糸川雅人が投稿した動画 #8
投稿日時:2018/1/11
投稿者:糸川雅人
備考:動画ファイルを不可思議紗奈が文字起こししたもの。
「莉子、まじでみるだけだぞ。下まで下りたらすぐに引き返す。いいな?」
二人はあのセカンドハウスの地下の部屋へと降りているところだった。白い蛍光灯の光がつめたさを纏いながら莉子の肌を染め上げている。額に巻かれた包帯が痛々しい。怪我は大丈夫だろうか。先程の問いかけに頷きもしなかった事も気になる。本当に納得したのだろうか。私の不安と疑問は、一瞬にして爆ぜた。地下の部屋に降り立ち、あの扉があった穴が視界に入ったその瞬間、莉子が駆け出したのだ。雅人がすぐに叫び声をあげ、肩を掴もうとする。だが、届かなかった。凄まじい勢いで螺旋階段を駆け下りていく。
「莉子っ! 駄目だっ! やめろって!」
雅人の放った声が岩肌に反響され響き渡っている。
「ごめん、ごめんね雅人。あの子が寂しがってる! 私、あの子の所に行かなくちゃ」
「ふざけんなっ!!」
これが女性の走るスピードなのだろうか。そう思ってしたう程に莉子の足は早い。もはや手すりに手を添えることなく、転ぶことなど恐れぬ勢いで螺旋階段を駆け抜けていった。雅人の荒い息遣いが聴こえる。くそっ。ああぁぁぁっ、と唸り声をあげながら懸命に莉子に追いつこうとする。時間にして恐らく十分程その光景が続いたが、遅かった。
莉子がふいに足を止めた。カメラが莉子の顔を映し出す。柔らかな、なにもかも吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
「莉子っ!!」
その声が響いた時には、莉子は岩肌に目を向けていた。最初は足先、次に付け根とまるで水に溶け込むように岩肌の中へと入っていく。だが、次の瞬間、「くそがっ!」と荒々しく雅人が叫び、莉子の左腕を掴んだ。雅人の手には血管が浮き上がり、無理やり引きずり出され、莉子の身体が再び現れた。その瞬間、私は自分の目を疑った。莉子の右手は、枯れ木のように細いちいさな腕と繋がれていた。その持ち主は、女の子だった。恐らく以前二人が目にしたというあの女の子が、ゆらりと岩肌から現れたのだ。私の全身の毛穴は、一瞬にして粟立った。女の子は、まず間違いなく生きている。莉子に手を握られながらも自分の足で立っている。けれど、その顔色は血の気を失ったように青白く、そして彼女の目は一切の感情を纏っていなかった。




