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勇者パァムは戦わない  作者: トトホシ


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【SIDE P】(o・Θ・o)決戦の場がファンシー

「あれ、わかっちゃった?」


 両手を広げて芝居じみた格好でアンガスが笑った。

 つられて親父も竈に火に薪をくべながらはははと笑った。そして、その笑い声に応えるかのようにアンガスはぼんぼんとそのでかい腹をもう一度叩いた。

 ひゅっと空気を飲む音がセバスの喉奥から聞こえた。


「まさか貴様……」


 呆然とした様子でセバスがアンガスを見上げる。体も背もセバスより大きいアンガスは、ぐふふと口の端から嫌らしい笑い声を漏らしながら眼下の男を見下している。

 セバスが剣を握り直す。


「魔王を食べたのか?」


 はっ、アンガスが笑う。


「食べたけど? それがなにか問題でも?」

「貴様!」


 叫んだのち、ぎりりと音が聞こえるほどにセバスが奥歯を噛み締めた。


「共食いは重罪だぞ!」

「重罪ねぇ」


 歯の間から息を漏らしてアンガスが笑った。それにつられてか何がおかしいのか、背後にいたラーメン親父も肩を震わせて笑いを嚙み殺す。


「それで? 誰が俺を裁くんだ? この星にもう純粋な魔族はいない。その法は誰のためのものなんだ? 今も誰か守っているやつがいるのか。馬鹿なお前くらいだろ。だとしたらお前が俺を裁くのか? それとも俺の腹ん中にいる魔王様か?」


 なにも言い返せずにいるセバスがくっと小さく息を漏らす。それを見たアンガスが大きく口を開け高らかに笑った。ぬらりと光る犬歯が恐ろしい。


「俺は強い方につく。あのメンマの味がする人間は魔王のルナーを取り込んで人間を超越した存在となった。それとは逆に、かつての魔王はルナーを根こそぎ取られて力を失った。そんな弱い者に従う意味はない。その証拠に俺に食われるくらい弱くなっていたのだからな」

「ラーフェンはなぜこいつを配下に」

「究極のラーメンを作るために助手が必要だからだ」


 しばし黙って話を聞いていた親父が口を開いた。


「アンガスは力持ちだしセバスよりも頼りになる」


 親父の言葉にセバスの呼吸が一瞬止まる。何に対する怒りなのか、顔を赤くしたセバスの喉奥から獣じみた唸り声が聞こえてきた。怒りの行き場をどこに向ければいいのかわからないようで、今にも飛び掛かりそうな雰囲気だ。


「私よりもアンガスを選ぶというのか……たかがそんなことで美しい薬指をっ」


 セバスが怒りに震えて立ち尽くす。


「セバス、一緒に来い」


 親父が薬指の欠けた左手をセバスに差し伸べた。セバスが目を大きく見開いて親父を見つめ返す。


「俺のことが好きなんだろう? 俺と一緒に居たいのだろう? だったら一緒に来い。俺の配下となれ。アンガスと三人で究極のラーメンを作るんだ。そうすればずっと一緒にいられる」


 マ王の力を手に入れてなお成したいことが究極のラーメンの完成か。ある意味無害なんじゃないか。そんな親父へとすがるようにして腕を伸ばすセバス。

 だが、その時どこからやってきたのか空のビール瓶が、鈍い音をたててセバスの頭に直撃した。彼は悲鳴ひとつあげずにその場に倒れ込んだ。


「厄介なことになるのでセバスは置いていってください」


 ゼゼがげっぷをひとつしてから口を拭い親父を睨みつけた。


「見事に空だな。そんな急いで飲まなくても」

「中身入っているの投げるのはもったいないです」


 ボンドの言葉にゼゼが顔を赤くして笑う。

 そもそもセバスのことは期待していなかったのか、親父はそれ以上なにも言わずに差し出した手を引いて、スープをかき回すアンガスに近づいていった。


「強くかき混ぜてはいけないとあれほど言ったはずだが」

「俺にそんなこと頼むなよ、新しい魔王様。細かいことはわからねぇんだ」


 アンガスが歯茎をむき出しにしていやらしい笑みを浮かべる。

 そんなアンガスを眉間に皺を寄せて睨みつけてから、親父が鍋に手をかけ持ち上げたかと思うと、なんの躊躇もなくぐつぐつと煮えたぎったラーメンスープをごっごと飲み始めた。


