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勇者パァムは戦わない  作者: トトホシ


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【SIDE P】(o・Θ・o)ソーメンの力

 オレの疑問を無視して、天を見上げてから地にひれ伏すを激しく繰り返しているボンドの周りに光が満ちていき、鮮やかな黄金色の魔法陣が描かれる。風がより一層強く吹き上げて土埃が舞う。あやうく吹き飛ばされそうになり、そよそよの背中に手を当ててゼゼの首の後ろに回り込み、服に指を食い込ませる。ぷりぷりと尾羽が上下に舞う。


 チョコバナナ?


 不安で胸をいっぱいにしているオレをよそに、ボンドを取り巻く光がますます激しくなる。

 固唾をのんで魔法陣を見ていたのだが、ぽんと出てきたのは黄色いシューにチョコレートのかかった甘いお菓子エクレアだった。


「あ~! チョコバナナちゃん!」

「あっ、そよそよさんお久しぶりです~! ボンドさんも久しぶりですね!」

「うん、久しぶり。って再会を喜んでいる場面でもないんだけどさ」


 エクレアがしゃべっている。知り合いなのだろうか。

 オレの知らない間になに仲良くやってんの。ちょっと疎外感チュン。

 というか、召喚体でエクレアとかなに。エクレアなのにチョコバナナってなに。こいつ戦えるのか。俺より長くてその分大きいっちゃ大きいが、いかんせんそのなりから強そうには見えない。


「いや~、暇だったんできちゃいました」

「暇だから!?」


 さすがのボンドも叫び声をあげた。ゼゼとセバスは無言でチョコバナナとやらを見つめている。化物達もどこかそわそわした様子で攻撃の手を休めてそれを見ている。


「えっと私、なにをすればいいのでしょう」

「今戦闘中だから、このでっかいクリーチャー倒して頂きたいのでございます」

「あ~それなら、ほ……」


 チョコバナナと呼ばれた召喚体がモンスターを見あげた次の瞬間、それはサクっと音を立てて化物のでかい口の中に消えていった。悲鳴を上げる暇もなかった。

 瞬間さっと背筋が凍る。その素早さと予想しない展開に誰もが凍り付きなにもすることができず、もごもごと動くモンスターの口元を見つめるしかなかった。

 ごくんと嚥下する音がダンジョンに響いた。


「あっ」


 そよそよが声を上げた瞬間、途端モンスターが白目を剥いて暴れ出した。口元から首にかけてをかきむしってどでかいしっぽをぶんぶん振り回して周りの壁をめちゃくちゃに破壊していく。なにが怒ったのか理解する間もなく、モンスターは口の端から涎をたらしつつ地面に崩れ落ちた。そのままぎゅうぎゅうとうめき声を上げて悶え苦んでいる。


「どうした。なにが起こっているんだ」

「よくわからないですが今は好機です。セバスとどめを」


 うろたえるセバスに対し冷静なゼゼが指示を下す。はっとしたように彼は顔を上げて頷き素早く剣を振るった。

 セバスの一撃でモンスターはあっさりと動きを止めて生き絶えた。だが、チョコバナナは戻ってこない。全く役に立たない召喚体だった。


「一体どうしたってんだ。食べた途端に苦しみだして。あいつまさか毒性の召喚体だったのか。見かけによらず……」


「チョコバナナちゃん……」


 そよそよが項垂れる。


「渋かったんだね」

「んっ?」

「エクレアナマコのチョコバナナちゃんはね、渋いんだよ。美味しくないの」

「つまり渋くて暴れていたのか」

「そうだと思うよ。しかもすごく不味いらしいんだよ。その見た目から何度も食べれられてるけど、召喚体だから大丈夫なんだよ」


 召喚体として召喚された者は、魔法陣を通り抜けている限り死なない。召喚が解けると召喚される前にいた場所に戻ることとなる。もちろん傷ひとつない状態でだ。


「見かけによらず強いよチョコバナナちゃんは。人気もあるし本来忙しいナマコだからなかなか来てくれないし。ボンド気に入られたね」

「そ、そうなのかな」


 えへへとボンドが頭を掻く。

 クソまずルナーの召喚士の呼びかけに応えてくれるくらいだから、ボンドが気に入ったのか悪食かのどっちかだろう。

 ボンドは他の召喚士とは一線を画す存在になるかもな。倒れているモンスターを見てオレはひとり頷いた。


「ボンドの召喚士としての力、しかと見せてもらったぞ」

「はぁ……」

「素晴らしかったな」


 セバスが地べたに座っているボンドの手をすっと引いて立ち上がらせた。


「被害を最小限に押さえるための敵に合わせた召喚技。ただ力任せに強い奴を呼べばいいだけではない……。その精神と技量、すばらしい」

「おほっ!?」


 セバスにアゴクイをされて変な声を発しつつボンドは顔を赤くして目をきょろきょろさせている。


「私は貴様を真の仲間と認めよう」

「うへぇっ? うホっ?」


 セバスの青い瞳がボンドの心の奥底をじりじりと射抜くように見つめている。ねっとりと、と付け加えた方がいいかもしれない。新しい扉が開きかけている予感。


「と、とりあえず、先に進もうか」


 くるりと踵を返してそそくさと歩き出したボンドの、同じ方の手と足が同時に出ているのは何故なのか。開き始めた扉を再び閉めてボンドが大股でざくざくと先を行く。その背中を目を細めて見つめるセバス。お前にはラーフェンがいるんだろうが。いや、オレの考えすぎなのか? ぢゅんぢゅん。


