変わらないふたり①
「──で、」
ひとしきり笑い終えたイヴェットは、唐突に話を戻す。
「解けそうなのですか?」
「解く」
やや不貞腐れつつ、「やってやれないことはない」と断言するオリヴァー。謎の自信である。
それにイヴェットは笑った。今度はオリヴァーにもなんとなく意味がわかり、照れ隠しにチッと小さく舌打ちする。
舌がないので、どこから音が出ているかは不明だ。
「私も微力ですがお力になれれば」
「そ、そのつもりで呼んだんだ……」
「ふふ、そういうことにしておきますね」
明らかな嘘だとわかり、イヴェットは安心して話を続ける。
「だとしても、殿下?」
もし被疑者の誰かが犯人なら、『自分に可能性がないなら、誰とも結ばれないようにしてやろう』と考えたが故であろうことは容易に推測できる。
なら、イヴェットとの婚約を本当にしてしまい発表するなり、そうはいかないまでもイヴェットが学園でそれとなく匂わせれば、犯人は動くのではないだろうか。
要は囮作戦である。
しかしそれを察したオリヴァーは、説明をされる前に強い口調でイヴェットを牽制した。
「そのつもりで、とは言ったが危険なことはしなくていい。 無闇に被疑者には近付くな。 あと『殿下と会っている』とか『婚約の打診ガー』とか言うのもナシだ」
「あら……」
「大体にして、私は呪いで骨にされたんだぞ? おびき出すよりイヴェットにも呪いをかける方が早いだろう」
「そんなことはないと思いますが……」
イヴェットは骨というマイナージャンル好きが高じて、一時呪術関連の本を読み漁っていたことがあった。内容よりも、挿絵の為に。
なんせ骨が沢山出てくるのだ。
やはり愛読書は骨が精密に描かれた医療系の本だけれど、呪術関連本の挿絵の曖昧さもなかなか味わい深い。
それはさておき、そこまで詳しくはないにせよ本を読んでいるイヴェットには、多少呪いの知識がある。
挿絵に出てくる骨もそうだが、呪いは魔術と違って色々と必要なモノや、面倒な手続きだとかが多い。代償だとか、儀式だとか。
軽微な呪いならまだしも骨にされるような呪いだけに、そう簡単に『次も』とはならないように思う。
だがイヴェットは口を噤み、それ以上呪いについてはなにも言わなかった。
こうなるとオリヴァーは引かないからだ。
(全く……本当に殿下ったら変わってないじゃない)
7年経っても、相変わらずの拗ねチャマ殿下である。
とはいえ身を案じてくれたことに悪い気はしない。
今も変わらず『イヴェット』と、名前で呼んでくれることも。
元々彼はこちらから会うことのできない、高貴でたまにしか会えない人。しかも異性。
だが大切な友人だった。
一緒にいて楽しかった。
異性なだけに、じきに会えなくなる頃だったにせよ、そんな彼と喧嘩別れのようになってしまったのをイヴェットはずっと気にしていた。
(まあ……学園でモイラと出会ってからは、割と忘れていたのだけれど)
──と、最終的に酷いモノローグで回想を締めつつも、オリヴァーはまさかの飛び級入学で同級生。それだけにやはり学園入学後もちょいちょい気にしてはいたのだ。
イヴェットは皆でワイワイやるタイプではないので、オリヴァーとの交流の機会がなかっただけで。
しかしこうして交流も再開し、これからは婚約者になるのだ……と思う。多分。
まだ認めてはないのだろうが、自分が骨なのにもかかわらずイヴェットを案じるくらいには、オリヴァーにもイヴェットへの愛や情はあるらしい。
(やっぱり7年は長いわね……信頼には足りないってことかしら)
当時は一番仲が良かったのでは、と思っていただけに、こういう時に頼って貰えないのはちょっとショックだ。
などと、イヴェットは思う。
──そういうことじゃないのだが。
「殿下……交流が復活したのを私、とても嬉しく思ってますのよ?」
「っ!」
イヴェットが寂しげにそう言ったので、オリヴァーは動揺した。




