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勇者パァムは戦わない  作者: トトホシ


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【SIDE P】(o・Θ・o)出会い

 賑やかだった街から離れてダンジョンへ向かって進んでいくと、すぐに自然の多い森に行き着いた。特別に入り口と書いてある場所はないが、土が踏み慣らされて木々の根がむき出しになっており、枝も払われて大きく切り開かれた空間があった。そこが入り口として普段使われているところなのだろう。木が痛々しいな……とか考え事をしながら頭に乗っていたら、突然ボンドが立ち止まった。


「ういっ、と。どした?」

「あ、いや、ほら川の中に人がいて……釣り人かな」


 ボンドが指さす方向を見てみると、道を外れた木々の奥の緩やかな崖下に川が流れていて、その中にでかいリュックを背負ったニンゲンが立っていった。ボンドの視力では見えなかったのかもしれないが、釣り竿を持っている様子はない。

 水に浸かっているのが足首くらいまでなので、水深はごくごく浅いのだろう。

 男が腰を屈めたまま、両手を川の中に突込んでなにやらうごうごとしている。川の中に落としてしまったなにかを探しているようでもあるし、素手で魚を捕まえようとしているようにも見える。


 登山家といったような風情で、滑落時に頭をほんのり守りそうなニットの帽子に、ポケットの多い厚めのベストを着ていた。そして、腰にくくりつけた大きめのかご。冒険者というより山菜採りの人だな。緩慢とした動作の様子からそれほど若いようにも見えない。

 なによりパーティを組んでいない、ひとりっきりの冒険者というのはなかなかいない。いないこともないがよっぽど強いやつだけだ。

 観光客とも思えないし、怪しい。


「声かけてみるか。うまい魚が釣れてるかもしれない」

「えっ……知らないニンゲンこわいよ」


 そよそよがしゅっと羽毛を体に張り付かせて細くなった。鳥たちが恐怖や不安を感じていることの表れだ。それでもボンドは枯れ葉に足を取られながらも、決して足場がいいとは言えない坂を下っていく。


 鈍臭そうだけれども、予想以上に身軽なことに少しだけ感心する。


「それにしても、お前ってどうでもいいときに度胸がいいよな」

「うん、ありがとう」

「誉めてねぇけどな」


 急な坂を降り終えて川の中の男に近づいていくが、よほど集中しているのか、ちゃらちゃら流れる川の音がボンドの足音を消しているのか、男がこちらに気がつく様子はない。

 男が立っている川はとても綺麗な川だった。透明度が高くて石の間で揺れる水底の枯れ葉すらもきらきらと光って見えた。

 水浴びがしたくてうずうずする。と思っていたら、突然チャポーンという音と共に盛大な水飛沫を上げて、そよそよが川の中に飛び込んだ。

 思わずどうしたと駆け寄るほどの間髪も入れずに、そよそよは水面から顔を出し、ぶべべべべべ、と重い羽音を響かせて水際に泳ぎつき、再び浅瀬で翼をばたばたと水面に打ち付けた。


「水浴び! 気持ちいい!」

「おおい水浴びだったのか。慌てさせんなよ」

「落ちて溺れたのかと思っちゃったよ」

「ごめんね。綺麗な水を見ると我慢ができなくなっちゃって」


 そよそよがえへへと笑って、だが水浴びをやめようとはしない。あまりに気持ちが良さそうで、オレもボンドの頭にスカーフを置いて、飛び込みの選手よろしく真逆様に川にダイブした。


 水面を突き破ったオレの飛び込みと共に水滴が辺り一面に散乱する。太陽にきらきらと光る水飛沫を受けてそよそよがヒューと口笛を鳴らす。ボンドも指笛を慣らそうとして、咥えた指の隙間からフスーを音を立てた。


「うふふ」

「あはは」

「おほほ」


 三人で水を掛け合って笑いあう。


「あ、あの、誰?」


 あ、こいつの存在忘れてた。


 川の中に立っていた男がびくびくと体を震わせてこちらを見た。

 じっくり見てみると男は初老といった風で、ニット帽からはみ出した前髪は白く、怪しいものではないことを証明するためか、慌てて脱いだゴム手袋の下の手は血管が浮き出て筋張っており、相応の年輪が刻まれていた。身振り手振りの大きさ、ごつごつとして筋張った指先、職人っぽい。とりあえず、悪いニンゲンではないような気はする。

 水浴びの終わったそよそよがボンドの頭の上に飛んで行って大きく身震いをした。オレも水気を吸って重くなった体を引きずって浅瀬から出て、ぶるんと大きく羽を震わせて水気を払う。そして、同じように水に濡れて重くなった翼を力いっぱい羽ばたかせて、ボンドの頭上にたどり着いた。


 ニンゲンの脳天って温かいんだよな。まっふまふに羽を膨らませたそよそよとくっついて暖をとる。


「脅かしてすまねぇな。川で面白い動きをしている人がいるから、ちょっと話を聞いてみようってことで近づいただけだ」


 そう言うと、男はほっとしたように息をついた。


「そうだったのですか。僕は石を探していたんです。石専門のハンターです。怪しい者ではありません」

「石専門のハンター?」


 なんだそれ、とボンドが首を傾げた。


「あー、石ね」


 そよそよが濡れた羽をトリミングしながら、うんうんと頷いた。そして、崖の多い周辺を見渡し、青く澄み渡る空を見渡し、最後に透明な水底をのぞき込むような目をして川を見てから、ふうんと息をもらして小首を傾げた。


「この川、砂金はさなそうだけれど、水晶とかシトリンが転がっていそうだね。透明で綺麗な石が多そうだね」

「そ、そうです! わかるのですか!」


 そよそよの言葉に興奮した男が先ほどまでの萎びた様子はなんとやら、腰かごを抱えて早口で叫びだした。


「この星はすごいですよ! 冒険者のレベル1とか言われていますが、石ハンターにとってはレベル10の星です! レア石がいいいっぱい! あなたたちはまるっきり石ハンターでもない素人っぽくて敵にもならなだろうから教えちゃいますが」

「石ハンターって儲かるの」

「そりゃあもう! でもなかなか簡単にはなれませんよ。危険なところにも行くし、このようにお宝があるのかないのか分からないような冷たい川に、とりあえず何時間も漬かって探さなければいけないし……」


「そりゃつらいな」


 冷たい川に何時間もはイヤだな。水浴びは短時間だからいいのだ。


「でも一攫千金は狙えるな」


 ボンドの囁きに無理だとは言えない自分がいる。銭は嫌いではない。


「確かに、この星もそういった石の価値の面では知られてないっぽいし、ワンチャンあるかもな」

「あのさ」


 そよそよが小さな嘴をゆっくりと開いた。


「このパーティさ、冒険者やめて石ハンターにならない?」


 そよそよの提案に、オレもボンドも即座に両手を上げて賛成の意を示した。


 世の中、所詮金だ。

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