糸川雅人が投稿した動画 #1
投稿日時:2018/1/4
投稿者:糸川雅人
備考:動画ファイルを不可思議紗奈が文字起こししたもの。
画面いっぱいに水色の壁が映っている。その壁にはアンティーク調の、蜜色の光を放つ照明が掛けられている。ひかりの届く範囲によって壁の色の濃度が異なるその様は、どこか深い海を思わせた。
カメラがゆっくりと動き、部屋の対角に向けられる。そちら側は全面ガラス張りになっており、淡い陽の光が斜めに窓から差し込んでいる。ソファに腰掛けながらその光に目を向ける女性はとても美しい。すらりと長い手足に、指通りの良さそうな綺麗な黒い髪。鼻が高い上に顎のラインが綺麗な為、その横顔はどこか外国の血が入った人のようにみえる。彼女が莉子だ。
「莉子、こっちみて」
声がする。柔らかい、愛する女性にのみ向ける男性の声。恐らく、糸川雅人だろう。(以後、雅人と記述する。)カメラを向けられた莉子は「なに撮ってるの」とふわりと笑みを浮かべている。
「前から撮りたかったんだよ。ほら、いつか僕たちにも子供が出来たらさ、パパとママの若い時はこんな感じだったんだぞって見せられるから」
「えーなにそれ。だったら先に言っといてよ。メイクとかして綺麗にしときたかったんだけど」
「いや、これ毎日撮るから」
カメラがゆっくりと近づいていく。莉子は一瞬大きな目を更に見開いたが、今は呆れたような顔をしていた。ベージュのノースリーブから出る腕は細く白い。黒い髪が窓から差し込むひかりを吸い込んで、つやつやと輝いている。
「まあ毎日は言い過ぎたけど、定期的にかな。僕たちの新婚生活をこうやって記録しておけば、いつか自分たちでもあーこんな事あったなあって見返せるじゃん。だからメイクとかしなくていいよ。自然な感じでいい。っていうか、莉子はメイクしなくても綺麗だし」
「待って照れるんだけど」
莉子が両の手のひらで顔を覆いかくし、「今は撮らないで」とソファのうえで膝をたてながら身体をふるふると動かしている。背景には大きなガラス窓があり、その向こう側には大小様々な木々がみえる。深い森がずっと先まで続いているようだ。
「本当に買ったんだな俺たち」
雅人の放ったその声に、莉子は「なに急に物思いにふけってんの」と手のひらを下ろした。
「いや、なんかようやくだなと思ってさ。勿論内見には来てたし、それからも家具を揃えたりで何度も足を運んで来てたけどさ、今日が新居での初日な訳じゃん。だから、なんか感慨深いっていうか」
「あっ、でもその感覚は分かる気がする。私もさ、さっき窓からあの森をみてた時、こんな素敵なところでこれから生活出来るんだって感動してたの。なんか想像もしちゃった。いつか子供が出来たらさ、雅人はその子を連れて森に散歩にいくの。それを私は夕飯の支度があるからって見送って、この小窓から二人の背中をみたらどんな気分なのかなって」
「それが俺たちが一番求めてたものだもんな。絶対に実現させよう! 莉子、幸せになろうな」
カメラの向こう側から手が差しだされる。その手に、莉子の手が伸ばされる。
「うん、よろしくね雅人」
二人の手が、淡いひかりの中で組み合わさった。