「待ってボンド!」


 歩き始めたボンドの背中に向かってそよそよが制止の言葉を投げかける。


「ん?」


 立ち止まり振り返るボンドの行く先に獰猛なモンスターの息遣いが聞こえた。


「ふたりとも油断しないでください、まだきますよ」ゼゼがすらりと剣を抜いた。

「休肝日……返上します」

「まさか……よせ! ゼゼ!」

「だめっ」

「ぐびぐび」


 つか休肝日だったのか。

 ゼゼが背中に背負っていたビールサーバーのホースを手に取り、自然な仕草でホースの先を口に咥えた。

 まさかというかやはり。彼女はそのまま手元のレバーを引いてホースから直接ビールをぐびぐびやりはじめた。

 喉が数回動いた後ホースからちゅぽんと音を立てて口を離し、ぷはっと息を吐きサーバーを背負ったままの状態で戦闘姿勢に入る。

 やはりプロだこいつ。


「ゼゼ、やめて、アル中で死んじゃうよ!」

「大丈夫! 肝臓はまだ痛くない!」

「肝臓は物言わぬ臓器だよ!」


 痛くなってからじゃ遅いんだよ~! というそよそよの悲痛な叫びを無視してゼゼがゲフーと息を吐いた。


「こいこいこい……きたきたきた……」


 中腰で鼻息を荒くしながらゼゼが拳を握りふおおと息を巻く。


「青葉を思わせるさわやかな香りと、青汁を思わせるほのかな苦み。そしてエールのコク。この星でしか作ることのできない素晴らしいビールです。そして」


 ゼゼがもう一度ホースを加えてぐびぐびと飲み始めた。こいつただ飲みたいだけだろ。

 そんな彼女を見て、天井のモンスターたちも顔を見合わせてざわざわ言い初めている。お前らこんな狂った奴と戦うんだぞ、逃げるんなら今のうちだからな。


「そのおビールの効果はなんてーの」


 そよそよがゼゼの口に咥えられたホースをつつく。


「ぐび……ぷは……ふむ……、このコク……これは……出ました! これは風のルネを発動するおビールです!」


 ふう、とゼゼが深呼吸したかと思うと、どこからともなく風が吹いてきた。そのまま手を振るとより強く風が吹き荒れて、目に見えない刃が天井にいたモンスターの首を切断した。風の物とも血の音ともわからない、なにかが吹き荒れる音を地下に響かせて、ごとんと首が石畳の上に落ちた。飛び散った血がボンドの靴を汚して、彼はひっと声を上げた。


「かかってこい! こわっぱども!」


 右手に風のルネを、左手にビールのホースを。今のゼゼは最強だ。

 ゼゼがルネを使い、セバスが剣を振るう。その横でボンドが怪しげな召喚体を召喚して、ひっそりと役に立っている。そして、戦いの中で負傷した仲間をそよそよが治療し、彼らは再び戦い始める。モンスターが次々に倒れてゆく。

 そんな中で俺は一人、袖に垂れ下がったソーメンをふりふり、ぴよぴよ歌って応援をしていた。


「蘇りし魔族の血を侮ることなかれ! 喰らえ必殺ダークヴァーミリオンアタッーック!」

「風のルネで切り裂きますぐびぐび」


 ゼゼがルネを発動させる。アルコールはすでに飲んでいて発動できる状態の筈なのだが、あえて追加でおビールを飲む。


 がんばれ。ソーメンふりふり。


「来てくださる方がいらっしゃれば、よろしくお願いいたします。目の前の敵を倒して頂きたく候。かしこみかしこみ~」


 ボンドはまぁ、これが標準。頑張れ頑張れ。ふりふり。


「ゼゼ、足から出血してるよ! お酒飲み過ぎるから血の吹き出す勢いよすぎるよ! 治療するからちょとだけ大人しくして」


 そよそよも怪我をした仲間の治療に奮闘している。がんばれ。ふりふり。

 ふりふり。ふりふり……。俺って必要か? 応援をやめると袖のソーメンは動くこともなく、ただただ寂しげにぶら下がっているばかりだった。


「パァム! なにしてるんですかっ」


 ぼーっとしてたら突如ゼゼに怒られた。


「えっ、あっ」

「ぼーっとしないで!」

「あの、その、俺、なにをすりゃ……」

「早くソーメンふりふりをするんだっ」

「んっ?」

「早く応援をしてくれっ! やる気が出ない!」

「え、あ、はい」


 ふりふりふり。


「うおお! 俄然やる気が出てきた!」

「なぜだ、自然と力がわき上がるような……。これがチャームの……勇者の力というものなのか」


 本当にか。チャームすごい。ふりふりふり。


「パァム万歳!」


 ボンドが召喚士という立場を忘れてモンスターに素手で殴りかかる。それが致命傷となって最後のモンスターが砂埃を立ててどうと倒れた。まさかチャームには味方の攻撃力増加の効果があるというのだろうか。


「ふう……全て片づいたな」


 額の汗を拭ってボンドが深く息を吐いた。


「みんな怪我はない?」


 そよそよの言葉にみんなが大丈夫だと頷く。


「それにしてもすごかったな。まさかこれほどまでとは」


 マントの埃を払ってセバスが言う。


「想像を越えていました」

「すごかった……パァムのチャームはすごい」


 んっ?


「まさかあのふりふりでこれだけ力が出るとは思わなんだ」

「ソーメン装備でチャームの効果が倍増していたんだよ」

「パァムの為なら頑張ろうって思ったもんな」


 なるほど、どうやらやはりチャームのルネの効果らしい。

 味方のやる気を強化して敵の戦意を削ぐチャーム。すごい。


 オレ、ちょっとは働いていたと思っていいのかな。

 ふりふり。

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