、タマに変更していただけました。

この時、私には奥様が女神様の如く映りました。そして、奥様に一生を捧げる決意をしたのでございます。

ただ────意気揚々とかわれた鈴城家には我が物顔で跋扈する何匹もの雌猫がいたのでございます。


そう……


鈴城家────それは、女が寵を争う戦場でございます。






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