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勇者パァムは戦わない  作者: トトホシ


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【SIDE B】思ってた職業と違った

 そして俺は今、とても怒られていた。


「この、バッカチンがッ」

「あいたっ」


 頬をひっぱたかれて思わず二三歩後退る。叩かれた頬が次第にじんじんと熱を持つ。


「テメェはなんっにもわかってねぇっ」


 社会人になってこれほど怒られたことはあっただろうか、いや、ない。子供の頃もない。親父にですら叩かれたことはないのに。


「テメェは召喚士はどうあるべきかってこと、なーんもわかってねぇっ」


 叩かれた頬をさすりながら考える。召喚士はどうあるべきか、ということを。

 俺の考える召喚士というものは、細身で威厳があってちょっと頭が良さげで肉体よりも精神がより強い人間。という感じだろうか。しかしどうあるべき、なんてことは考えたことはない。


 う~んと唸っていたら、再び鉄拳が飛んできた。


「このッ、大バカッチンがぁ~ッ!」

「あいたぁっ」


 ばちこーんと先ほどとは逆側の頬を叩く音が蒼穹に木霊する。同じところをぶたないなんて優しい。

 しかしぶたれて腹が立たないわけもないので腕を振り回して抗議をする。


「ぶたないでっ」

「おんどりゃあどういう教育されとんかワレー!? 呼ぶだけ呼んどいて挨拶なしかボケー! そら誰も来んわ! 普通ヒトを呼ぶなら『是非来てくださいよろしくお願いします』で、来てくれたんなら『来てくれてありがとうございました』だろがアホー!」

「え、召喚獣に挨拶とか必要なの」


 ゲームでわざわざそんな召喚獣にいちいちお礼を言っているのを見たことないけど。それを言うと目の前にいるパァムの顔が真っ赤に染まった。


「おまえ、モンスターか」

「へ?」


 雀の体がふるふると震える。


「おまえは……モンスターなのか?」

「いや、俺は人間で……」

「おまえはモンスター召喚士かって聞いてるんじゃワレー!」

「ギエ~」


 再び彼の怒りが炸裂して今度は往復ビンタをされた。


「来てくれたら感謝の言葉述べるのが普通だろうが! あ!? その前にお越しくださいの礼儀がなっとらん奴のとこに来てくれるはずないけどな! 親の顔が見てみたいわ! 小学生だって挨拶できるぞこのモンスター召喚士がっ」


 言い終わるが早いか、今度は脳天にパァムの渾身の蹴りが炸裂する。よろめいた俺は尻から地面に倒れこむ。


「いってぇ!」

「痛くしとるんじゃおんどりゃあ」


 尻が痛くてもんどりをうつ俺を木の上から見下ろしてパァムは言った。


「世間一般の情報弱者が思っているのと違って正当な召喚に古代語は必要ねぇ。どうせ召喚される方も古代語なんてわかりゃしねぇ。特別で高度な専門知識も必要ねぇ。必要なのは感謝と尊敬の心だ。もう一回、今オレが言ったことを踏まえて召喚してみせろ! テメェみてぇな礼儀がないやつでも、心優しいアルパカくらいなら来てくれるかもしれねぇしな」


 反撃しても意味がないというよりも、反撃してもどうしようもない。なにも知らないこの世界で、俺はこいつに縋るしかない。そう自分に言い聞かせて、しぶしぶ立ち上がる。


「じゃ、やります」

「おう」


 今まで言われていた通り、深呼吸して眉間と鳩尾に全てを集中する。体が熱くなっていくのを感じる。ここからだ。


「我が呼び声に応えて、いでよ! アル……」

「バッカチンが~」


 パァムが叫ぶが早いか額に嘴を突き刺され、大事な部分にブスリと穴を開けられた。思わずあべしと声が出る。


「ここはブッダの眉間のボッチの大事なところ!」

「それは知らん! あのな、イデヨじゃねぇよ! まじでばかか!? テメェそのなりしててなんだ、脳みそ中学2年生か!? オレの言うこと聞いてたぁ!? 出てきてくださいお願いします、だろ! なんならひらにひらにだろ!」

「え、で、でも召喚獸呼んで……」

「召喚……じゅううううう~!?」


 パァムがものすごい顔ですごんでくる。俺はものすごい勢いで引くしかない。


「召喚『じゅう』!? 獣ってことか? は!? テメェは何様? テメェは召喚『ケモノ』を使う高位の存在か? は~!? そういう考えのテメェこそケモノだってんだよ!」


