【SIDE B】 初心者の星
「ニンゲンが同伴するのなら、小鳥や小動物は手荷物と一緒で無料なんだ」
小鳥を二羽、左右の肩にそれぞれ乗せて、俺は別の星へ移動する為に見たことのない大きな箱っぽい乗り物に乗っていた。
パァムが冒険するならこの星ではなく、別の良い星があると言い出したのだ。
「星間連絡船だと安いけど時間がかかる。星間パスを使うと高いけど速い。ということで、ボンドが役所から貰った金で星間パスを使う」
「ということってなんだよ。パァムはただ乗りか」
「オレに逆らったら雷食らうぞ。ゲロまずルナーのボンドよ」
それはやだ。この箱みたいな乗り物の中で喰らったらどうなるんだろ。頭上に空は見えないが、乗り物通り越して俺だけに喰らうのかな。
「ゲロまずルナー?」
俺たちの会話を聞いていたそよちゃんが、なぁにそれと首を傾げた。
「到着するまで説明するよ」
「うん。ありがと」
にこりと小鳥が笑う。可愛いなぁ。いつも眉間に皺を寄せたパァムとは大違い。
「行き先は冒険レベル1の星で、島みたいな大陸一つしかねぇようなとても小さい星だ。冒険初心者たちが集うちょっとした観光地みたいになってる。大丈夫、危険なことはねぇよ」
パァムがそよそよちゃんの頭を撫でて言った。
「そよ、星間パス使ったの初めてなんだよ。すごい。星が高速で流れていくよ」
「実際はオレたちが高速でパスの中を流れて行っているんだけどな」
窓の外の宇宙を眺めてそよそよちゃんが感激に目を見開いている。
俺はというと、映画のような現実に戸惑っていた。まさか宇宙を旅することができるだなんて。前澤さんだってまだ月に行けていないのに、俺は地球と月を越える距離の星へと向かって、今宇宙空間を高速で移動しているのだ。こんなことってあるのだろうか。
デススター探そうっと。
それにしてもこの雀のパァム、まるで何度も星間パスに乗ったことのあるかのような落ち着きっぷりだ。かつて魔王を倒した雀の末裔ってやつの滲み出る威厳なのだろうか。
「一時間もありゃ着く」
移動中にパァムが俺のゲロまずルナーをそよそよちゃんに説明し、その間俺は地球人ではまず体験できない宇宙の空を窓から眺めていた。
「着いたぞ」
「おお」
「ほえ~。想像と違って、ちゃんとした街があって賑やかなんだよ」
星間パスを使って冒険レベル1の星に降り立ったそよちゃんの第一声はそれだった。
俺も驚いた。想像以上の賑わいだったからだ。パァムによると冒険者だけでなく、ちょっとした登山やアドベンチャー好きなどにも好まれるようになったため、近年観光地化して来たらしい。それにしても冒険とはかけ離れた賑やかさだ。
冒険に必要なロープや十徳ナイフなどが置いている道具屋や、登山用品が売っているモンベルっぽい店もある。武器屋には観光客の土産用としては少し野蛮な刃物や銃も置いてあった。こんな星だからか購入に身分証が必要だとも書いてはいなかった。
この有様に日本育ちの俺は密かに焦った。
殺傷能力の高そうな武器が普通に売っているなんて知っていたら、こんなに気楽に来なかっただろう。少なくともそよちゃんを連れて来ることには反対した。
こんなとこでよく冒険者同士で殺し合いなど起こらずに、平和に冒険していられるものだ。犯罪の温床になってもおかしくないのではないか。
いや、一度予期せぬことが起こってしまうと武器の販売が規制されることもあるから、関係者は最大限に注意を払っているのかもしれない。
思ったより物騒だと言おうとして肩にいるパァムを見ると、難しい顔をして翼で腕組みをしていた。
「どしたパァム。腹でも痛いのか。それとも怖くなっちゃったとか」
「バカいえ。冒険レベル1の星にふさわしくない物騒な店がやけに多いなって疑問に思ってただけだよ」
どうやらパァムも同じことを考えていたらしい。
「この星の管轄はどこの星の政府だったかな。星間連合でやっているんだったか。どちらにしても、ちゃんと統制ができているとは思えない。こりゃある意味無法地帯じゃねぇか」
「ちょっと怖いよな。あれ模造刀とかじゃないよね」
「ああ。帰星後の入管で星によっては殺傷能力の高い武器の持ち込みは違法行為とされるところもあるには違いないが、ゆるゆるの星だってあるにはある。どっかの政治屋や企業に利権があるから、こういった星も野放しにされているんだろうな」
何かが起こってからじゃ遅いのに、とパァムが舌打ちをした。
「冒険初心者の星だけど、ここで装備を調えて上位の星に行くって人もいるだろうから、そのためかもね」
俺の肩でクッキーを食べながらそよちゃんが言った。
なるほどそういう考えもあるか。上位の星に行くと危険すぎて店なんて開いていられないだろうしな。
「で、どこにいく?」
「どっか、祠とかダンジョンとか塔とか……」
「ホコラ?」
俺の回答にパァムが嘴の端をピクピクさせた。アホ面してアホみたいな解答をするなと顔に書いてある。
「とりあえず、初心者専用『雰囲気を掴むためのダンジョン』があるらしいから、そこに行ってみようよ」
そよちゃんがいつの間にか手に入れていたパンフレットをひらひらとさせた。
「じゃそこ行こう。ボンド歩け。お前は乗り物だ。オレの座席はお前の頭の上だ」
「そよは肩」
「はいはい。やだっつったら雷が降ってくるんだろ」
「もちろん」
「雀が~」
文句を言いながらも歩き出すと、そよちゃんが肩でさえずり始めた。物騒な武器も目に付くが、地球にはないまさに冒険の始まりの町という雰囲気に少しだけ楽しくなって、雲一つない空を見上げてひとり笑った。
「でも今日はもう時間が経っちゃったし、明日出発にしないか? 今日は街をぷらっとしてから、宿でゆっくり休んで明日に備えようよ」
「賛成~」
俺の提案にパァムとそよそよちゃんが同時に言った。なんだかこみ上げる楽しさがあって今度は皆で笑った。




