9.特訓開始!
「精神を統一させい。決して動いてはならんぞ!」
「わかってるわよ」
「ええい! 口を開くでない!」
はいはい。わかりましたよ~だ。
「これ、ダリべロッテ! いかん、思考が乱れておるぞ!」
今わたしは滝に打たれてる。
朝っぱらから座禅を組まされて、真上から激流葬をその身に食らってる。
「まずはお主のその煩悩に塗れた身を清めることからじゃ! 案ずるでない! すでに修行は始まっておる!」
いや、古くない?
特訓の前に風邪ひいちゃうじゃない!
「よし、やれい!」
ザザーッ!
急に勢いが増したわ⁉ なんでよ⁉
「よいか? 決して足は使うでないぞ。腕力のみで上を目指すのじゃ!」
「うぎぎぎぎ……」
今度は楽しい楽しい崖を登り。
別名ロッククライミングっていうのかしら?
「むむっ⁉ ペースが落ちておる! もっとテキパキと登らんか!」
「む、無茶言わないで! あなたが肩に乗っかってるせいで、バランスが取りにくいのよ!」
うぎぎぎぎ……!
あ、嫌だわ。
そ、そろそろ、腕が痺れてきたかも。
「も、もうダメ~!」
「しっかりせい! ここで根を上げるようでは、勇者など夢のまた夢じゃ!」
「勇者要素ゼロなんですけど⁉」
「うるさい! ええから進めい!」
人のことも知らずに楽しそうにしちゃって!
わたしを便利な乗り物か何かと勘違いしてる!
それにこの子、なんだか重くなってるし。
ちょっと太ったんじゃないの? 食べ過ぎよ。
ズリッ!
「あっ」
掴んだ岩がくずれ、
「きゃああああああ!!!」
ドボンッ!
ブクブクブク……お、溺れる⁉
ザブッ! バシャンッ!
「ハア……ハア……ありえない、こんなの滅茶苦茶よ」
た、助かった……。
川じゃなかったら死んでたわね。
ピョンッ
「なんじゃ。アレくらいで落ちよって。情けない奴じゃな」
「ハア……ハア……だ、誰のせいよ……」
「弱音を吐くでない。やれやれ、これでは先が思いやられる一方。もっと気を引き締めい!」
「あ、アンタねえ……」
グウ~
ん? この音はなに?
わたしじゃないわよ?
「そういえば腹が減ったな。もうこんな時間じゃ。ダリべロッテや、一旦休憩して飯にするぞ」
ピョンッ、トコトコトコ
「あっ、ちょっとピーシャ! 待ちなさいよ!」
勝手すぎない⁉
あなたのご飯用意するのわたしなんだけど⁉
「してダリべロッテ! 次はこれじゃ!」
お昼を済ませた後、わたしたちはさっきの水辺にまた戻ってきた。
……特訓の続きね。
「なによ。まさか水の中で一日息を止めろ、とか言うんじゃないでしょうね」
「ほう、それも良いかもしれん。検討しておくとしよう」
えっ? 本気なの?
冗談のつもりだったのに。
どう頑張っても一時間が限界よ。
「それはまた今度の機会じゃ。今からお主には、この川の上を走ってもらう」
「川の上を走るですって? そんなの出来るワケないでしょう」
またまた面白いご冗談を。
ファンタジーならともかく、ここは現実よ。
スキルでならまだ分かる。
でも生身で水の上を走るだなんて、人間の身体能力じゃ不可能だわ。
「そうか? わしはできるぞ」
「えっ?」
「どれ。このわし、すきま風のピーシャが特別に手本を見せてやろう。不出来な弟子のためにな」
不出来ロッテで悪かったわね。
それに水の上を走ってどうなるのよ。
全くもって意味不明だわ。
そもそも、ネコのあなたがやっても何の参考になら──
ピョンッ! ピョンッ! ドボンッ!
バシャバシャバシャ! バシャバシャバシャ!
「これダリべロッテ! 見てないで早よ助けい! わしは泳げん! 水に弱いんじゃ!」
できないじゃない。
……っていうか、
「やっぱりあなた太ってるわね!」
バシャンッ!
今日はずっと濡れてばかり……。
ホント、わたしたちは何やってるのかしらね……。