「で、でもゲームでもだいたいそれで……」

「……は?」


 俺の言葉にパァムはじり、と小石を擦る音を立てて後ずさった。詰め寄ってくるかと思ったので逆に焦った。


「まじ……まじ地球人やべぇ。ゲームと現実混同してる。近づかない方がいいかもしれねぇな……。まじ、いるんだ、現実とゲームの境がないやつ。やべぇやつ拾っちまった」


 ぶつぶつ、と呟きながらパァムが俺と距離をとる。


「いやいや、だってゲームだったらわざわざ召喚獸に挨拶なんてしないし」

「だってじゃねぇよサイコパス!」


 言い訳をすべく詰め寄った俺に、いつの間にか手にしている棒を振り回してパァムがホバリングしながら怒鳴る。


「テメェのお願いでわざわざ自分の時間割いて来てくれたやつに上から目線たぁどういう了見だ!」


 ぶんぶんと木の枝が目の前で振り回されて、今度は俺は後退る。


「あぶなっ、枝が目に入るっ」

「入っとけ、こんのたくらんけ!」


 パァムの怒りはとどまることを知らずに、同じくとどまることを知らない時の中でぶんぶんと枝を振り回し続けた。


「なーんの力もないなーんもできないうんこなワタクシめのためにあなたさまのお力をお貸しくださいご主人様、だろうがこのうすらバカ! ああ!?」

「はぁ~い。申し訳ありません……」


 俺は頭を垂れて、パァムが棒を振り回すままに振り回し俺の頭を叩くことに、じっと耐えていた。


「あのなぁ、召喚体としては頼まれたから来るわけ。それが戦いの場であったらどうよ? 上から目線の奴の代わりに戦ってやりたいと思うか? 思わんだろ? むしろ死ねってなもんよ。召喚される側ってのはな、善意でやってるんじゃねえんだわ。仕事だからやってんの。し・ご・と。わかるか? お互い気持ちよく仕事したいだろ? んで、いくら仕事だって言っても、金もらってんだから来てくれるのが当たり前、って態度取る奴に百%のパフォーマンスなんてしてやるか? 同じ金を貰っていたとしても、敬意を払ってくれる奴には気持ちよく仕事ができるわけ。なんなら火力1.2くらい増しとこうかなとか、今度呼ばれても嫌がらずに来てあげようかな、って思うわけ。わ・か・り・ま・す・か」


 べしべしと打ち付けられた木枝が頭に刺さる。


 確かにわかる。俺の中で召喚士ってのはゲームで得た知識だけで、MP減らして呼べば来てくれるもんだとばかり思っていた。そこの召喚獸には心はなかった。


「わかりますか、って聞いてんだ」


 返事のない俺の頭をパァムがぽこぽこと枝で叩く。言っていることはわかるが、それにしてもこいつは俺を叩きすぎだ。

 くっそ。

 スズメだからって。

 ちょっと可愛いからって調子に乗って。


「わかったらそんなぽこぽこ叩くなよ!」

「わかってんの? はぁ~、脳味噌入ってない音がしてるけどなポコポコ」


 身の入っていないスイカの音と一緒だな、と罵りながら、パァムは枝で俺の頭を叩くことをやめない。木魚のように頭がポコポコと音を立てる。

 さすがに頭に来て枝を振り払った。


「おまえ、いいかげんにしろよ」

「ああ!?」

「雀のくせに!」

「おう! 雀だよ! テメェも人間のくせに覚えが悪いな! あ、人間だからか」


 ヂュヂュヂュヂュヂュ~ン、とパァムがくちばしを大きく開けて晴天に笑う。


 チックショー。


「分かってんだったら言ってみろ。召喚士と召喚体の契約関係。どうやって召喚するのか、仕事の契約とはどういう風になされているのか、言ってみろー!」

「え~、わかんないし」


 俺の返答に、羽毛で覆われているはずのパァムの顔面に赤筋が走る。羽毛を通り越して見える赤筋に、さすがに怒りの頂点を感じる。

 とっさに頭を抱えて体を丸めてぶるぶる震える俺。

 頭を抱えて身を丸くしていつぞや来るだろう衝撃を待っていたが、待てど暮らせどパァムがなにかをしてくる気配はなかった。おそるおそる顔をあげると、肩を震わせながらもなにかに耐えるようにぎゅっと堅く目を瞑り、その場でじっと立っている彼の姿があった。


「あの」

「帰る……」

「え?」

「オレ、帰るから。うん。考えてみたらここまで優しくしてあげるギリなんてねぇしな。アンガーマネージメント、うん、うん、はぁ~ふぅ~」


 俺と目を合わせず、パァムが深呼吸をした。そして、じゃあ、と言ってそのまま俺に背を向けた。


「いやいや、ちょっと待ってよ」


 俺は今わけの分からない世界でたった一人だ。例えるなら小学6年生の2学期から転校してきたようなもんで、友達も誰もいなくて、転校当日に偶然出会って奇跡的に仲良くなってくれたのがパァムだ。その彼が俺を見放そうとしている。

 困る。すごく困る。悲しいそして悲しい。


「イっちゃらめぇ~!」


 俺は去ろうとするパァムの細い足にスライディングですがりついて、親指と人差し指二本でパァムの足を挟んだ。


「んが~!」


 パァムが白目をむいて絶叫する。


「いっでぇ~! ニンゲンによる雀虐待案件! つうほう~! 通報ダァ~!」


 空を飛んでいた一羽のカラスがかぁ~! と大きな声を上げた。あまりの騒々しさに空を見上げると、それが合図となったかのように、ほかのカラスがどこからともなく現れて、一斉にかぁかぁと騒ぎ始めた。

 なんだ、まさかパァムの叫びに答えているのか、と思うが早いか、空の一点から猛禽類らしき鳥が猛スピードで現れ、周りには目もくれずに俺めがけて突進してきた。


「ああっ、あれはスカイアイ! 天の目警察だっ! 俺はここだ~ニンゲンに襲われている~雀の丸焼きにされる~助けてくれェ~」


 パァムが羽をばたつかせて叫び声をあげる。


「犯人確認。確保」


 そう聞こえた直後、猛禽類の目が赤く光り、黄色いくちばしが猛スピードで落下してきてずぶりと俺の百会(頭のてっぺんのツボ)に突き刺さった。


「んがぁ~」


 終ぞ感じたことのない痛みに叫び声をあげ、思わずパァムの細い足を掴む指にも力がこもる。


「現行犯逮捕。雀虐待現行犯逮捕」

「誤解~! 誤解だ~!」

「いでぇ~! 足がもげる~! ぎゃくたい~!」

「逮捕」


 足を捕まれた雀と雀の足を掴む男とその男の脳天に刺さった鷹。そして騒がしく鳴きながらそれを見下ろすカラスたち。

 俺は一体なにをしているんだと思いながら、痛みに意識を失った。

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