私、不可思議紗奈の記憶から書き起こしたもの。
東京から新潟へと向かう道中で、糸川雅人が投稿した動画の#0から#3までは見終わった。各動画を約三十分程に収めてくれていたのは、今となっては遅いかもしれないが糸川雅人に拍手を贈りたい。
#3まで見終えた段階で、私は彼に正式に依頼を受けるとDMに返事を返した。依頼料等を頂くことはないが、真相が解明された暁には動画にし□□□にて投稿させてもらうこと。その前段階として書面にて正式に契約書を交わさせて頂くこと。そして、必ずや私が真相を解明するという決意表明。まあ、諸々と伝えたが、意外にも糸川雅人からの返事はあっさりとしたものだった。勿論、感謝を述べてはくれたが、それよりも彼から訴えかけられたのはどうして自分の話を信じてくれるのか、全てが出鱈目だとは思わないのかという事だった。
現に、#0から#2までは数件程しかついていなかったコメントが#3から急激に増えたのだ。それも、いわゆるアンチコメントが大半だった。ここでいちいちそれらのコメントを書き記してもきりが無いので要約すると、嘘ついてんじゃねぇよ、という事だった。妻がおかしくなったという事も、そもそも動画自体も、全てはフェイクで金を稼ぎたいだけだろう。人の良心を金に変えるな。まあ、奴らが言いたいのはそんな事だった。
だが、私は微塵もそんな風に思わなかった。#0の動画に同席していた妻の虚ろな表情やあの仕草。そして、彼の怯えた眼。あれは、嘘なんかで作り出せるものではないと#0で確信し、#3で間違いなく彼らは怪異に取り憑かれていると確証を持った。
私はこれでも心霊現象や怪異を何年も取り扱い、真摯に動画投稿と向き合ってきた。インタビューの際は相手の目線に立ち、依頼があればどんな土地でも訪れた。そうやって培った知識と経験、それから私が持って生まれたものが告げていた。これは、紛れもなく怪異だと。なにかが彼らを呑み込もうとしていると。
なにも私に特別な力がある訳ではない。特段霊感が強い訳ではないし、降霊術のようなものを扱える訳でもない。だが、これだけは人より優れていると言える。私は、恐怖に鼻が利く。にわかには信じられないような話、あるいはその事象。人は普通それに触れた時、まずは真偽を探ろうとする。証言は嘘じゃないか。動画はフェイクじゃないか。エビデンスはしっかりとしているのか。ありとあらゆる側面からその城を崩そうとするのが人の性だが、私は対象者や、あるいはその近しい環境にいた人間の眼をみただけで、それの真偽が分かる。いちいち動画の繋ぎ目だとか、あらを探す必要などないのだ。けれど、そんな私でも二件同時進行で調査にあたるというのは、初めての経験だった。特段大きな理由があった訳ではないが、自分の性格上一つの事に熱中すると周りがみえなくなる節があると分かっていた為、得策ではないと考えていた。
だが、今回は違った。あまりにも魅力的な案件が目の前に、それも同時に転がってきた。これを解明した暁には凄まじい再生数になるというのは容易に想像出来た。私の動画は作品だ。作品の質が良ければ、自ずと再生数がついてくる。すなわち、金がついてくる。私は常に作品の質を求め、世間に提供したそれによって生みだされる金を愛している。それが、私の根幹であり、真理だ。私は、怪異に触れることが好きだ。金を稼ぐことが好きだ。好きなことで、好きなように生きていきたい。だから配信者になった。
車から降り、大きく息を吸った。新鮮な空気が急速に肺の中を満たしていく。新潟には初めて降り立った。夜に啼く鳥の歌声を聞いたと言う証言者と待ち合わせている。
「フィグいくよ」
「しゃあっ、頑張りますか」
#0の動画が投稿されてから七日後のことだった。




