【SIDE P】 (o・Θ・o)究極召喚
その後、外部との連絡を取るために、星間パスステーションに向かうことにした。あそこなら最悪生存者はいないにしても、建物は普通の店よりも強固だろうし、軍で使うようながっちりとした通信が残っているはずだ。ニビル接近の磁気異常によって使えなくなっていないことを祈る。
辿り着いた星間パスステーションは、窓は割れてはいれども倒壊してはいなかった。しかし、予想通り誰もいなかった。時計は動いているが館内放送も聞こえない。土産屋のライトはついてはいるが品物は散乱しており、店内は暴動にでもあったのかという有様だった。
もちろん案内所にも誰もいないので勝手に通信室に侵入するしかない。この状況でお行儀よくなんてしていられるわけがない。
「応答願いまぁーす」
非常時緊急連絡と書かれた文字を信じて、大きく丸い赤いボタンを力いっぱい押す。
多分このボタンは、一番近くの星とか近くにいる宇宙船とか、手当たり次第に通信を行うシステムの起動装置のはず。敵味方問わず打ちまくる救難信号みたいなもんだ。
反応は思ったよりも早かった。
「生存者か!」
数分でノイズの入った通信音が聞こえてきた。
「そちらは冒険レベル1の星ポトスで間違いないですか」
「間違いない」
助かったと叫びだしたい心を必死に押さえて冷静に努める。
「そっちはどこの星だ。緊急通信だからどこに通じているのかこっちからではわからねぇんだ」
「こちらは惑星クラリヲン原動アスガルド国中央統括軍の通信班です」
「わかった。原動アスガルドだな。ありがとう。俺の故郷だ」
「そうですか。我々の星の方でしたか」
「そよもそうだよ」
「俺は違うけどな」
「とりあえず、今いる生存者三名のうち、原動アスガルドの人間は二名だ」
救出を求める際にも、どの星に属しているのかを明確にすることは重要だ。自らの星に属している者だと救出の責任があるが、そうでないと色々理由をつけて見捨てることもしやすい。通信している星がオレたちの故郷の惑星の一国である原動アスガルドであることは幸運だった。
それに、ニビルの接近に立ち会い、そこから生き残った証言者となるとなかなかに貴重な存在だ。軽々しく見捨てるわけにもいかないだろう。
「全く突然のことでこちらも混乱しているのです。なにがあったか教えていただけますか」
そうは言うが教えて欲しいのはこちらの方だ。
「まずオレたちも知りたいんだけど、この星に起こったのは、凶星ニビルの接近ということで間違いないのか? ものすごい地震が起こったのは分かったけど、オレたちは地下にいてその間地上での詳しいことはわからないんだ。地下から出てきたら地上は壊滅的状況で、生存者もほとんどいない状態だ」
「了解です。ひとまず、貴方方が生きていてくれてなによりです」
ざわざわとノイズの混じった音声が響く。通信班が小さく息を吐いたようだった。
「衝突は免れましたが、ニビルが近づいたことに間違いありません」
「再接近の可能性は」
「今のところその可能性はありません」
当面ニビルの危機は去ったというわけだ。しかし、安堵するには早すぎる。
「救助はいつ頃来るだろうか。ステーションは壊滅的で対応できるやつは今のところ見あたらない状況なんだ」
「残念ながら救助の見通しは立っていません」
「どういうことだ」
通信班の言葉にさっと背筋が冷たくなる。
「私たちも帰還をいち早く支援したいところではありますが、それも簡単にはいかないのです」
相手の話によると、ニビルの接近によって磁場が著しく歪んでしまったので、宇宙船も迂闊に接近できないとのことだった。
地場が狂ったことによって星間パスも打撃を受けて、この星周辺では正常な運行ができないようだ。
「磁気が安定するまで、一カ月……いや、二週間耐えられますか」
「まぁ、それくらいなら」
街もそうだったがここでも電気はまだ通じているようだし、店には食べ物も豊富にあった。生鮮食品は消費期限が短いとしても、携行食品だってあるし、水のペットボトルも豊富にあった。最低限生きていくことには困らないだろう。
それになにより独りではないから、不安や恐怖といったものもどうにかなるはずだ。ボンドとそよそよもそれくらいなら大丈夫、ちょっと危ない長いキャンプだと思えばと言って頷いた。
なんとか耐えてみせると言うと、通信班は安心したような声を上げてふっと息をついたようだった。
「ただ最悪の可能性として、言っておきたいことがあります」
安堵したのもつかの間、思い詰めたように発せられた声色に不安がよぎる。
「なんだ」
「ニビルが悪魔を連れてくることがあります」
「悪魔?」
ボンドとそよそよちゃんが顔を見合わせた。
「例は多くないのですが、ニビルが大接近して通り過ぎた後、獰猛な怪物が」
「パァム!」
突然のボンドの叫びと共に体が横にすっ飛んだ。
状況が把握できずに体を硬直させていたのだが、すぐにボンドの手に握られて数メートルほどふっ飛んだことがわかった。
顔を上げると先ほどまで触れていたはずの通信機が真二つに割れている。当然、応答の声は聞こえてこない。
「な、なに」
「モンスターだ!」
ボンドが叫んだ。
振り返ると見たこともない怪物が立っていた。リンドヴルムよりでかくはないが、オレより十分大きい。体中に毛が生えているが、体つきから筋骨隆々なのがわかる。
狼のような顔を持った二足歩行の化け物が、牙をむき出しにしてじりじりとこちらに寄ってきた。なんでこんな凶暴そうな顔したやつがレベル1のこの星にいるんだ。
訳がわからなくてとりあえずボンドの前髪を引っ張った。
「ボンドっ、召還体を呼ぶんだっ!」
「え、えっと、誰を」
「誰でもいい! こいつを撃退してくれるやつなら!」
先日召還したリンドヴルムは、帰り際に思い出しゲロをしながら「しばらく無理す」と言っていたので、出て来てくれることは奇跡に近い。
頼む。他に誰でも、ひよっこのこいつに応えてくれる優しい召還体がいてくれ。
おろおろしていたボンドだが、覚悟を決めたのか両手を天にかざしてふんと大きく息を吐いた。
「おっ、お願いしまっすっ、こいつを倒してくれる召還体様! どうかどうか無力な私めにお力をお貸しください! おいでくださいませ! ひらにひらに~」
ボンドが額を地面にこすりつけて祈ると、体がぱぁっと青白い光りを発して、その周りに幾多の魔法陣が描かれた。
強大なルナーで周りの空気が揺れる。ボンドの髪が揺れてオレの自慢の羽もさわさわと揺れ始め、吹き飛ばされないようにそよそよと一緒にボンドにしがみついた。
モンスターもこの光りに驚き慄いているようだ。
いけるぞ! そう確信した直後魔法陣から出てきたのは思いがけないヒトだった。
「こっ、こいつは!」
オレはあまりの驚きに叫んだ。
「うっ……、誰だ。誰が出てきてくださったのか!」
眩しさに目を閉じていたボンドがゆっくりと瞼を押し開き、魔法陣を凝視した。オレも未だに光りの残像が残る眼球をしっかりと見開いて、現れた召喚体を見て息をのんだ。




