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勇者パァムは戦わない  作者: トトホシ


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【SIDE B】 大宇宙神

 魔王の頭に足を乗せながらゼゼが言うにはこうだ。

 先祖が残した文献を頼りに子孫であるゼゼはこの星に赴き、マ王が眠るであろう階層へと向かった。一緒にではないし知り合いでもなかったが、同じく祖先の文献を頼りにラーメン屋の親父も一足先にこの星を訪れていた。

 先祖が記していた通り、マ王が眠っているであろう多くの封印がなされた棺の周りには一面のネギが生えていた。それらはマ王のルネを栄養源として、枯れることなく瑞々しく太陽の日も注がれないその地にしっかりと息づいていたのだ。


 まさに文献通りだ。でかしたとばかりにマ王そっちのけでネギを収穫して地上に出たラーメン親父は、それを煮込み、かねてから構想していたラーメンのスープを作ることにした。マ王のルネが染み込んだ野菜で作ったラーメンスープだ。食べたら元気が出るという噂が広まり人気が出た。


 親父のラーメンを食べると精が付くとかルナーが回復するとか、巷でまことしやかに言われていた噂は嘘ではなかったわけだ。

 ラーメン親父はマ王に全く興味がなく、ネギさえ収穫できればよかったので、近くにマ王の眠る棺があったことすら記憶していなかったらしい。

 その後、ニビルによってマ王は長い眠りから目覚めることができたが、既にルナーはネギ等に吸われて枯渇していて現在に至る。


 ラーメン親父はゼゼと似たような記述のある古代文献を持つ、勇者パーティの末裔だったということか。

 俺は湯切りをするときの親父の手首のスナップを思い出した。あの動きは只者ではない。


「あの人の祖先は勇者一行の料理人だったとのことです」

「専属料理人がいる勇者御一行ってセレブ過ぎないか」


 俺の疑問を無視してゼゼがマ王に向き直る。


「よく聞けマ王。パァムはあの時の勇者の末裔だ。もしかしたら生まれ変わりかもしれない。復活してもお前に勝ち目はない」

「いくらなんでもそれはねえって。この世に雀が何羽いると思ってるんだ」


 マ王がぎりぎりと奥歯を噛み締めるのを見て、パァムが慌てて首を左右に振った。ゼゼがさらに首を左右に振ることで、パァムの発言を制した。


「二ビルが来て大勢の人が死んだのに、あなたたちだけ生き残った。そしてパァムは海の底に眠っていたはずのチャームのルネを手に入れた。これほどまでの奇跡が偶然だとは思えないんですよ。全て必然で運命であったとしか」

「海じゃなくて川だけど」


 再び俺を無視してパァムを見つめるゼゼの目から涙が溢れ出した。こうやって歴史って捏造されて行くんだな。


「では勇者パァムよ、マ王を火炙りにしましょう」

「うむ」

「ま、待て、先ほど二ビルがどうとか言っていたな」


 マ王がくねくねと身をよじらせて、懇願するような目で俺達を見上げた。


「よはニビルについてよく知っている。ここでよを屠れば情報を得られなくなるぞ」

「騙されてはだめです」すかさずゼゼが言う。

「数千年寝ていたやつと、現代科学でニビルの謎を解き明かした現代人、どちらの情報量が多いか明確ですよね」

「だが現代人も知らないニビルについての古代の知識をよは持っている!」

「どんな?」

「……それを言うにはこの拘束を外すのが交換条件だ」

「わかりました。火炙りです」


 火の灯った指先をマ王に振り落さんとしたゼゼの腕を、全員で飛びかかって止める。


「止めないで下さい。やはりこいつはろくな情報持っていません。持っていたとしてもどうせ今では誰もが知っているような情報でしょう。自分だけが大切だと思ってどうぞ墓場まで持って行ってください殺します」

「いやわかるけど、一応話しは聞いておこうぜ」


 俺達の必死の説得が小一時間続き、ゼゼはようやく大人しくなった。その間彼女はビールを五本飲み、マ王は剥かれた蓑虫のようにくねくねしていた。


「それであなたはニビルの何を知っているのですか。ニビルが空間を乱したせいで外星との交信が断たれて、いつこの星を脱出できるかもわからない。それはあなたもなんですよマ王」

