私、不可思議紗奈の記憶から書き起こしたもの
「おっけ、準備出来た。いつでも回していいよフィグ」
「はーいじゃあ同期しまーす。よーい、はいっ」
「今回私は、新潟県と長野県の県境にある──」
私はその時、まだ糸川雅人の件に関する調査という調査を行えていた訳では無かった。こういった場合、まず当事者と密に連絡を取ったうえで状況を把握し、それから現場を視察。周辺住民への聴き込み、参考文献や資料を読み漁り、それから当事者に会いに行くというのが私の調査の一連の流れだった。だが、小夜啼鳥の調査で県境にあるあの森に入った時、私はまだ彼の投稿した動画の#5を見終えたばかりだった。なにも手を抜いていた訳ではない。彼とはその間もメールにて何度かやり取りを重ねていたが、調査を依頼しておきながら彼の方がどこか一線を引いているというのか、「とにかく動画を全てみて下さい。それが一番の早道です」とそれの一点張りだったのだ。だからこそ、どんな些細な事でも見落としてなるものか、と私は動画のひとつひとつを文字に起こした。状況を頭のなかで咀嚼し文章にすることで、より彼らの身におきた怪異を整理出来ると判断した。
だが、正直当事者である糸川雅人にそんな対応をされるものだから、小夜啼鳥と彼らの身に起きた出来事この二つを天秤にかけた時、私の中では刻一刻と全貌が明らかになりつつある小夜啼鳥の方に傾いていた。夜に啼く鳥。この辺りで行方不明になった人たちは、かなりの確率でその鳴き声を聴いている。金縛りにあった者たちもいる。
証言を重ね合わせ何度も話題にあがった県境にある森には最初から注視していたが、新潟県と長野県の過去十年の行方不明者たちの動向及び目撃証言を照らし合わせた結果、実に興味深いことが分かった。証言者たちは県境だと話していたが、行方不明者たちの最後の目撃証言を分布図にしたところ、新潟県というよりは長野県の辺りに集中していたのだ。
私とフィグは、県境から長野の方に向かって森を進んだ。勿論動画は回したが、結局小夜啼鳥に出逢うことは叶わなかった。だから水瀬さんが口にしていた紗南村を訪れてみることにした。心霊、怪異を調査するものとして立ち止まる事は許されない。そんな私の何糞根性が事態を思わぬ方向へと進めた。
運命。私は、そんなものを信じてはいなかったが、この時ばかりは疑う余地は無かった。私の元に偶然舞い込んできた二つの案件。人から言わせれば真偽すらも疑わしいようなその点と点が一本の線で結ばれたのだ。
紗南村を訪れた時、いやその少し前に気付いてしまった。村の周りに群生している木々や風景が、糸川雅人の動画内に映るそれとあまりにも酷似しているということを。




