【SIDE P】(o・Θ・o)最強の小鳥
「……の……とおり……ない」
どこからともなく声が聞こえた。ゼゼとセバスも背中合わせで剣を抜き、戦闘態勢のままであたりを見渡している。
「……貴様の思い通りにはさせない!」
「うっ、腹が……!」
アンガスが苦悶に満ちた表情を浮かべた。
「腹……」そよそよがはっとしたように呟いた。
「これはきっとマ王だよ」
「マ王? マ王はアンガスに食われて死んだんじゃ」
「アンガスの腹の中……」
そよそよが震える声で言った。
「うんこだよ! うんこが喋っているんだよ!」
ざわり。
一同が一斉にアンガスの下腹部に視線をやった。
そう言われてみれば、先ほど聞こえてきた声、マ王の声だ。
うんこマ王だ。
「ちなみによのお気に入りの雀グッズ……。右端の……、そう、それ、その敬礼をした雀のぬいぐるみだ……。勇ましい恰好をしているのに、本体が可愛いからもうどうしようもなく愛くるし……うご……うごご……く……」
腹の中にいるのにうるさいマ王だ。
「ど、どうしたマ王!」
「く、くさい!」
「は?」
「うんこくさい!」
そりゃあんた今うんこだからな。
「ぐう……だがこちらにはそよそよがいる。さぁそよそよ……」
「えっ」
突然の指名にそよそよの顔が青ざめる。
「よをうんこから復活させ……」
「やだーーーーー!」
今世紀最大の声を上げてそよそよがチュッパチャピスを振り回した。
「こちらってなんだよ! そよはマ王の味方じゃないよっ、マ王のいうこちらの人材じゃないよっ」
地下にそよそよの絶叫が響く。そりゃそうだよな。オレにその力があってもやだ。
「そよにそんなことする義理はないよっ。そよの名をうんこが口にするなっ」
そよそよが叫ぶ。
「あだー! あだだだだ腹が痛いっ、魔王が暴れているっ」
アンガスが絶叫する。
「うむむ……。まずはうんこになった我が身で貴様を内側から破壊してしまおうぞ」
うんこマ王がアンガスの腹の中からくぐもった声を発する。
「アンガスっ、うんこを出せっ、すぐさま排泄してしまえっ!」
ラーメン親父が公衆の面前で部下に排泄を促す。
「アンガスっ、出すなっ、そのまま消化してしまえっ」
そよそよが涙目で叫ぶ。
「そよそよ、残念ながらうんこはもう消化できず排出するだけです」
「やだーーーーーーーーー!」
「アンガスごと燃やすしかないですね」
ゼゼがホースを咥えてビールをぐびぐびと飲み始めた。
「燃やせっ、アンガスごと魔王を燃やし尽くせっ」
「燃やしたら燃やしたで大惨事になりそうだよな。悪臭が……」
「じゃあ凍らせますか。溶け時が怖いですが」
「うんこをその身に宿したまま死んでしまえっ」
そよそよは発狂している。
「……分かったよ」
急に静かになったそよそよの身体が光った。ルネを使うつもりなのだ。
「あれ、腹痛いのが治った……?」
アンガスがくりくりと首を傾げる。
「下痢止めのルネだよ」
「な、なにー」
アンガスの腹からうんこの絶叫が聞こえる。
「一生腹の中にとどまっていればいいよ」
「何のこれしき」
「むっ、いたっ、いたたたた」
マ王がまた暴れ始めたようだ。
「下痢止めのルネを強力にして便秘にしたよ」
そんなルネがあるのかとゼゼが感心したように頷いている。体内の水分量を調節するとかで、どうやら回復のルネの応用らしいが、そよそよはいつのまにそんな応用技を使えるようになったんだ。
「腹の中は下っているが、出口がふさがっている。永遠の苦悶だよ」
「あ、悪魔……」
ボンドが滝のような汗を流して呟いた。オレも激しく同意して頷く。
「お、俺は……いつか自ら魔王に……」
アンガスが苦悶の表情で地面に転がり、爪を突き立て、食いしばった歯と歯の間から涎を垂らしながらのたうち回る。
「やはりそんなとこだろうと思ったぜ」
「だけど残念だったね」
そよそよがボンドの肩の上からアンガスを見下ろし、くくっと小さく笑った。
「おまえの願望は未来永劫叶えられることはないんだよ」
「な、なにを……」
「今ここでくたばるのだからね」
「このっ……忌々しい小鳥め!」
「小鳥だよ。おまえ、まずは一度輪廻を巡ってくることだね。その時にまた一から頑張りな」
ふは……ふはははは!
そよそよの笑い声がダンジョンにこだまする。
誰もが震えたままその場に立ち尽くした。
「うぎゃ、うぎゃああああ、せめて最後に脱糞させろー!」
「させないよ。マ王も宿主の腹の中で朽ち果てることだね」
「なんと!」
そよそよの一言を聞いて目を見開き、絶望と苦悶の表情を浮かべたままアンガスは死亡した。多分一緒にマ王も。
死してもなお彼の尻の穴は緩むことがなかった。
通常死ぬと筋肉が弛緩して肛門付近にあったうんこは出てくるものだが、それすら許されない恐ろしいルネ、それがそよそよの持つ特別なルネということか。
アンガスは息絶えた。
「安らかに眠りな」
そう言ったそよそよの顔は天使のようでも魔王のようでもあった。
ずっとオレたちを守ってくれていたリンドブルムにも一旦帰ってもらうことにした。ボンドが疲弊している様子はなかったが、リンドブルムの顔色が徐々に白くなってきたからだ。ゲロまずルナーに慣れてきているのか吐く様子は見せなかったが、この様子ならしばらくは呼んでも出てきてくれないだろう。
アンガスの最期を見ていた親父がため息をついた。
「弱いな」
表情一つ変えずに親父がアンガスを見下ろしている。すかさずセバスが親父に手を伸ばす。