「な、なに、この星を出る? どういうことだ!?」

「そうでした。あなたは古い時代の生物ですもんね」


 ゼゼが俺達に向き直る。


「マ王が生きていた時代、そもそもほかの星に行くという考えがなかったんですよね」


 へえ、とパァムとそよそよちゃんは珍しがるが、俺はというとまるで地球と一緒だと思ってしまっている状況だった。


「この星の外に……出られるのか?」


 マ王が瞳を輝かせてゼゼを見上げる。その瞳はまるで宇宙飛行士に憧れる少年のようだ。


「だから今は出られないって言ってるんでしょうが」


 そんな少年の夢を大人があっさり打ち砕く。


「出る出ないの前にあんた殺しますけど」

「まぁまぁ、こいつを殺してしまったら、ゼゼだって殺人の犯罪者になるだろ。それはよくねぇって」


 パァムがぱたぱたと翼を羽ばたかせた。


「よは……」


 マ王が目に涙を浮かべて体を震わせた。


「よは生きるっ生きてみせるっ」


 知らねぇよ。


「よは宇宙飛行士なるのが夢だったのだっ!」


 知らねぇよ。


「宇宙に行けることになった今、よはその夢を叶えられるのではないか! よはもともと宇宙に憧れていた少年だったのだ。今こそ宇宙の果てに行って大宇宙神に認めてもらうぞ!」

「完全にイってるね」

「大宇宙神ってなんだよ」

「病気です。まともに取り合わない方が賢明です」


 一同が頷く。


「よはこの星を出て、宇宙を旅し、大宇宙神に出会うまで死ねない!」


 このまま宇宙に流してしまおうかと言ったゼゼの言葉に、誰も首を左右に振らなかった。


「ところで今だからこそ聞くけど、ゼゼのご先祖様はマ王に何をされたの?」

「開発中のビール樽を壊されました」


 あっさりと答えたゼゼの顔には立派な赤筋が浮かんでいる。


「研究に研究を重ねて開発したビールの樽が壊されたことは許せない。自分がそういう目にあったらと思うと腹が立ってきた殺します」


 だめだめだめとパァムとそよちゃん、そして俺で暴れるゼゼを取り押さえた。

 ふうふう鼻息荒く暴れるゼゼに、そよちゃんがリュックからおビールを取り出し渡した。それを飲むとゼゼは途端にニッコリ大人しくなった。


「つまりゼゼのご先祖様は誰か親しいヒトを殺された訳ではないんだな」

「はい。私のご先祖様に関しては親族で殺されたという記述はなかったですね。子供のように可愛がっていたおビール以外は」

「よはちょっとやんちゃだっただけだっ。よはちっちゃな頃から優等生だったっ。途中でちょっと道を外しただけだっ」

「途中もなにもこいつ、成人越えてからやんちゃしたんですよ。痛々しいでしょう」

「まじかよ。ただの犯罪者だろそれ」


 自重しろよ。遅すぎる反抗期ほど痛々しいものはないぞ。見下ろしたマ王はなぜか誇らしげな顔をしていた。こいつ、まだ青春の病気を引きずってんな。


 とにかくゼゼはマ王を殺したいようだが、実際に被害の出ていない俺たちはそれはちょっと許容できない。そしてゼゼが怒っている以上、マ王と行動を共にするわけにもいかない。だからといって逃がすわけにも行かない。


「うーむ。俺たちが行動している間はラーメン屋の親父がマ王を見張っていてくれねぇかな」


 まるで俺の心を見透かしたようにパァムが言った。


「あのラーメンスープの源であるマ王ですよ? 親父さんのところに持っていったらぶつ切りにされてスープの出汁にされるのが落ちです。私はそれでもいいですけど。食べないですけど。拒否しますけど。臭そうだし」

「そよも食べない。臭そうだから」

「オレも食わねぇな。臭いだろうし」


 俺も食べないな。臭いだろうことが想像できるから。みんなで一斉に汚物を見るような目をしてマ王を見る。


「なんだ? よの力が必要か? 仕方がないよもこの星を脱出するために協力してやろう。さあ、このツタをほどけ」

「いらないです」

「マ王はさぁ」チュッパチャプスを舐めながら、そよそよちゃんが語りかけた。

「長年生きてきたマ王の知恵袋的なことないの? ぎりぎり役立ちそうな、かろうじて百個中一個くらいで劇的に役立ちそうな知恵袋が。そういうのがあればせめて遊び人的な要素でこの世に存在させてあげるのはありな気がするけど」

「そうだな! あるぞ!」


 マ王が意気揚々としてそういう知恵なら任せろと言わんばかりに声を弾ませた。


「熱が出たらネギを首に巻くといいぞ!」


 こいつほんとなんなの。

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