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勇者パァムは戦わない  作者: トトホシ


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【SIDE B】小鳥のそよそよ

 さて、爽やかな朝だが公園のベンチで一晩を過ごしてしまった現実。俺には家がない。段ボールすらない。

 改めて自分の置かれた立場に呆然とする。俺ってはたから見たら、放浪者というよりも浮浪者なんだな。きらきらと太陽の光を散らして光る噴水をぼーっと見ていたら、ちょっくら、と言ってパァムがベンチから降りてちょこちょこと歩きだし、勢いよく噴水に飛び込んだ。


「ちょ、パァム!」


 入水自殺かと驚いたが、水飛沫に羽を震わせている姿から見るに、どうやら水浴びをし始めたらしい。びっくりした。 


 いいなぁ。子どもや鳥は公園の噴水にダイブできて。俺も風呂に入るなり水浴びするなりしたいが、大人がやったら変質者だもんな。そんな俺はというと、色っぽくもなんともない雀の水浴びを眺めながら、水と一緒に買った朝ご飯のサンドイッチをひとり食べる。日光はとても気持ちがいいが、いつまでこの生活を続けなければいけないのだろう。

 水を滴らせながらパァムが長い水浴びを終えて戻ってきた。その間に俺はサンドイッチ二つを一口三十回噛んで食べ終えていた。


「ふう~。やっぱ水浴びは気持ちがいいぜ」


 ベンチに飛び乗って、ぶるんちょと体を震わせると滴が俺の頬にまで飛んできた。水に濡れた頭の羽毛がいがいがの栗みたいになっていて、まるで別生物のようだ。そのパァムが濡れたままで俺の肩に飛び乗って小さくくしゃみをした。


「ちょっと勢いよく浴びすぎた」

「寒くないか。太陽は出てるけど朝はまだちょっと寒いぞ」

「う~」

「朝ご飯は食べるか? おにぎり」


 先ほどスーパーで買ってきたおにぎりやらお漬物やらを広げてみるも、パァムはまだいいと言って俺の首筋にぴったりとくっついてきた。


「つめたっ」


 それでもパァムはぐいぐいと体をこすりつけ、ついには首の後ろに回り込んで襟元にすっぽりと嵌まり込んだ。


「う~。ちょっとあったかい」

「俺は冷たいっての」

「ところで」


 パァムが首もとでもぞもぞと動く。どうやらきょろきょろと辺りを見渡しているようだ。


「どしたの」

「さっきからなき声が聞こえねぇか」

「鳴き声? 鳥の鳴き声ならそこかしこで」

「ちげぇよ。囀りじゃなくて、悲しみの声だよ」


 そう言われて耳を澄ますと、かすかにどこからか子どもの泣いているような声が聞こえてきた。激しくではなく、めそめそ、しくしく、といった、悲壮感に溢れる泣き声だ。聞いているこっちまでも悲しくなってしまうような。


「あっちだ」

「どっちだ」


 どうやら行く先を指し示したようだが、いかんせんパァムは首の後にいるので見えない。


「あっち。トーテムポールのある散策路の方」

「あ~、あっちね」


 手つかずのおにぎりを袋に戻して言われた通りにそちらへ向かう。パァムの言う地点に近づくにつれ、はっきりとわかる泣き声が聞こえてきた。ただ、それはすすり泣きに近くてか細かった。



 公園を抜けて散策路の中に入る。もっさりとした林というわけでもなく、そこには膝に優しいウッドチップの敷かれた遊歩道があった。その傍ら、笹藪の一角から声が聞こえてきた。声の高さからして、どうやらまだ小さい女の子のようだ。


「そこだな」


 パァムの指し示した茂みをかきわけると、そこにはパァムと同じくらいの大きさの小鳥がいた。地味な雀とは違って色鮮やかな小鳥だった。体は青緑色の羽毛に覆われ、頭はたくあんのような黄色。翼は黄色と青を合わせた黄緑色で、全身は太陽の光に当たってツヤツヤと輝いていた。

