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糸川雅人へのインタビュー

──お聞かせ願えますか。あなたは#0、それから#8においても同じ言葉を口にしています。僕の家族を救うを答えを提示して下さい、と。今回私は少なくともそれを示したつもりでいます。でも、糸川様の求めているものは、恐らくそれとは違った。そうですよね?


 まあ、はい。そうですね。私は、あっやっぱり僕でもいいですか? すみません、やり直しますね。


 不可思議さんは、少なからず最善の策を提示してくれたのだと思います。足を使い、調査に時間をかけ、ある程度の確証を持った段階で僕に連絡をくれたんだと思います。それもただの一視聴者で、他人である僕の為に。感謝してます。いえ、本当に。


 ただ、僕が言ったあの言葉は同じ言葉ではありますが、#0と#8では全く意味合いが違います。#0の時は確かに助けを求めていました。どうにかして妻を元に戻したい。その一心でした。いや、分かりやすくしましょうか。二文字で表すと懇願です。で、#8に関しては正直これは()()として言いました。


──撒き餌?


 はい。僕はこれまでこの世界は美しく、素晴らしいものだと考えていました。莉子との新婚生活だって、今思い返しただけで頬が緩んでしまう程です。でも、実際は違った。動画を更新する度に何人からも寄せられる誹謗中傷の嵐。そんなの今の時代当たり前なんですけど、どこか対岸の火事というか、また誰かが炎上してるなあって感じだったんです。まあ要は、僕は本質から目を背けていたって訳です。実際に自分が当事者になってみるとよく分かります。こっちが本気で心を痛め、死に物狂いで動画を投稿し、そうやって苦労したあげく、やっとの思いで助けを求めているのに奴らは僕に何のためらいもなくひどい言葉を投げかけた。受け手がどんな気分になるかも考えずに。そして、そんな風に他人が追い詰められている時に群がってくる奴らも現れる。他人の不幸を食い物にし、真偽を確かめようともせずに誰かの放った言葉をあたかも事実であるように拡散する。そんな火の粉が自分に降りかかった時、ようやくみえたんです本質が。ああ、そうか、そういえばこの世界は腐ってたんだって。


 僕のなかには今、以前までの僕と、あれ以降の僕がいます。以前の僕は今でも妻以外のあいつらを今すぐに螺旋階段に連れていき、妻と二人の生活を取り戻すべきだって叫んでます。このなかでね。あ、た、ま、です。恐らく多くの人々がこの考えでしょう。不可思議さんも確かそうでしたよね。でも、あれ以降の僕はそうとは言いませんでした。こんなにも腐った世界だ。一人より二人、二人よりも四人、いやもっと大勢で助け合った方が生きやすいんじゃないかって。そう言ったんです。あの言葉をあえて#8で使いわざわざ住所までのせたのはね、この僕の考えに同意してくれる人間を撒き餌でおびき寄せ抽出する為です。えっ、ああ抽出した人間は僕の家族にするつもりでいます。あの螺旋階段でみたものを、僕は再現したいんです。


──あなた方は、あそこで一体なにをみたんですか?


 ああ、確かに映像には映って無かったんですもんね? まず聴こえたのは歌でした。綺麗な歌。しばらく耳を澄ませて、ようやくそれが鳥の鳴き声だと気付く程に綺麗な歌でした。そして、あの螺旋階段の壁には僕が映っていたんです。僕の人生が映し出されていました。僕に見えませんでしたが、莉子には莉子のものが映し出されていたようです。あそこにいる僕は泣き、笑い、時には怒ってはいましたが、最後は家族と共に同じ点に向かいました。そうです、死です。幸せそうに、生を全うした満足感で満ちたりた表情を浮かべていました。ああ、幸せそうだったなあ僕。全部が僕なんです。僕はこの場所で、この世界で、同じ意思や思考を持つ者を集め最期の時を待つつもりでいます。


 この考えに至るまでには、いろんな事がありました。どうして僕と莉子がこんな目にって、泣き叫び、壁を殴りつけ、しまいには夢をみているはずだって現実逃避をして頭を何度も柱に打ちつけたりしました。だけど夢は覚めなかった。当たり前ですよね? だってこれは現実だ。包帯はそのせいです。ほら、右手の小指と薬指。これなんてもう折れてるでしょ? あっ、痛っい。痛いなあもう。


 まあでも、正直僕は実行していれば骨折なんかでは済まないようなこともしていました。自分の力では妻を救うことが出来ないと分かり、(わら)にも(すが)る思いでSNSに動画を投稿すると、今度は世間から非難の声にさらされた。動画の日付でいうと#5を投稿した頃でしょうか。この世界のどこにも自分たちの居場所はない。そんな風に考えた僕は、この家に火をつけようとしました。もういい。死んでやろう。莉子も、あの螺旋階段から生まれたあいつらも、全員一思いにあの世に連れていってやる。僕は、そんな風に考えたんですね。実際に灯油を床にぶちまけました。動画内では辞めると宣言したタバコに火を付け、あとは落とすだけ。恥ずかしながらその時の僕は、僕は一人だ、って泣き叫んでいました。手のつけようがない事象に取り囲まれ、誰も助けてくれない。なんだか、孤独に殺されそうでした。莉子が床を這うようにして僕の元へとやってきたのは、そんな時です。


 どうした?と僕はそう問いかけました。莉子の髪も服も灯油まみれでしたが、それを気にかける様子もなく、床に座り込んでいた僕の膝のうえに顔を置きました。ぁあぁって、唸り声をあげてるだけでいつもなにを言っているのか分かりませんでした。莉子はもう喋れない。そんな先入観を持っていたのです。でも、あまりにも僕の目を見つめ必死に訴えかけてくるものだから口元に耳を近付け、耳を澄ませてみました。すると、莉子はある言葉をしっかりと発していたんです。その言葉に僕は救われました。今の僕を作り出している核と言ってもいいかもしれません。その言葉が鼓膜に触れたその瞬間、身体をなにかで撃ち抜かれたような衝撃が走りました。思わず、えっ、と聞き返した僕に、莉子は半分程しか開いていない瞼をひくひくとさせながらも眼差しをしっかりと僕に向け、こう言ったんです。


 ひとり、じゃない。わたしたち、ぜんいんかぞく。ずっとほしかったかぞくって。



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