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勇者パァムは戦わない  作者: トトホシ


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【SIDE B】マヌケのマ王

「捕まえたは良いけどどうするの」


 魔王の頭の上に乗ったそよちゃんがゼゼに問いかけた。


「見逃す? 仲間にする? ここで殺す?」


 まるでゲームのような選択肢を提示するパァム。


「そうですね、じゃ殺しましょうか」


 ゼゼが戸惑いもせず言った。


「よを殺すだと!? 愚かなニンゲンどもよ、よを殺せるわけがな……」

「頭蓋を壊して脳味噌をひとつきにします。魔王と言ってもただのクリーチャーです。心臓は胸に、脳味噌は脳にあります。そこを潰せば終わりです。もともと封印中の寝ている間に殺すつもりでした。それがこのタイミングでニビルなんて来たから……」

「おわー!」


 魔王がばたばたと動かせない手足を賢明に動かそうともがく。


「殺されるくらいなら抵抗あるのみ!」

「無駄ですよ」


 ゼゼがマ王の頭に載せた足をぐりぐりと動かし、冷たい目で彼を見下ろす。


「貴様ぁ……よをなんだと思っている……!」

「マヌケのマ王」

「なんと!」

「あなたを探していましたマ王。私のご先祖様はマ王を倒したパーティの一員です」


 突然の告白に俺は息を飲んだ。パァムもえっと言ったきりゼゼを見つめている。


 小さく笑ってゼゼがビールを一口飲み指先を見つめると、そこに小さく炎が灯った。赤い炎が彼女の顔をオレンジ色に照らす。だが、その炎はなぜか冷たく見えた。

 ゼゼは小さく息をつき、なにかを思案するように天井を見上げてから、石畳に転がるマ王に視線を落とした。そして、いつも読んでいる古びた小さな本を片手に持ってゆらゆらと揺らした。


「これは私のご先祖が書いた手記です。マ王討伐のことも書かれていました。そしてこう記されていたのです。先祖代々、なにがあってもマ王に報復すべしと」

「もう何千年も前の話だろうが。そこまでして……」

「そこまでするんですよ、マ王」


 ため息と共に発せられた言葉は、指先の炎を揺らして消えていった。


「改めまして、おはようございますマヌケのマ王。殺していいですか」


 ゼゼの据わった目に一瞬にして時が凍る。

 うひゃあ~と、魔王ならずとも叫ばずにはいられない状況で、俺もパァムもそよそよちゃんも一斉に叫び、その行動を阻止すべき彼女に向かって飛びかかった。


「早まるのはよすんだよ」


 ゼゼの手をぺちぺち叩いてそよそよちゃんが諭す。


「そうだ、こんな激弱なアホゥ殺したって、お前の手が汚れるだけだ」


 パァムもそよちゃんに加勢してぺちぺちとゼゼの鼻っ面を叩く。


 しばし鼻息を荒くしていたゼゼだったが、必死の説得に落ち着きを取り戻したのか、目は血走りながらもひとまず大人しく頷いた。


「少し話をしましょうか」


 深呼吸をしてゼゼが言った。


「ご先祖様が残したこの手記によると、こいつ自身に絶大な力はありません。ですがこいつは召喚士です」

「なんと」


 まさかこいつも俺と同じ召喚士だったとは。しかし、ツタに巻かれて転がっている男にかつて世界を支配した貫禄はない。

 だが同じ召喚士として気になるのは、そのルナーの味だ。


「ただの召喚士だったこいつは、その無尽蔵のルネを使って数千年前、この星の生命に対して非道の限りを尽くした魔王です。真実は自身が知っているでしょう」

「その通りだ。だがよは悪くない。全てはよのA5ランク黒毛和牛の味がするルナーに群がった召喚獣がやったことだ」

「ね」


 ゼゼが振り向いて笑う。しかし、その額にはうっすらと赤筋が浮かんでいる。


「こいつご覧の通り通りクズですよ」

「紛うかたなきクズじゃねえか」

「情状酌量の余地なきクズだね」

「想像以上にクズだな」

「じゃあ殺していいですか」

「待て」

「待って」

「待とうか」


 みんな一斉にビール瓶を片手に振り上げられたゼゼの腕にしがみついた。


「そもそもどうしてマ王を封印したんだ。殺っちまうんなら数千年前のそんときに殺っちまえばよかったんじゃねぇか、ゼゼのご先祖様も」

「殺せるのなら殺したようですが、どうもあの時はマ王が強すぎて殺せなかったらしいです」


 舌打ちをしてゼゼが魔王を睨んだ。マ王は薄ら笑いを浮かべてゼゼを見返した。

 手記に書かれてあったというゼゼが言うにはこうだ。


 マ王は生まれ持った特性が故かルナーが無尽蔵に溢れ出てくるため、ルナーが枯渇することなくいつでも好きな時にどんな強力な召喚体でも呼び出すことができた。

 マ王を倒した際も、その溢れ出るルナーゆえとどめを刺すことができず、かろうじて封印して眠らせることしかできなかった。

 だが、封印しただけではいつかは目覚めてしまう。それを見越してゼゼ先祖たち勇者一行は、マ王のルナーを削ぐべく、周りにルナーイーターと呼ばれる植物の種を植えた。

 それらは眠るルーンのルナーを根源から吸収する植物だった。

 長い年月をかけて植物はマ王のルナーを吸い取り成長し続けたのだ。


「それらの植物を食べることでマ王のルナーは消滅し、食べた者のルナーとなります」

「まさか、よが目覚めたとき辺りがネギ臭かったのは……」

「ご先祖様は周りにルナーイーターのネギを植えていました。それらは長い年月をかけて増え続け、あなたのルナーを少しずつ吸い取って立派に成長したのです。そして、この星に来る冒険者に振舞われました」

「あ、もしかして」


 そよそよちゃんがぽむと膝を叩いて声をあげた。


「おやじさんのとこの、ラーメン!」

「そうです」

「わあ……。そよ、この人のエキス食べちゃったんだ」


 嘴に翼を当て、しじみのような目をしてそよちゃんが小さくオエと言った。


「もちろん私も食べました。初めは知らずに食べていたわけですが……。なかなか美味しかったですよ、マ王のルナーをたっぷりと吸収したネギや人参を使ったラーメンのスープは」

「てことは、親父も知ってたってことか? マ王のこと」


 パァムがゼゼを恐る恐る見上げた。彼女は薄く笑って頷く。


「以前確認したところ、親父さんも私が持っているのと似たような、ご先祖様が書いたであろう古代の文献を持っていました。親父さんは材料のネギがルナーイーターだと知っていて作っていたのですよ、ラーメンを。今までどれだけの人があのラーメンを食べたでしょう」


 ゼゼの声を聴くマ王の顔は青ざめている。


「あなたのルナーは大勢の人に食われて消化されました。食べた人を殺しても無理ですよ。ネギにルナーの根源から吸い取られ消化されたならば、それはもうあなたに戻ることはない」


 目を見開いてゼゼを見上げているマ王はただただ震えているばかりだ。

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