呪われた第二王子②
「これは参ったな……」
オリヴァーの父である国王陛下は頭を抱えた。
盛大に恨みを買った結果、呪われたのでは──とそれまでの経緯から推理だけは容易にできたものの、被疑者は多数。
特定には時間が掛かるし、粛正するには多い。オリヴァー自身が無礼講を許していただけに、犯人以外には暴言程度で厳しい処置もできない。
少なくとも今は、動きようがなかった。
そもそもまだ、被疑者の中に犯人がいると確定すらしていないのだから、当然だろう。
オリヴァーがモテるだけに、動機は似たようなものでも被疑者以外に犯人がいる可能性もそれなりにあるし、全く別の動機の可能性も捨てきれない。
そして調べてすぐ、やはり呪いであることはわかったのだが……解き方がわからない。
宮廷魔術師曰く、『呪いと魔術は似て非なるもの』だそう。例えていうなら魔術は数学に近く、呪いは文学や史学に近い。解明するには作者の意図や、そこにある背景などから『どうしてもそうなったか』を読み取る必要があるのだとか。
「媒介などがハッキリしていればやりようがあるんですが、今はなんとも。 力は尽くしますが、我々も呪いは門外漢です。 東の外れの森に住む魔女様に連絡致しました」
「そうか……幸い『慰霊祭』が近く、今年は魔界からゲストもいらっしゃるし当面は骨でも誤魔化せる。 魔界の方なら解き方もご存知かもしれん……できれば魔女殿が早く来て下さるといいんだが」
魔女は魔族と人の、更に間くらいの存在。だが、如何せん気紛れ。連絡はしたが不在のことも多いらしく、いるのかわからない。
今は待つしかないのである。
東の魔女が割と友好的で、オリヴァーが元気いっぱいだというのがせめてもの救い。
──それはそれとして。
オリヴァーはもうすぐ15歳。
なのにここにきて、まさかの骨。
流石にご自慢の見た目も、骨では台無し。
婚約者を選定していないだけに、焦ったのは本人よりも国王夫妻と兄の王太子だ。
そもそも言いくるめられて野放しにしていた結果なのだから。
もし令嬢達の誰かが犯人だとして。
オリヴァーは妙な遊びをしたわけでもない。異性への下心もなかったし、勘違いさせる言動もしていない。それだけに完全に令嬢達に非があると言っていい。
だとしても、『非がない』というのはオリヴァー個人に対するモノである。
両親である国王夫妻としては、誰かと婚約させていればこんなことにはなってはいないのだから、自分達に非がないとは言い難い。
その為、当の本人であるオリヴァー抜きで、緊急家族会議が行われた。
なにしろ本人は意気軒昂……「いや~参ったぞコレは」などと吐かしてはいるものの、面白がっているフシがありありと見受けられる。
それに──
「でも陛下、もしこのまま呪いが解けなかったらどうしましょう……」
「それな」
「陛下、今からでも早目に婚約者をあてがい、情が育まれる期間を作っといた方がいいのでは?」
今のところなにもできない以上、皆の一番の心配はコレ。
『オリヴァーの婚約者について』だ。
骨になっただけでなく、乙女心を一切省みないオリヴァーの一連の言動から、今家族の中で急激に今後が危ぶまれているのである。
元々の彼の言い分を鑑みるに、婚約者をそれなりに大事にしそうではあるが、不遜な性格なのは変わらない。
しかも呪いが解けなかった場合、相手側にはもう『イケメン無罪』は通用しない。
このままだと自信家で不遜で孤独な骨王子の爆誕──今更の悪足掻きにしても、なんとか支えてくれる婚約者をどうにか確保したいところ。
だがオリヴァーに、ただでさえ猛反発していた婚約者云々の話をここで出したなら『一生骨でも構わん!』とか言い出しかねない。
一言で言うと、面倒臭いのだ。
故の本人抜きである。
「ルイ、良さそうなお相手は皆まだ子供よ。 今の姿じゃ怖がって近寄れないわ」
スペアでしかないオリヴァーとの婚約は、実のところ高位貴族にとってそこまで旨味があるものではない。
今や彼の顔がいいだけに、娘が夢中になられると厄介なだけ。なので伯爵家以上の年齢の近い娘を持つ家は、学園入学前にさっさと婚約を結んでいる家が殆どだ。
また王太子の息子が育つまでの当面の間は臣籍降下はしない予定である為、婿を取らねばならない立場の娘は選択肢から除外される。
「結局のところ、呪いを解くしか──」
「いや待て、ひとり心当たりがある」
国王は思い出した。
7年前、魔界からのゲストであるレイスのブロードン卿に引っ付いていた娘がいたことを。