【SIDE P】(o・Θ・o)楽な仕事はない
石ハンターになるのは一時間で諦めた。もちろんオレ、ボンド、そよそよの三者共に同意の上でだ。
そして今オレとボンドは濡れた体を乾かす為に、巨石の上に寝そべって太陽の光を受け、石のおっさんの働きっぷりを眺めていた。
「諦めるの早すぎますよ」
「無理。なんも見つかんねぇもん」
甘く見ていた自分を呪う。価値のある石を見つけるのって職人技なんだな。オレたちが探している間に、この石ハンターのおっさんは水底から三つの宝石を見つけていた。
飽きたという理由もあるが、冷たい水の中で数時間も見つかるかどうかもわからないものを探すというのは、なかなかの精神力が必要になるのだと知った。これは根気以上の狂気や粘着性と言っても良いのではないか。
「いやー綺麗な石ですねはははこの星の石はやはりサイコーですようふふ」
石を見つける度にひとりのけぞって早口で笑い声を上げるおっさんの狂気を知る。
「ねぇ石おじさん、ちょっと休んだほうがいいよ。休憩してそよたちに石コレクション見せて欲しいよ。そのリュックに入っているんでしょ?」
石探しにすっかり飽きていて、河原で魚と泳いでいたそよそよが言った。
「見ます!? 見てくれます!?」
目をキラキラと輝かせておっさんがずしゃずしゃと水から這い上がってきた。
やべぇ。話がまた長くなりそうだが乗りかかった船だ仕方がねぇ。背負った荷物を嬉々として広げていくのを見ていると、ここではいさようならとは言い出しにくい。
石を見たそよそよが綺麗だと声を上げると、オッサンは満面の笑みでまるで自分が褒められたかのように嬉しそうに石を撫でた。
「わ、これ小さいけどきれい~、あめ玉みたい……ん? デジャビュ」
突然そよそよがあめ玉のようにカラフルな石を見つめたまま難しい顔をして硬直した。
「どした」
たくあん色のふんわりとした黄色い頭をつつくと、そよそよはうむ~ん、とうなり声を上げた。
「美味しそうだよ」
「え、うん、まぁ、そうだな」
腹減ったのかな。首に巻いたスカーフの中に忍び込ませていたぶどう味のあめ玉をそっと差し出すと、そよそよは目を輝かせてころころと嘴の中であめ玉を転がし始めた。
「喉に詰まらせないようにな」
「うん、ありがと」
にこにこ顔で再び石を眺め始めたそよそよを横目に見て、石に頬ずりをしている石ハンターのおっさんに向き直る。
「石ハンターってからには、おっさんはこれを売って商売しているんだろ。人気急上昇中狙い目の石とかあるのか?」
「あります! 僕が本当に探しているのは秘石ルーンです」
「秘石ルーン?」
ボンドが身を乗り出してきた。
「なんか最近聞いたな、それ。パァムがなんか言ってなかったっけ。ルネとかルーンとか」
そうだ。ルーンとはルネを使えるやつらのことだが、もともとのルーンの意味は力を秘めた石という意味だ。今ではルネを使う者がルーンと呼ばれているが、本来は特殊な能力を秘めた秘石そのものをルーンと呼んでいた。
秘石ルーンとはルネの宿った石だ。その石を使うとあら不思議、今までルネを使えなかった者がいとも簡単にルネを使えるようになるのだ。使うというのはつまり石をその体内に入れるということだ。簡単に言うと、飲み込むのだ。石を。
そして一番重要なことは、秘石ルーンを手にした者が一般的な先天的ルーンと比べて、桁違いに強力なルネを使えるようになる場合があるのだ。しかもそれは、重複のない能力、その石ひとつにひとつのルネ、つまり唯一のルネを発生するルーンと言われるものでもある。
そのルーンの中でも特殊なルーンを、ルーンオブルーンやマスタールーンと言いやつらもいる。
実際にその石は何億という価格で取り引きされている……のだが困ったことに、それが本当に秘石ルーンであるかどうかは実際に使ってみるまではわからない。鑑定士もいるのだがもちろん100%ではない。
飲み込んでみてルネを手に入れられたらそれは秘石で、飲み込んだ者はルーンとなる。変化なしならそれはただの石で腸閉塞になってン億イェンがパーになるだけ。
「我々石ハンターの多くは実際に秘石ルーンを見たことはありません。論文などの写真で見ただけです。それらはとても綺麗ではありましたが、すべてに置いて共通のなにかがあったとは思えません。そうなると、あとは感だけです。触って、握って、感じて、なにかが違うという感覚です。でもそれはとても難しい」
「秘石ルーンってのがどれかはわからないけれど、綺麗といったら、この石が一番綺麗だとそよは思うよ」
嘴の中であめ玉を転がしながらそよそよが水色に輝く棒状の石を指さした。
「これはアクアマリンですね。小さいけれどキレイですよね。原石なのであまり透明には見えませんが、研磨すると透明になるんですよ」
「そうなんだ! あとこれも美味しそう」
「ローズクォーツですね。値段は安いですが人気のある石ですよ」
「うん、わかるよ、お乳を混ぜたようなイチゴ色でかわいいね。優しいエネルギーを感じるよ。あとこれ、とても小さいけどぶどうの飴玉みたいなやつ」
「アメシストですね。平凡な石ではありますがキレイですよね。これもとても人気があるんですよ」
石ハンターの鼻の穴が広がる。鼻息でそよそよが吹き飛ばされそうになる。
「お嬢さんに差し上げますよ」
「え~悪いよ」
「いいのです。これもご縁です」
そよそよは子供のくせして律儀にふるふると首を左右に振っている。オレならくれるもんなら即座に貰うぞ。
「もらっとけよ、そよそよ。どうせ拾った石ころだ」
「石こ……あなたにはあげません」
「いらねーよ。腹も膨れねぇもんなんて」
ちょっと強がってみるオレ。
「じゃあありがたくいただくよ、ありがとう。とても美味しそうな石だよ」
受け取った石を太陽にかざして、そよそよがほうっとため息をついた。紫色の光がそよそよの瞳でキラキラと反射する。
「じゃあまぁ頑張れよ。秘石ルーン探し」
「ありがとうございます。僕はルーンを見つけます。見つけたら、あなたたちだけには7億イェンにまけますよ」
「ぜんぜんまけられてる気がしねぇな」
「じゃあねおじさん、ありがとうね」
ニット帽を取って頭を下げた白髪だらけの石ハンターの後頭部を眺めながら、こういういいやつはいつか夢を叶えて億万長者になれると良いなと思った。