 ちなみにパァムは太陽の光に当たっても輝かない。せいぜい茶色が赤茶色になる程度だ。

 そんな小さな鳥が小さな声でさめざめと泣いていた。

 小鳥は俺たちに気がつくと顔を上げた。くりくりとした大きな目が泪に濡れている。泪を拭いていたであろう翼もしっとりと濡れてきらきらと光っていた。


「あ……」


 小鳥が俺を見上げぷるぷると震え出した。目からはさらに大量の泪がぼろぼろとあふれ出す。あ、まずい。俺、明らかに怖がられている。


「なに怖がらせてんだよボンド」


 子供の扱いは苦手だとぼそりと呟きつつも、首もとにいたパァムがひょいと顔を出して、ぴょんと飛び跳ねて小鳥の前に降り立った。

 同じくらいの大きさの鳥の出現に驚いたのか、小鳥の女の子が大きな眼をさらに大きく開けた。


「まだほんの子供じゃねぇか。どした」

「おじさんたち誰」


 少女が小刻みに震えて不安げな声をあげる。


「俺はパァム。こっちの人間はシモベのボンドだ。でかいけど大人しいから安心しろ。嬢ちゃんはここでなんで泣いてたんだ」

「あの、そよ……わたし、そよそよ。えっと、悲しくて……」


 そう言うと、そよそよと名乗った小鳥の少女は再びぽろぽろと涙を流し始めた。


「どうしたどうした」


 パァムがおろおろとして、小鳥を見て、そして助けを求めるように俺を見上げて、また小鳥を見て、どうしたもんかと困ってしまってジュンジュンジュジュンと鳴いた。

 俺が怖かったのかな。威圧感を与えさせてはいけないとしゃがみ込むも、小鳥はチュリンチュリンと力なく泣いている。


「なんだ、なにが哀しい。言ってみな。ほれ、とって食ったりしねぇからよ」

「……いた」

「え?」

「おなかすいたの……」


 そう言って彼女は再び大粒の泪を流し始めた。



「どうだ美味いか」

「おいしい!」


 クチバシにお米粒をつけた小鳥が元気よく頷く。パァムが食べなかった朝ご飯が思わぬところで役に立った。


「嬢ちゃんそよそよと言ったか、腹が減って泣いてたのか」

「うん! もぐもぐそう! そよは渡りの途中でもぐお腹がすいちゃって墜落してもぐぐ、さらにお腹がすいてもぐもぐ泣いてたんだよ」

「墜落して怪我してねぇか」

「だいじょぶ。ご飯もぐもぐおいしい!」

「うん、慌てないでゆっくり食べような。しゃべるのはご飯飲み込んでからで大丈夫だからな」

「ありがとうもぐもぐ! これなに!?」


 そよそよちゃんが漬物パックに入っている赤い物体をつまみ上げた。


「ちょろぎだな。縁起物だ」

「ちょろぎ」


 復唱したそよそよちゃんにパァムが小さく頷いた。


「この地域の特産品だ。ちょろぎ」

「ちょろぎ」


 この星にもちょろぎがあるのか。地球ではおせちでしか見たことがないぞ。

 赤くて小さい、渦巻きというよりも、五段腹といったような形。だるま落としをくっつけた形といった方がいいのだろうか。細長い巻貝のようでもある。

 怪しい形ではあるがそよそよちゃんがちょろぎをぱくりと食べた。


「すっぱくておいしいね~」

「ちょろぎはだいたい梅酢で漬けて食すんだ。うめぇよな」


 こりこりと音を立ててそよそよちゃんが頬張る。

 よほどお腹が空いていたのだろう、さめざめと泣いていたときは死んでしまうのではと思うほどだったが、ご飯を食べると途端に元気になった。スモールサイズのおにぎりひとつでは足りないと察したパァムに命じられて、急遽近くのスーパーにおにぎりを買いに走った。

 なんでもいいと言われていたが、おかか、梅、高菜の三種類を選んだ。あの勢いではスモールサイズではなく、ニンゲン用のサイズを買った方がコスパもよいのではないかとも思ったのだが、パァムはあれでなかなか細かくて、味のバリエーションがあった方がいいとか言われそうなので、コスパ重視はやめておいた。


「どうだ、そろそろ満足したか」

「うん! ありがとう雀のおじさんとニンゲンのおじさん!」


 おかかのおにぎりを食べ終えて、高菜のおにぎりの半分を食べ終えた女の子は満足げに微笑んだ。パァムは残った梅おにぎりを食べながらそうかそうかとにこにこ顔で頷いている。


「腹一杯になったから、これで渡りの再開ができそうか」


 パァムの言葉にそよちゃんはぽろりと嘴から米粒を落として、哀しげな表情を浮かべた。


「そよ、脱落しちゃったからもう今年は無理なの。また来年頑張るよ」

「そうだったのか。親は? 来年までどうするんだ」

「う~ん、最悪ここで越冬するよ。そよはこう見えて独り立ちしているから親の庇護から離れているし、そもそも別の群なんだよ。今から群を追いかけても追いつかないし、今年は諦めるしかないんだよ」


 そう言ってとても小さいその鳥は手元に残っていたおにぎりを大切そうに咀嚼してから、これまた大切そうにごくんと飲み込んだ。その嚥下で哀しげな表情は一瞬でどこかに飛去ったようだ。


「ごちそうさま! パァムさん、ボンドさん、お米の神様!」

「俺のことはパァムでいい」

「パァム」

「うん。それで、特に行き場がないのなら一緒にくるか」

「え」


 俺とそよそよちゃんが同時に声を上げた。


「こんなちっせぇ女の子、放っておくわけにはいかねぇだろ。実はこいつも異星からの放浪者でな」パァムの視線が俺を指す。

「まぁ成り行きで、俺も暇鳥だし、こいつが元の星に帰るまで一緒にどこかふらふらしようと思っていたとこ」

「え~、異星から放浪者、初めて見たんだよ」


 そよそよちゃんが目を光らせて甲高い声を上げる。


「珍しいよな」

「あ、どうも」

「すごい~珍し~じろじろ」


 舐めるような二羽の鳥の視線にちょっと恥じらう俺。


「パァムたちと一緒にいていいのなら一緒にいたい! そよはとっても嬉しい。普段群で過ごすそよは一人は寂しいんだよ」


 この誘いはあまりにも唐突だと思ったが、そういえばあまりにも当たり前のように見ず知らずの俺と一緒にいてくれているパァムのことを考えると、こいつは面倒見が良い以上に世話焼き体質なのかもしれない。


「よろしくボンドさん。お世話になるよ」

「俺もボンドでいいよ、そよそよちゃん」

「そよもそよそよでいいよ」


 にこっと小鳥が笑った。小鳥特有の柔らかく高く響く可愛らしい声と笑顔に思わず世界に花が咲いたような感覚なり、俺とパァムは自然と笑顔になった。

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