8.禁じられたジャンル
──街を出て、スタタタタッ! 8時間が経過したわ!
「やれやれ、一体どれだけ歩くんじゃ。見てみい、すっかり日が暮れておるではないか」
「なによ、途中川で休憩したじゃない。夕飯だってそこで済ませたし」
まさかこの子、まだ食い足りないっていうの?
仕方なくわたしの分までわけてあげたのに。
どんだけ厚かましいのよ。
「まだか? 例の場所とやらにはまだ着かんのか?」
「仕方ないじゃない、遠いんだから。これくらい我慢なさい」
「にしても限度があるじゃろうて。いま何時だと思うておる!」
「ふん、冒険者をやってればこんなの当り前よ」
酷い時は3日も寝床にありつけない。
「この程度で音をあげるなんて、伝説の魔獣も大したことないのね」
「なんじゃと⁉ お主! わしを見くびるでない! 大体、わしは全盛期の力を大幅に──」
はいはい、しょれはしゅごいでちゅね~。
そして、
「はい! 到着よ!」
じゃーん!
ここはわたしたち姉妹の秘密基地!
森を少し歩いたところに、わたしとリーゼの秘密基地があるの。
まだこ~んなに小さかった頃のわたしが見つけて、遊び場とか特訓場として使ってるわ。
あの子いわく、前に住んでた人が特殊な結界?みたいなのが張られてるらしい。
人里から離れた森、大自然。
ええ。ここなら魔物も来ないから特訓に集中できるはずよ。
「なんじゃ、このオンボロ小屋は……ほとんど廃墟ではないか」
「あらっ、また酷いご感想ね。最低限の雨風は凌げるし、水辺だって近くにあるしで十分じゃない」
ホント、贅沢な子猫ちゃんだこと。
アレかしら? 少し甘やかしすぎかしら?
「トホホ……まさかこんな辺境の地に連れてかれるとは……」
良かったわ。
どうやら気に入ってもらえたようね。
はい! というワケで、バンッ!
さっそくお邪魔するわよ!
「う~ん……一年は使ってなかったら、やっぱりホコリが溜まってるわね」
明日、大掃除確定ね。
「ハア……昼間はお主の手伝い、そして長時間にわたる徒歩……わしはもう疲れたぞ」
「ん? 昼間はともかく、あなたはわたしの肩に乗ってただけじゃない」
あなたは一歩たりとも歩いてないはずよ。
「それを疲れただなんて、ちょっと大げさ過ぎない?」
「うるさい、とにかくわしは疲れたんじゃ。よってもう休む」
あらっ、老猫ね。
「……して、ダリべロッテや、今夜はここで寝るのか?」
「そうよ。それがどうかした?」
そこにあるベッドに何かご不満でも?
「い、いやお主、このベッドで寝るのは流石に……」
「なによ、ちょっとカビてるだけじゃない。別に寝れないってことはないわ」
「お主……そのナリで意外と野生肌じゃな」
「それは褒めてるのかしら? それとも貶してる?」
「少なくとも褒めてはおらんな」
まあ、失礼しちゃう。
「ところでダリべロッテや、ベッドが一つしかないぞ? お主はどこで寝るつもりなんじゃ?」
トゥーン
宇宙……ネコ……?
なにかしら……急に頭に浮かんで……
違う、そうじゃなくて、
「どうしてあなただけで使うことになってるのかしら? 一緒に寝るに決まってるでしょう?」
「へっ? お主、今なんと言った?」
「今夜はこのベッドで、わたし一緒に寝るのよ」
なに言ってるのかしらねこの子は。
ベッドは一つしかないんだから、始めからそうするしかないでしょうに。
「なによ、あなたメスなんだし別にいいじゃない。まさか照れてるの?」
もしかしてピーシャ……わたしのこと……。
同性、異種族、禁断?
そんな、わたしは別に構わないけれど。
でもそれって、ジャンル的にどう──
「違う。何を勘違いしておる。わしはこの狭いベッドで、2人で寝るのかと聞いておるんじゃ。お主が入るとわしのスペースが……」
「くっついて寝れば大丈夫よ」
リーゼともそうやってたし。
それに2人じゃなくて、1人と一匹だわ。
「じゃ、じゃが……」
「あなたって本当に文句ばっかりね。なによ、どうせいつもわたしのところに入ってくる癖に」
「はて? なんのことか分からんな」
しらを切っても無駄よ。
あなたが夜な夜なこっそりわたしのベッドに来てるの、わたし知ってるんだから
「仕方ない。お主がどうしても言うなら、そうしてやってもよいぞ」
「はいはい。もうそれでいいから。ほらっ、こっちに来なさい。ピーシャ」
「言われずともわかっておる」
ピョーン!
さ、寝ましょうか。おやすみ。