表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

糸川雅人が投稿した動画 #2

投稿日時:2018/1/5

投稿者:糸川雅人

備考:動画ファイルを不可思議紗奈が文字起こししたもの。


 カメラは地面に置かれているようだった。画面下には芝が映っており、その先で雅人と莉子が両腕を広げ空に向かって伸ばしている。背景には家が映っている。青と白を基調とした、壁の装飾や屋根から伸びる風見鶏、細部に至るまで洗練されたデザイン性のある家だった。例えるならばそう。洋館だ。深い森のなかに、ぽつんと、青い屋根を持つ家が佇んでいる。


「今日はルームツアーをしまーす」


 場面が切り替わると、家のなかに入っていた。白い歯をみせて柔らかな笑みを浮かべる莉子が映っている。木製の、大きなテーブルに腰掛けているようだった。天井から吊るされているガラス製のシャンデリアはそんな莉子の肌を蜜色に染めている。外観もそうだが、内装も洋風だった。だが、やはり一番特徴的なのは背景に映る水色の壁だろう。確か、彼が最初に投稿した動画の背景もそれだった。


「この机は誰が選んだの?」

「えっ、知ってるじゃん」

「いいから。動画なんだから俺は知らない(てい)でいきたいの」


 莉子は「あー」と納得したように天を仰ぎ、再びカメラに向き直った。


「えっと、この家にある家具は全部私が選びました。一応インテリアコーディネーターをしているので」

「おかげでセンスのいい家に住めてまーす」


 カメラがゆっくりと回り、部屋のなかを映していく。彼の言っている通り本当にセンスがいい。食器棚や本棚のデザインもそうだが、所々に置かれている陶器やガラスの小物や花瓶まで洗練されている。リビングを一通り紹介したあとは、二人は部屋の奥へと足を進めた。浴室、トイレ、ゲストルームと紹介していきながら興奮してきたのか「やっぱこの家良すぎるよね」と莉子が唐突に笑みを浮かべる。


「確かにな。こんなにセンスいい家があんな破格の値段で売りに出されてたなんて、ついてるよな俺たち」

「ねっ、ついてるついてる」

「莉子、じゃあ次は二階紹介してよ」

「はーい」


 莉子がカメラに笑みを浮かべながらくるりと回った。墨に浸した筆先のような、つるん、とした髪がさわっと揺れる。手すり付きの、湾曲した階段を莉子が登っていく。歩みを進める度に、ぎしっ、ぎしっ、と木が軋む音がする。踊り場に出たところには小さなガラス窓があって、一瞬そこから深い森がみえた。この先には何があるの、と雅人が問いかけると、莉子が人さし指を突き立てた。


「二階には部屋が三つもありまーす。ひとつはちいさな部屋。これは今物置きに使ってて、もう一つの方は私たちの寝室に。えっと、それもカメラに映すの?」

「当然だろ? 別に誰かにみせる訳じゃないんだし。あくまでも俺たちと、未来の子供の為にだから」

「そうだね、じゃああともう一つの部屋は、なんと洗面所です。二階にもバスルームとトイレがあるの。便利でしょ?」


 それから映し出された寝室は見事な作りだった。キングサイズのベッドと、木製のサイドテーブル。ベッド脇には歪なかたちに湾曲したベッドランプがあり、こちらも壁一面が水色に染まっている。おまけに部屋のなかにはガラス窓があり、カーテンを開けると、これまた深い森が見渡せた。毎朝、目が覚めると同時に木々から放たれた新鮮な空気を吸えるのかと羨ましく思った。


 物置きとして使っている部屋とバスルームを莉子が紹介し終えた時だった。なにかを思い出したかのように「あっ」と雅人が声をあげた。


「莉子、俺たちまだ地下紹介してないよ」

「あっほんとだ。一階を紹介した流れでやるつもりだったのに」


 二人がけらけらと笑いながら階段を駆け下りていく。リビングの中央に置かれたテーブルを超え、更に足を進めていく。この先には確かゲストルームがあった。莉子はその扉の前で足を止める。


「実は、この細い扉。これはクローゼットかなにかかと思ったら実際は地下に続いてるの。初めて内見で来た時は、ほんと驚いた」

「俺も俺も」


 莉子が白い扉を開ける。ぎっ、とちいさく金属が軋む音がする。カメラが映す先は真っ暗だった。「莉子、電気つけて」と雅人が促し、あーはいはい、と莉子がスイッチを押した。オレンジ色のちいさな豆電球がぽっと灯る。これまでとは打って変わってこちらには青い壁はなく、コンクリートをそのままにしているようだった。それが、ずっと先まで続いてる。莉子が先導して降りていく。


「地下があるのは嬉しいけどさー、なんか怖いんだよねここ」

「莉子が物置きに反対したのそれが理由だもんな」


 莉子が一度頷いた。階段を降りたところで再び莉子がスイッチを押す。今度は白い蛍光灯が灯り、部屋のなかが映し出される。コンクリートの壁が剥き出しの、広い部屋だった。


「みての通り、ここは一切使われていません。一応今ある案のひとつは雅人が使う感じなんだよね?」

「まあね、俺のトレーニングルームにしようかなって。ってか、それくらいしか使い道ないよな? コンクリートも打ちっぱなしだし、これ相当古いよな?」

「古いと思う。ほら、こないだ私たちは居なかったけどこの辺地震あったじゃん。前にみた時には無かったヒビとかあんのよ。ほら、その辺とか」


 莉子がコンクリートの壁を指差すと、雅人が「あっほんとだな」と声をあげた。


「じゃあ、尚更俺のトレーニングルームにするしかないか。それか、卓球台とか置いちゃう?」

「やだ、こんなところで卓球とか怖いからいい」


 莉子は心做しか落ち着きなそうにみえた。確かに、画面越しからみてもこの部屋には異様な湿度を感じる。地上の空気よりもずっしりと重みの増した空気が、この部屋に沈殿しているような。白い蛍光灯の明かりがそう思わせるのだろうか。それとも、この剥き出しのコンクリートか。


「莉子、どうした」


 雅人が問いかけるのも無理はない。莉子の顔はついさっきまでとは比べ物にならないくらいに血の気が引き青白くなっていったのだ。莉子は、ふるふると首を横に振る。腕を交差した状態で、胸を守るようにして両の手のひらを自分の肩に添えている。


「でも、なんか」

「ほんとに何でもないの。ただ、私やっぱりこの部屋は好きになれないや。もう上に上がろ?」

「分かった」


 カメラが下がっていき、最後は足元を映した。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