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第10話

 正人がリバイバーの仮拠点へ着く数分前、隊員らは悲壮感に満ちた顔をしていた。彼ら幹部の下に、また通信が入る。


「こちら有村、隊員2名の殉職を確認。恐らくデリーターの......」

「本部、また奴らが......」


 相次ぐデリーターの小人狩りの報告は、彼らの戦う気力を削いでいく。加藤は暗い表情の幹部らに食料を配った。


「無駄じゃないよ。今はとにかく、1人でも多くの小人を助けなきゃ」


 幹部へ配り終えると、彼女はリバイバーに所属していない救助された小人たちにも食べ物を渡し始める。しかし、ある幹部の男が立ち上がって「助けてどうするんだよ!」と叫ぶ。


「あの会見見ただろ? 今はまだあのデリーターだけだが、1週間も経てば俺らを金目当てで何万人殺しに来ると思ってんだ!」

「だから今、隠れられる場所を探しているんでしょ?」

「無理だ。どうせ俺らは、もう皆殺しになる運命だ」


 幹部の男がそういうと、周囲は静寂に包まれた。加藤も配る手を止め、顔を俯いて黙り込む。彼らが静まり返る最中、正人は「投げ出して悪かった」と加藤の肩に手を置く。


「楠くん!?」


 加藤は正人が現れたことにも驚いたが、ボロボロの服装にも動揺した。リバイバーの隊員らは彼と再会するや、「捕まえろ!」と口にする。彼らは正人を抑え込み、拘束した。


「加藤、今こそこいつを人質にデリーターと交渉しよう。そうすれば殺され……」

「お前らあの男を何もわかってないな」

「お前、よくも抜け抜けと」

父親(あいつ)は利用できるものは何でも利用する。例え息子だろうと関係ない。人質にしたところで、世間の同情を買ってより小人を殺すのに文句を言われなくなるだけさ」


 正人は抑えつけられながらも、笑みを浮かべて余裕そうに喋った。


「楠くん、じゃあ私たちはどうしろっていいたいの?」

「戦え。それがお前らがやるべきことだ」


 正人が簡単にその言葉を口にすると、リバイバーの隊員らは呆れる。


「武器も戦力も負けてるのに、何が戦えだ。偉そうに口出しするな!」

「そうだ! 人質を逃れようと適当なこと言いやがって!」


 苛立つリバイバーの面々をよそに、正人は背後の音に耳を傾ける。彼が気づいてすぐ、彼らもその物音に反応した。ぞろぞろと無数の足音が響き、何かが迫っている。


「加藤、もしかしてもうデリーターの奴ら増員して」

「いや、会見してすぐ何てあまりにはやっ……!?」


 加藤の目には、無数の小人の人影が映った。少なくとも100人以上が彼らの方へと歩いてきている。動揺する彼らに、正人は「心配するな」と声をかけた。


「正人、大変なことさせてくれたね」


 無数の人影の中から飛び出し、加藤らの前に琴葉が現れる。


「琴葉、な、何したの?」

「俺から話す。加藤、あいつらは全員俺が琴葉に頼んで小人化させた奴らだ」

「小人化って、えぇ!? 関係ない人間を小人にしたっていうの?」


 加藤は目が飛び出るほどの反応をした。一方、現れた人々は正人の顔を見て口々に何かを喋り出す。


「あ、本当だ! あの人、確か楠の……」

「じゃあここはやっぱりデリーターの拠点なのか。よかった」

「楠くん、もう私は理解できない」

「あーつまりだ。琴葉に奴らを小人化させた後、こう伝えるよういったんだ。リバイバーが小人狩りに反撃するため、人を小人化させてるって」

「ちょっと意味がわからないんだけど。私たちはそんなこと」

「やってようがやってなかろうが、どうでもいいんだそんなこと。まぁ見てろ」


 正人は集まった小人たちの前に行き、コホンと咳をした。


「なぁ、俺たちを早く人に戻してくれよ」

「落ち着いてください。私も小人たちの悪行により、長らく人に戻れずにいるのです。人に戻る魔法というのがあるのですが、それをリライバーに奪われてしまったのです」


 正人が説明すると、彼らは「嘘でしょ。もう戻れないの?」とザワザワと騒ぎ出す。彼はニヤりとし、優しく話しかける。


「でもたった今、その魔法を保管しているリライバーのアジトを発見しました。ですからどうか、ここにいる全員で奪い返しに行きましよう。でなければ、私たちは一生この姿のままです!」


