俺の能力は用途不明
突然ですが、言っておきたい。
俺には、人として少し外れた能力がある。
騒がしい教室の中、俺は一番後ろの校庭側の席で、今日も細々と生きる。
至ってずば抜けた取り柄も無く、むしろ落ちこぼれという無駄なレッテルを貼られた部類に入る。
俺は、ルーズリーフを一枚机上に起き、いつも使っているシャープペンシルを握る。
そして今日も、握ったシャープペンシルは震える。
……今日こそは、この能力が無くなっている事を願って。
「お前、今日の漢字のテストの勉強したか!?」
「はァ? やってる訳ねーじゃーん!!」
「漢字の勉強なんてしない感じ~……ってか!?」
つまらないギャグを飛ばす、隣でたむろするクラスメイトなんて今となっては日常茶飯事。
俺がこうやって机に向かっていて皆からは根暗だと思われてる事だって日常茶飯事。
根暗だと思われてる且つ、童貞ムッツリだと思われてる事だって、に、日常……茶飯事。
「それよりもさぁ、昨日のお笑い番組見たかよ!?」
「あー、見た見た! あれだろ、新人戦みたいなやつ!」
「お前らよくあんなの見れるなぁ。つーか勉強しろよなっ!!」
「は? お前が言える事じゃなくね!?」
「言えてる言えてるー!!」
そんな会話を他所に、誰の仲間の輪に入らず、俺は恐る恐るある文字を書いてみた。
書いた文字は、『現代文』。
今日の一限目の授業でやった科目だ。
だが、書いたまではいい。
問題は、それからだ。
どう頑張っても、徐々に上に浮き上がる『現代文』の文字。
結局いつもどうり、シールを剥がすかのような自然さでルーズリーフから離れた。
それを恐る恐る、シャープペンシルを持っていない指で突っいてみる。
指を近づけた時、微量に発生する風で、凪ぐ文字。
それは、されるがまま風に飛ばされていく。
…………って、ヤバイ!!
「っ!!」
俺はその微量に発生した風で呆気なく飛ばされた『現代文』の文字を、シャープペンシルを投げ出して掌へと収めた。
机から乗り出してまで捕まえたかったから、俺は勿論、少しだけその場に沈黙を与えてしまった。
隣で騒いでいた奴等が訝しげに俺を見ているという事にようやく気づいた俺は、おどおどしながらも席へ着いた。
そう。
これが俺の、普通の人間にはないような能力。
何気なく書いた文字や絵が、気を抜けば紙から飛び出して宙に舞ってしまう。
そんな厄介で尚且つ、かなり用途に困る能力を、俺は持っていた。