【SIDE B】魔王はいる
ダンジョンに着く前にも凶暴なクリーチャーと何体か出会ったが、やつらは例外なく、俺達の姿を見ると同時に敵意をむき出しにして襲ってきた。
それを合図に俺は誰よりも先に、武器屋からくすねてきた釘バットをふるって敵に向かう。怖くない訳はない。しかし、俺の命と俺の仲間に危害を加えるやつは排除するしかない。一緒の時間を過ごすにつれ、パァムたちを守らなければならないという思いが強くなってゆく。
多分そのうち生き残るために、襲われるよりも先に俺が襲いかかるようになるかもしれない。
全体重を込めてクリーチャーの喉を押すように叩きつけた釘バットを通して、皮膚や筋、骨といったあらゆる器官をぞりぞりと突き刺し押しつぶし破壊してゆく感触が腕まで伝わってきて背筋が凍る。動かなくなった相手を見下ろし俺はほっと息をつき、殺した現実に少し震えた。
俺は戦士ではないので、いくらカッコつけて運良く倒せたとしても一体くらいが関の山だ。そよちゃんが負傷した箇所をせっせと回復してくれるが、これ以上続けたら傷だけでは済まない気がする。ゼゼは剣やルネで敵を倒してはくれるが、彼女ばかりに任せてはいられない。
ここぞとばかりに釘バットを投げ捨て大地にひれ伏し召喚体を呼ぶと、毎度全員が手を止めて俺を見る。
「召喚士ってこういう感じなんですね」
「ボンドが個性的なんだよ」
「うんオレもそう思う」
パァムよ、お前が教えたんだろうが、という言葉を飲み込んで召喚に集中する。
そして今日もまたゲロまずルナーのせいで、ひとりの召喚体の信頼を失った。
ダンジョンの入り口に着くと壁を見渡してゼゼが何かを探し始めた。
「あ。あった」
ゼゼの視線の先を見るとなにやら石板のようなものがダンジョン入り口の壁に埋め込まれていた。その石板にはさらに手のひら大の丸くて青い石が埋め込まれている。石ハンターのおかげで少しだけ石について目の肥えていた俺は、その石は曇っていてあまり綺麗とは思えなかった。
「このダンジョンの最奥には魔王が眠っています」
はっ? とパァムが声を上げた。
俺はというと、突然の魔王という言葉に心臓が止まりそうになった。
「いや、いたと言った方が正しいです。壁に付いているこの石。これは魔王が眠っている時は青く輝いていますが、魔王の封印が解けるとその輝きを失って濁ってしまいます。今のように。魔王の封印が解けたことがいち早く分かる装置です」
「パァムのご先祖様が倒したという魔王……ここにいたんだね」
そよちゃんがふむ、と唸った。
「おそらく凶星ニビルによる磁場の変化によって魔王の封印が解かれてしまったのだと思います」
ゼゼが悔しそうに唇を噛んだ。
「なるほどな。もしそれが本当となると、五階までしかないってのは嘘っぽいよな。魔王が潜んでいたダンジョンがそんな浅いなんて」
「そうです。五階から先の六階以降は厳重に封印されたんです。記録ではダンジョンは三十階層あって、そこに魔王が封印されているそうです」
突然のぶっとび話に俺の思考回路は停止したままだ。ゼゼがポケットからあの古びた小さな本を取り出した。
「全てはこれに書かれています。そしてわたしの探しビトは魔王です」
その言葉に俺はひょえいと言葉にならない言葉をあげた。
「魔王は……いる!」
パァムの話は昔話なんかではなかったのだ。やはり冒険には魔王がつきものだ!
突然の展開に嬉しくてパァムの尾羽を引っ張ると、彼は尾羽をぷるぷるさせて俺の指を払った。
「パァムは遙か昔、その可愛らしさで魔王を倒した百万の雀のうちの一羽の末裔だもんな!」
ゼゼがえっ、と小さく声をあげてパァムを見た。その瞳はいつになく輝いている。
「本当に?」
「本当だ!」
何故か俺が胸を叩いて自慢気に言ってしまった。
「ゼゼは魔王を探してどうするの?」
「殺します」
そよちゃんの疑問に即答したゼゼに一同ビビる。しかし据わったその目が怖いので即座にその理由は聞けなかった。
「まぁ、仮に本当に魔王がいたとしてだよ、そよはずっと思ってたことがあるんだよ。あのね、今から数千年の時を経て魔王が蘇ったとしてもさ、数千年の間に文明は驚くほど進んだよね。数千年前に弓持って戦った魔王って、マシンガン持った一般現代人に勝てるのかな」
「うんうん、うん?」
一同一斉に頷いた。そして、首を傾けた。さらに、考えた。勝てねぇなと。
「考えてみりゃ、こんなちっせぇ雀に完敗した程度だからたかが知れてるよな」
一同魔王は弱いとの結論に達し、もしかするとまだダンジョン内をうろうろしているかもしれない魔王を探しにダンジョンに潜った。