「ヒエっ……でよ~!?」


 突然の暴挙を目の当たりにし、反射的に声が出た。 


「どうしたやめろぉ~!」


 ボンドも悲鳴に近い叫び声を上げる。


「の、喉やっけするでよ~!」

「やめてください、親父っ! 見ていて熱いですっ」

「わわわっ……」

「や、やめろぉ~、ひい~、はぁ~、そよちゃん、パァム、こおんなセンシティブなの見ちゃだめダァ」


 みんな親切から言ってやってんのに、止める言葉を無視して、ご、ごふっ、と咳き込みながらも親父が極熱スープを無理矢理飲み込む。


「こんな濁ったスープではいかん! しかし捨てるのはもったいない! なら飲むしかない……! ははは! 恐れ入ったか! 魔王の力を手に入れた俺は人間と違ってそれほど熱さは感じないのさ! ぶふっ、ごっ、あっ、あつ……っ、んぐふぃ……、い、今のうちに飲んでしまわないと、あっ、あつっ……しゃ……しゃめてしまってかりゃだとお前たちに飲まれてしまうかりゃな。はっはふうっ……この魔王のリュナーがたっふりとあふりぇ出したシュープを……」


「もうやめろー! やめてくれーラーフェンー!」


 いつの間にか復活していたセバスが絶叫する。灼熱のスープをすする親父の顔は閻魔大王のように真っ赤に染め上げられている。

 これぜってぇ魔王の力発揮されてねぇだろ。ベロ大火傷してんぞ。


「あっ、あふっん……あはぁ……まだだ……まだ残っている……がんばって飲むじょ……。ああんっ……ごっごっ」

「それ以上頑張るなでよ~、もう十分でよ~」


 しかし親父はオレ達の心配をよそに鍋底を舐めて、最後の一滴までもを飲み尽くしてしまった。

 まじかと呟くボンドの言葉と共に、親父が鍋から唇を離してゆっくりを顔をあげた。湯気のせいか汗なのか涙なのか鼻水なのかわからないほど、ぐしょぐしょに塗れた顔。真っ赤に腫れ上がった親父の唇が、豚の背脂で濡れそぼりてらてらと怪しく光る。熱さのせいで潤んだ瞳からつっと涙がこぼれる。

 それを見たセバスが頬を赤らめてごくりとを喉をならした。どうにかしてこいつ。


 親父が両手を交差させて自らの体を抱きしめた。


「熱い……熱いぞ……」


 そりゃそうだろうな。


「ちかりゃが……ぶひゅ……わきあがってくりゅ! くらえ!」 


 汗を噴き出させた親父が手のひらから、いやそれどころか、肘から下を炎で覆ってルネを発動させ、腕を振り回すようにして特大の炎を放った。その勢いで自らの服も焼けている。


「五十辛地獄ラーメン(必殺技名)!」

「おっと、そうはさせないぜ!」


 親父のルネはすさまじかったが、すかさずリンドヴルムが盾となって俺達を守ってくれたおかげで、今度はしっぽも焦げずに済んだ。直撃していたら、雀の丸焼きどころか炭になって食べる部分がなくなっていただろう。

