序;曙光
この物語は当初、小説家になろうSF競作企画『空想科学祭』(2008年9月〜10月開催・第一回)に参加した『Dusk Of Paradise〜黄昏時に捕まえて』に続く2弾目の作品として構想されました。しかし、SFよりはファンタジー要素が強く、いわゆる伝奇物にあたると作者は判断し、出筆を中断、期間中は別の作品を書き下ろし参加 (レヴィアタンなど)しております。
この作品は、そんな『鬼っ子』となってしまいましたが、科学祭の更新期間が間もなく終了しますので公開、書き下ろして行こうと考えました。拙いファンタジー・伝奇ですが、お楽しみ頂けましたら幸いです。(2008.10)
その後、5章までで長期更新を中断してしまい、お読み頂いた方々に申し訳ないこととなってしまいました。この度、心機一転、世界観を大幅に改定、登場人物の言葉使いなどを修正し、再スタートとさせて頂きます。更新にはものすごーくw時間を掛けるつもりですのでご容赦ください。(2010.1)
主な登場人物
「わたしや」
・・・逃走する者を一人頭金一匁で『彼方』へ逃がす山に活きる者たち。
ヤブ
三十代後半。色黒の逞しい男。
役者
十八、九歳。色白の美形。
「渡人」
・・・わたしやを雇い『彼方』へ逃走を図る者たち。
カシラ
二十代後半。渡人の代表。気丈で芯の強い女性。
イチタ
三十代。以前は藩の勘定方として領地もあった侍。
ニタ
二十代前半。美男。以前は藩の御狩場の守護として働いていた。
ヒメ
二十代前半。無口だが見掛けによらずしっかりした女性。
「火縄衆」
・・・精巧な銃を始め奇抜な火器を用いる腕の良い狩人たち。火縄というものの既に火縄銃は使っていない様子。
甚
三十代半ば。人妖を狩り森の往来を助ける腕の良い集団『陣守』の頭。
重吉
二十七、八歳。甚の右腕。片目の冷静な男。
乃助
二十歳前後。巨人。無口で怪力の持ち主。
怜
二十歳。甚の側で助手を務める体格の良い女。
放太
二十代半ば。口数が多いが優れた射手。
澄
十五歳。陣子と呼ばれる陣守見習いの少女。銃の腕はある。
進
十三、四歳。陣子。ガラガラ声の少年。
三
十一、二歳。最年少の陣子の少年。
「人妖」
・・・森に棲む化物。神の使いと言われる。
山守
鋭い爪、剛毛の生えた身体、大きな口。大猿の様に両手を下げて走る。
天守
白い羽毛の身体。金色の髪、金銀の色違いの目。羽を持って飛ぶ。
明けの刻。
一陣の風が枯葉を舞い上がらせ、男の頬を打った。ぽりぽりと頬を掻いた男は薄桃色の空を見上げ、顔を顰める。と、そこへ人影が音もなく寄って来た。
「よお」
男は隣に座った人影を突いて、
「遅いじゃねえか」
「すまねえな」
済まなそうには聞こえない男の声はまだ若い。会話はそれだけで終わった。
暗い林の中、二人は湿った落ち葉が敷き詰められた地面の上に腰を下ろし、むっつりと黙っている。
随分と経ってから、最初から待っていた年上の方が、
「月を見たか?」
ぽつりと尋ねた。
「見た」
年下の男は言葉少なく返す。年上が明け染めの薄暗がりで頷くのが見え、
「きっとやられたな」
「来るかな?」
「残ってたらな。まあ、ヤブなら少しは助けたろうよ」
年上は耳をそばだてる。風が再び落ち葉を舞い上がらせた。
「待つしかないな」
後は口を噤み、二人並んでただ刻限を待つ。
やがて朝日が山際から顔を覗かせ、二人の影を落ち葉の上に長く刻み出した。その時。
「来る」
年上の男が立ち上がり、直ぐ下に出来た窪地を見下ろした。数日前に降った雪が溶け、湿った地面に霜柱が立っている。その窪地の底に……白い靄が立ち昇った。やがて靄は濃度を増して霧に。霧は窪地の底から涌き上がる様に渦を巻き、更に深く白く……やがて。
「開いた!」
年上の声に年下の男も立ち上がる。
渦を巻いていた白い『霧』は急速に透明度を増し、今や窪地の底に溜まった水の様にも見え、窪地の底に穴でも開いたかの様に渦はどんどん下へ吸い込まれ……そして渦の下から黄金色の光が差し込み……
「来た来た!」
光から何かが立ち上がる。やがてそれは人の形になって……
「ひい……ふう…みぃ……」