 彼らは「戦うだって?」とイマイチ乗り気な反応を示さなかった。しかし、1人が「俺はこのまま一生終えるぐらいなら」と手を挙げる。


「俺は行くぜ。来週には息子の運動会があるんだ。俺は生きて必ず、息子に会いたい」


 その1人の言葉に感化され、1人、また1人と戦う意思を表明し出す。正人は加藤らの方へと振り返り、「ふん」と鼻で笑った。


「これで戦力は互角。やらないことはないぜ」


 加藤は彼らの耳に入らぬよう、正人を少し遠くへと連れて行く。


「楠くん、あなた何したかわかってる?」

「あぁ、無関係な奴らを巻き込んだ」

「そうだよね? 私たちは、いくら殺されたくないからってそんな酷いことできない」


 正人は突然、加藤の手を握る。


「この世界を守るためだ。それに、魔法さえ奪い返せば全員元に戻せる」

「……楠くん」


 加藤は正人に真剣な眼差しで見つめられ、顔を真っ赤にする。しかし、琴葉は「……セクハラ」と割って入った。


「わ、悪い。とにかく、手をこまねいる場合じゃないってことだ」

「……そうね。ひじょーに不本意だけど、こんな数集められちゃ乗るしかないよね」


 加藤は腕を組み、正人に背を向けた。


「で、具体的にどうするの?」

「俺はデリーターの奴から魔法を保管しているビルを聞いた。加藤はこいつら引き連れて敵を撹乱して欲しい。その間に俺が魔法を保管している場所を何とか探し出す」

「琴葉は?」

「私か? 私はデリーターをなるべく引き付ける。ま、勝てそうなら倒して正人を助けに行く」


 「ふ〜ん」と、加藤はまだほんのりと頬を赤くしながらも、2人の方へと振り返った。


「悪くないけど、人に戻ってどうするの? 言いくるめられたら結局、何も変わらないよね?」

「それは……」


 それから数時間後。加藤との話し合いを終え、正人と琴葉は月を眺めて横になっていた。


「でもいいの?」

「え?」


 琴葉は唐突に、沈黙を破った。


「正人のお父さんをリバイバーのリーダーだって、メディアを誘導する話。正人は人に戻って、本当にそんなことできるの?」


 正人は半身を起こし、腕を頭上に伸ばして「うぅ」と唸る。しかし、肩の痛みがまだ残っていた。彼は負傷した箇所を労るように包帯の上から触りながら、少し微笑んだ。


「……別に」

「別にって、もし君の父親が犯人と見なされれば、君は人の社会で生活するのは大変になる。それでもいいのかって聞いてるの」


 琴葉は少しムッとし、近くにあった小石を彼へとぶつける。


「この世界に比べりゃ、それでもイージーモードだろ? それに……」


 正人は手を握りしめ、何かを投げるような動作をする。琴葉は咄嗟に目を瞑り、身構えた。しかし、彼女の身体に何かがぶつかることはなかった。恐る恐る彼女が目を開くと、彼の手には四葉のクローバーがあった。


「ビビった?」

「はぁ、これだからガキは」


 と、琴葉は騙されたことに恥ずかしくなりながらも平静を装う。


「俺はお前にたくさん感謝してる」

「え、ちょっ何急にキモい」

「だから琴葉のいるこの世界を守りたい。ま、恩返しとでも思ってくれ」


 琴葉は彼の差し出したクローバーを受け取り、深くため息をした。


「はぁ、正人がいなくなったらまた1人か。でもわかった。全部上手くいったら、1人前って認めてやる」


 彼女は一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに満面の笑みになった。その日の夜、彼女は受け取ったクローバーをずっと手の中で待ち続けた。

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