 だが、親父のルネは恐ろしいほどに強かったのは確かだ。あのリンドブルムさえも素直に熱っと叫んで、両腕の皮膚に火傷を負ってしまった。


「兄貴のためならなんのその」

「ありがとうな、リンドヴルム。そよそよ、治癒してやってくれないか」

「ガッテンだよ」

「ふははは……素晴らしい力だ」


 リンドヴルムに無効化されたものも、明らかに親父のルネは強くなっていた。彼は手のひらを見つめて満足げに頷いている。

 その間にも服が焼け落ちてふんどし一丁になっている親父を見てセバスが「ウホッ」と言った。


「ここで邪魔なお前たちを消してしまいたいが、俺にも時間がないんでな。次のスープに使うネギを刈らねばならない」


 親父、言葉遣いも魔王っぽくなってきてんな。そういう意識になっちゃうのかな。


「ラーフェン!」

「おっと」


 親父に手を伸ばしたセバスをアンガスがの巨体が阻む。


「行かせないぜ。お前たちの相手は俺だ」


 立ちはだかるアンガスにセバスが剣を向けた。


「貴様なぜ魔王様を裏切った!」


「裏切るもなにもオレは強い奴に付いていくってさっき言っただろ。力を失ったかつての魔王に興味なんてねぇんだわ」


 そもそも元の魔王にも忠誠心などなかったというわけか。セバスが少しだけ驚いたように、しかし諦めたように小さく笑った。


「アンガスは雷撃と力業が得意だ」


 セバスが俺たちに聞こえるよう大声で言った。


「ゼゼ! 雷撃の弱点になるやつを頼む!」

「それよりも埋めちゃえば?」


 そよそよが可愛い顔してまたすごいことを言った。


「土中に埋めちゃうのが一番早いよ」

「そうですね。そよちゃん天才」


 ゼゼも頷く。


「ということは大地のルネで……」

「埋めていいのなら話は早いっ!」


 リンドヴルムが突然しっぽを振りかざした。そのままぶっといしっぽを天井の壁に叩きつけて、石でできた天井を崩しにかかった。


「なるほどさすがリンドヴルムだぜ! やることが派手だ」

「ガッテン兄貴!」


 リンドヴルムが親指を天井に向かって突き立てた。それを合図としたかのように、埃をたてて天井が落ちてくる。


「この召喚獣め! 私たちも埋まってしまうではないかっ」


 セバスがラーメンどんぶりを深くかぶり直して、今にも崩れ落ちんとする天井を見上げた。


「パァム兄貴とそよそよの姉貴の子分たち! オレの下に来いっ! オレはこの程度の天井の崩れなど問題ない! ただし今オレを召喚獣を言った奴は潰れろ」


「なにをー! 私だって貴様のような召喚獣の助けは借りん! ラーフェンの甲で十分だ!」


 セバスが強がりを言ってラーメンどんぶりをしっかと頭上に抱えて防御姿勢に入る。

 どかんどかんと轟音を立てて落ちてくる天井に俺たちは微動だにすることができない。


「召喚獣貴様ラーフェンごと……」

「やったか……?」


 そう思うのも束の間、がれきの山の頂上からころころと石くずがこぼれおち、次いでぼこっと黒く長い爪が生えてきたかと思うと瞬間拳が突き出た。


「頑丈ですね、思った以上に」

「……くそ……っ。油断したぜ」


 がらがらと崩れた石の山からアンガスが顔を出した。

 よいしょと言って石から這いだす体は血だらけになっているものの、その様子から察するに命に関わるような怪我はないようだった。頑丈すぎる。アンガスの巨体に守られて親父も無事だったようだ。


「しぶとい奴め。私が相手だアンガス!」

「まぁそんなに急ぐなよ。そうだ面白い物を見せてやるよ」

「アンガス遊ぶな」

「別にいいだろ。冥土の土産だ」


 親父が仕方がないなと言う風に首を振ってため息をついた。

 こっちに来いとばかりにアンガスが手を振って後ろの通路を指差し、そのすぐ奥にある背後の扉をガチャリと開けた。

 罠かと思われたが難しそうなことをできるようなやつとも思えない。やけに楽しそうな奴の様子にこの状況では大人しく後について行くしかない。

 そして、扉をくぐった先の状況に俺たちは驚愕した。


「なんということだ……」

「ここは」

「雀のぬいぐるみ……グッズでいっぱいだ」

「で、でよ、なんだかこれって……」


 思わず狼狽えるオレ。


 そう、ここにあるものは全て雀グッズだ。ぬいぐるみにキーホルダーに缶バッチ。内部が光る雀ライトにアクリルスタンドにタオル……。

 そしてこの雀グッズの全ては……。


「パァムにとっても似ている!」


 ボンドが声を張り上げた。


「ボンドあなた雀の違いがわかるんですか?」

「むしろ分からないのかこのモグリめ!」


 ボンドが叱るとゼゼがすみませんと言ってビールを飲んだ。


 オレたち雀にはよくわかるが、確かに一見して分かるようにここにあるグッズはすべて雀のオスだ。しかも可愛いオスではなく、渋いいけおじ系のオス雀。

 おそらく自らが敗北した勇者雀のグッズなのだろう。

 マ王はかつて自らが敗北した雀を克服しようとしていたのだろうか。この雀グッズに千年以上もの間囲まれて耐え続けることで。


「すげぇだろ」


 その声に振り向くといつの間にか手にどでかい剣を持ったアンガスがいた。ここで決着をつけようというわけか。


「こんなファンシーな場所で戦えというのか!」

「魔王様はただ眠っていただけではない。雀を克服しようと頑張っていたんだよ」

「頑張っていただと!?」

「わかったらお前ら死ね、邪魔だから」


 アンガスが大剣を振るう。いち早く反応したセバスがアンガスの大剣を自らの剣で受け止めで薙ぎ払う。


「ボンド! 召喚獣を呼べ! ユキムシで良い! 攪乱するんだっ」

「遅いぜっ」


 地面を蹴り上げこちらに突進してくるアンガスがあまりに速く逃げることもできない。


「あばよ勇者さまっ!」 

「パァム!」


 ゼゼがルネを解き放ったのが目の端に見えたがそれよりもアンガスの動きが速かった。

 ボンドごと肩にいるオレも叩き切られる。そうと思ったが、アンガスが振り上げた剣を俺の頭上の寸でで止めた。剣を持つ手がぶるぶると震えている。


「どうしたアンガス」


 余裕綽々の表情で戦況を見守っていた親父が訝し気に顔を傾けた。


「ちくしょう体が動かねぇ!」


 音を立てて剣が地面に落ち、身体を震わせたままアンガスが咆哮を上げた。

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