呪われた第二王子①
第二王子オリヴァー。
昨日の朝、起きたら彼は唐突に骨の姿になってしまっていた。
「おおお前は本当にオリヴァーなのかッ?!」
「はっ、嫌ですねぇ父上。 自分の息子の顔もわからぬ程、耄碌なさったので?」
「その不遜な物言いは確かにオリヴァー!」
「くっ、余は骸骨の息子を産んだ覚えは無い!」
「陛下ッ! 産んだのは私ですわ!」
本人は案外飄々としているが、王宮は大混乱。朝で人が少なかったのが不幸中の幸い。
取り敢えずの処置として箝口令だけは敷き、今いる以外の使用人の出入りを禁じて警備を強化した。
オリヴァーは自室で謹慎となった。
彼は何故かあまり気にした様子が見受けられず、「犯人も、流石にこの姿を見たら動揺する筈です!」などと宣い、意気揚々と学園に登校しようとしやがったからである。
オリヴァーはイヴェットのひとつ下の15歳……になる年の14歳。ただし、飛び級している為、彼女とは同級生だ。
甘やかされたわけではないものの、彼は我が強くとても不遜であると言っていい。
彼にはまだ婚約者がいない。
本人の希望によるものだ。
オリヴァー曰く、『自由な学生生活を満喫したい』とのこと。
婚約者がいると遊ぶのに邪魔だという。
とは言え彼は別に『女遊び』がしたいワケではなく、望む『遊び』は学生らしい非常に健康的なもの。放課後にクラスメイトとお忍びで市井に行ったり、学園で気安い会話をし、時には巫山戯たりして意味なくワイワイ盛り上がってみたいのだとか。
そしてその際、相手の性別がどうとかよりも、『気を遣わなくてすむかどうか』が重要。
相手が婚約者だと、非常に面倒なのは目に見えている。しかしオリヴァーの倫理観自体がぶっ壊れているということでもないので、婚約者ができた場合に放置して他と遊びに行く、とかは全く考えられないそう。
そんなわけで、女子とふたりきりで遊びに行く気はない。だが、メンバーに女性がいて婚約者が抜きだと揉める原因になり兼ねない……それが『婚約者はまだ要らない』という一番の理由。
意外にお堅い考えだが、それは自信家であるが故。
なんせ身長こそまだ低いものの、見目麗しく優秀な彼はモテる。
そして本人にその自覚があった。
『婚約者はまだ要らない』と両親を説き伏せた際も『多少年食ったところで相手には困らない』と豪語していた程。
馬鹿なら適当に言いくるめられたのだが、生憎オリヴァーはそう馬鹿でもない。飛び級するだけあって成績は優秀。武にも長けており、与えられた執務もきちんと行う。
なにより、ちょっとばかり自信家が故に不遜なだけで、だからといって『次代の王は俺だ!』みたいな野心があるわけでもなく、兄である王太子とは仲良し。
王太子との歳の差も5歳と、然程離れていないというのもあり『変に派閥が出来ても困るか……』と、オリヴァーの婚約者問題は結局、彼の目論見通り先送りされた。
まさかそれが新たな問題を引き起こすことになろうとは、誰も思わなかったのである。
オリヴァーに婚約者がいないことや、彼が特定の女子へ特別扱いをしなかったことで、共に遊びに出掛けた令嬢達の水面下での争いが勃発してしまったのだ。
女子同士、ましてや水面下である為にオリヴァーは勿論、周囲の男子達は全く気付かず。
側近のナサニエル(16)だけは気付いていたが、殿下の振る舞いが云々……と言う話なら別にせよ、女同士の勝手な戦いである為、放置していた。
見えないところでかなりドロドロしてきたあたりで、(ナサニエルを除いた男子の中では)いち早く不穏な空気に気付いたオリヴァー。
彼は『ただ楽しく健全に遊びたい』だけである。学生時代限定なのもわざわざ婚約者を作るのを拒否したのも、幅広い交流を楽しみつつも『ゴタゴタした人間関係には煩わされたくない』からこそ。
「和を乱す者は要らん!!」と激怒し、当然『女子はもうメンバーに加えない』という決断を下した。
今まで遊ぶメンバーに加わっていたのに、唐突に外された令嬢達はまず互いに牽制したが、それが全員だったことがわかり、全員で本人に突撃し詰め寄った。
だがそもそも遊ぶメンバーを決めていたのはオリヴァーではない。中に女子がいたのは他男子が誘ったり、一度誘われた女の子達が積極的に加わるようになっただけ。
しかも彼は、あからさまに自分に秋波を送る者が出ると、次から参加はさせないように取り計らっていた。
そのあたりの機微に聡かったからこそ残った女子達の争いは水面下だったのだが、げに恐ろしきは集団心理。
昨日の敵は今日の友……全員で突撃したことで、彼女らは『オリヴァー殿下は健全且つ単純に健康的な遊びを楽しみたいだけ』という共通認識をスッカリ忘れ、ついでに遊ぶ際の時のみの前提である無礼講から、相手が王子様であることも忘れ、結構強い口調で責めてしまったのである。
不快になった元々不遜なオリヴァーが「そもそも君達のような女性を選ぶわけがないだろう!」という身も蓋も希望の欠片もまるでない台詞(と、この他にも色々言った)で応戦するのは当然の流れ。
そして、翌朝起きたら……骨。
経緯を知った人の誰もが思った。
『あ、この人呪われたんだ』と。