表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/63

第37話 再訪〈2〉

(✽お詫びと訂正:4/22以前に「第29話 瘡痕〈2〉」までをお読みくださっていた皆様へ。

29話が28話と同じ内容となっており、一番大切といえる本来の29話が抜けておりました。4/23に修正済です。大変申し訳ございませんが、「第29話」を読み直ししていただきたく、お願い申し上げます。)

「旅書生さん、まさか今から宛に入るつもりかね? 悪いことは言わない、やめときなされ」


 襄陽を発った街道での道すがら、広元は幾度か同じ言葉を掛けられた。


 それは、宛に近付くほどに多くなる。

 北から南下してきた曹操軍が南陽郡に入り、淯水いくすいはさんで宛城の対岸に陣を構えたと知ったのは、広元が宛県入りを目前にした頃であった。


 宛城は淯水のほとりにある。

 宛城守備将・張繍ちょうしゅうと侵略者・曹操の二者は、淯水の両対岸から、互いをにらむ形になっているようであった。


 宛県に入った広元は、真っ先に龐聚ほうじゅの居宅に向かった。


 広元が龐聚を訪ねたのには、情報を得たい意図もある。

 父親に及ばぬとはいえ、龐聚にもそれなりの実績はあり、居宅には有力者の往来も少なくない。正確な最新の情報が、一般より早く入りやすいのだ。


 戦況はどうなっているのか。宛城は……そして西の城は。


 ところが、である。

 はやる気持ちで龐聚に会った広元が最初に龐聚から聞かされたのは、およそ想定外の報であった。


「張繍が、降伏した!?」


 思わずついて出た唖然あぜん声。半分は拍子抜けだ。


「い、一戦も交えずに……?」

「ああ。張繍の奴、去年戦死した自分の叔父の未亡人を人質にまで差し出して、平身低頭へいしんていとう、曹操を迎えたらしいぞ」


 あまりに早期の降伏表明を知ったときには、さすがの龐聚も一驚したらしい。

 しかし再考すれば、的確な判断だと言う。


「張繍の兵力のみでは、曹操軍とまともに戦っても、勝てる見込みは薄いからな」

「……」


 張繍という武将の地名度は高くなく、その実力は未知数であった。

 物理的な兵力も、曹操側の方が遥か上であるのには違いないから、降伏は理解できぬ話ではない。


 ———— だとしても、呆気あっけなさ過ぎる。


 一番そう思ったのは、意気込み乗り込んできた曹操側ではないだろうか。


「これで南陽郡は、ほぼ曹操支配下ということになる。まあ戦回避は有難いが、それでは荊州(ぼく)(総督)の劉表が、黙っておるまいなあ」


 あごをさすりながらの、龐聚の如何いかにも隠者風な口振り。


 ———— 南陽が、曹操支配に。


 広元の眉間が曇る。


 宛、すなわち南陽郡が陥落すれば、曹操の次の標的は荊州治所・襄陽のある南郡であろう。

 それは襄陽に住む広元の一家や知人達にとって、命を左右する最大の危惧ということになる。


 深い憂心を持ちつつ、取り敢えず現状を把握したところで、広元は少し違う話題を出した。

 ……本音では広元にとって、一番の関心事。


「それで山民。西の城の諸葛氏の話は何か聞いていないか?」

「諸葛?」


 意外な名を聞いたとでも言いたげに、龐聚は怪訝けげん顔をする。


「諸葛玄を知ってるのか、広元」


 広元はそこで初めて、昨年の子玖との出会いから西の城に滞在したことを、ざっくりと語った。

 地下や珖明の存在には、もちろん触れない。


「そうか、諸葛玄に会ったのか。……ふふん、いけ好かぬ男だったろう」


 言様いいようにどきりとして、広元は喉元を緊張させる。


「きみも会ったことがあるのか、山民。諸葛玄どのに」

「去年、招致されて一度な。たしか、そなたがここへ来る直前だった。秋頃だったか」

「……」


 おそらく諸葛玄は、龐公の息子がこの地で人物鑑定をしていると聞きつけて、興味を催したのだろう。

 ただその時期が『昨年の秋』というのは、偶然の一致か。


 広元の胸裡が、ちり、ときしむ。


 龐聚は広元の心中になぞむろん気付く様子はなく、奇妙な苦笑いを浮かべ、継いだ。


「本人には言わなかったがな……そう永くはないぞ。あの男のそうは」



<次回〜 第38話 「予知夢」>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