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糸川雅人が投稿した動画 #3

投稿日時:2018/1/6

投稿者:糸川雅人

備考:動画ファイルを不可思議紗奈が文字起こししたもの。 


まるで空に手を伸ばすかのように直線上に伸びる木々が映像を支配している。枝の先から生い茂る葉の隙間から、細切れになった透明な陽の光が溢れている。微かに霞んでいるのは霧がかかっているからだろうか。そんなことを考えていたら、どこからか鳥のさえずりが聴こえてきた。


 場面が切り替わると、正面を歩く莉子の姿が映し出された。スキニーパンツにブラウンのニットシャツという出で立ちだった。どうやら、前回の動画から一週間が経ったらしく、二人は再び週末を楽しみにこのセカンドハウスに訪れたようだった。


「雨、あがって良かったな」


 雅人がそう呼びかけると、莉子が「ねっ、ほんと良かった。もう九月なのに東京まだ暑いけど、こっちは涼しいね」と振り向いた。何度みても綺麗な人だなと思う。顔のパーツパーツひとつがくっきりとしている為、素でいる時はクールな印象を受けるが、笑うと少女のようなあどけなさも垣間見える。


「滑らないようにな。さっきまで雨降ってたから」


 カメラが足元へと向けられ、雅人の靴が映る。一歩足を踏み出すと、ぱきっ、と枯れ枝の折れる音が響いた。どうやらこの辺りには枯れ落ちた枝や堆積した葉、それから土が広がっており、雨で湿っているのかひどくぬかるんでいるようだった。それに、映像で伝わりにくいがこの森には少し傾斜があるのかもしれない。先程から、カメラ越しに雅人の少しばかり荒くなった息が聴こえる。


「だいじょーぶ?」


 少し前を歩く莉子が手を振っている。


「なんとかな! でも、地面がぬかるんでるせいでさっきから足を取られてかなりきついわ」


 二人とも少し距離があるとはいえ森の中を歩くことが気持ちいいのか必要以上に声を張り上げている。


「莉子は大丈夫なの?」

「私は全然平気ー!」

「えっまじで? 俺もうタバコやめよっかな」

「だからやめなって言ってるじゃん。身体に良くないよー」


 そこでカメラが急に雅人の顔に向けられる。「今、ここで誓います。俺、タバコ辞めます! 未来の俺、吸ってたらお前を許さないからな」と妙な宣言が入った。もし吸ってたとしたら、未来のあなたが悪いんじゃなくて今のあなたが悪いんでしょう。と、突っ込みたくなった。


 それから映像が切り替わり、二人で木の幹に腰を下ろし深い森を眺めているカットが映し出された。カメラは何かで固定しているのだろうか。映像に乱れはない。それにしても素晴らしい所だ。映像からでも木々から放たれた清涼な空気感が伝わってくる。私も彼らみたいにぼんやりと自然に癒やされたいなと考えていた時、突如として動きがあった。まず立ち上がったのは雅人だった。「えっ、あれ人だよな?」と画角から飛び出した為に肩から下しか映ってはいないが、恐らく指を差し、莉子に示している。莉子もその先へと視線を結びつけると、「人だ。人だ」と立ち上がった。


「っていうかあれ、女の子じゃない?」


 カメラが向けられる。彼らが登ってきた方角だった。木々と木々の間に確かにそれっぽいものはみえるが、霧がかかっていてはっきりとはみえない。


「女の子だな。絶対女の子だ。白いワンピース着てる」


 肉眼ではみえたのだろうか。ズームアップされるが、白い、という事しか分からない。大きな木の幹の後ろに隠れるようにして、白いなにかがこちらを覗いてる。


「迷子かな」

「迷子だったらやばいよな」


 莉子がちいさく頷くと、二人は「おーい」と声を張り上げた。だが応答がない。霧のなかで、その白いなにかは微動だにしない。


「だいじょーぶ? お母さんとお父さんは?」

「確か、一キロ先に人口六十人くらいの村があるって不動産屋さんが言ってたよね? (はぐ)れたのかな」

「いや、分かんねえな。っていうか、なんであの子動かないの? 怪我とかしてんのかな? 俺、ちょっとみてくるわ。莉子ちょっとカメラ持ってて」


 カメラが、がさがさと揺れ動き、莉子の手に渡った。それから程なくして、雅人がその女の子の元へと駆け足で向かった。勾配はそれ程きつくなさそうだ。ゆるやかな斜面になっている。遠くの方へ行けば行くほど霧の濃度が濃い。雅人は、先程その女の子がみえたであろう位置に辿り着き、辺りをきょろきょろと見回していた。再び戻ってくると、「いなかったわ」と(いぶか)しげな表情を浮かべながら呟いた。


「いなかったの」

「いなかった」

「カメラではでもぼんやりとだけど映ってたよ。白っぽく」


 それは、私も確認した。確かに雅人が斜面を下っているところまでは幹の後ろに隠れる白いなにかが映っていた。だが、一瞬雅人の背で隠れ、再び画角が戻った時には消えていた。実際に肉眼で目にしていた雅人も同じように感じたのだという。


「いや、確かにいた気がしたけどな」


 左手で後頭部をかきながら雅人がカメラを受け取った。


「なんか気持ち悪いね。ねえ雅人、早く帰ろ」


 莉子がそうカメラ越しに訴えかけた時、森が唸りをあげるような音を放ち、木々がざわざわと揺れた。

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