【SIDE B】もう少し寝てて欲しい
マ王は役に立たなかった。というか足手まといだった。モンスターがいないところで勝手に転んで勝手に怪我をして勝手に怒っていた。
「ヨードチンキをよこせ! 貴様らどうにかしてよを治療せよ!」
ぎゃあぎゃあ喚くマ王にゼゼがやかましいと一喝するも、もちろんそんなことでマ王は静まらない。
「仕方がないね」そよちゃんがチュッパチャプスを振り上げた。
「そよが治してあげるよ」
言うが早いかそよそよちゃんがマ王の頭にチュッパチャプスを振り下ろした。飴は砕け散りマ王は頭から血を流しながらその場に崩れ落ちた。
「ぐぶぅ」
「拳骨麻酔」
そう言ってそよそよちゃんは薄く笑って地面と一体化しているマ王を見下ろした。
「そよそよは優しすぎますよ。こんなやつ頭蓋骨粉砕して殺してしまえば良いのです」
「夢見が悪いよ」
死ぬのならそよの関与しないときに勝手に死んで欲しいよ。それもそうですね、あはは。
そう頷くゼゼとともに笑うそよそよちゃんを見て、女って怖いなと思った。
彼女たちが笑っている間、マ王は出血多量で青い顔をして白目を剥いていた。
その後、止血して復活してからもべらべらとうるさいマ王を引き連れて歩くも、結局生存者は見つからなかった。
「そういやさ、セバスはなんとか四天王の一人だったんだろ」
パァムがセバスの頭の上に舞い降りて、その端正な顔立ちを覗き込んだ。
「そうだが?」
「四天王ってからには他に三人いるんだろ。どうしたんだ他の奴らは」
「ふむ」
顎に手を当ててセバスが考え込んだ。
「四天王がひとり狂乱の魔剣ことセバス、それは俺だ」
「ん、あ、そう」
お前のことは聞いてないけど。しかもマ王は音速のナントカのセバスとか言ってた気もするがもうなんでもいいや。
ばさりと大きな音を立ててセバスが深紅のマントを翻す。マントの扱いだけは板に付いている。
「四天王には他の三人、狂気のアンガス、狂犬のポチ、狂言師のドドルフェアがいた」
狂犬のポチが気になるなと思ったところで、狂言師のドドルなんとかも気になるな。狂言て日本の伝統芸能ではなかったのか。宇宙って広いな。
「ポチは眠りにつかずに天寿を全うしたはずだ。あいつはねこまんまが好きだった。ドドルフェアは酒で喉を潰して声が出なくなったことを苦にしていて戦の最中死んだ」
「はぁ、それは戦の最中自殺したのか? それとも戦って死んだのか?」
パァムがつっこむも、セバスは目尻に涙を浮かべてマントを右に左にばさばさと翻すばかりだった。
マ王が人間に負けた理由もわかる気がするな。本人もそうだが、四天王からしてこれだもんな。やはりマヌケのマ族なのだろう。
「セバスはどうしてそこまで親父が好きなんだ。いくら生まれ変わりだといってもラーフェンとかいうやつにそんなに似ているのか?」
「ああ。ラーフェンは今も昔も美しい」
親父そっくりな美人ってそもそも言語が成り立たないぞ。
「あなたが人間の女を好きになってマ王を裏切ったのは、ご先祖様の手記で知っていましたが……まさか本当だったとは」
「なににどう記されてあったのかは知らんが、なぜ疑うことがあるのだ。この私の愛を」
「別に疑っていたわけではありません。性別も姿形も違う親父まで愛してしまうその狂愛っぷりに驚いているんですよ」
「我が愛は永久に不滅だ」
「恥ずかしい通り越して神々しいね」
そよそよちゃんがにこにこ笑う。
親父を想い両の腕で己を抱いて身悶えするセバスを眺めて、俺達は頷くしかない。
「しかしですね、親父は妻子持ちですよ」
「ならば奪うのみ!」
突風に金髪をなびかせてセバスが仁王立ちで言い放った。
「セバス貴様それでこそ魔族の鏡だ!」
魔王がやんややんやと囃し立てる。
「おっさんを、奪うのか、妻から」
ひとつひとつ確認したがセバスは力強く頷くだけだった。




