6.世界の終わり②
伝説の魔獣ピーシャ。
彼女の話を聞くに、世界の終わり?
でよろしくて?
「早まるでない、そこでこのわしの出番じゃ。わしは勇者の力を与えることのできる唯一の、スペシャルな魔獣。そう、導き手のケルベロスなんじゃ」
なぜか胸を張って、偉そうにしてる。
アレね。余計にダメな気がしてくるわね。
「わしは長年ずっと後継者を探しておったな。して、ようやく見つけたんじゃ」
「それがどうしてわたしになるのよ? 私の他にもっと適任がいるでしょうに」
そもそもわたし、女だし。
聖女ならともかく、勇者なんて荷が重すぎる。
正直、とても適性があるとは思えない。
だからそんなキラキラした目でこっちを見ないでちょうだい。
「わたしには無理よ。魔族と戦うだなんてとても……」
「確かにそうじゃな。並大抵の者では務まらん。相応の資質を備えた者、何より勇気を持った者でないといかん」
資質、勇気……。
どちらもなさそう。
「しかし、わしの正体を知ってなお恐れぬその器量、お主から流れ出る膨大な魔力。勇者になる素質は十分にある」
んん? 魔力?
「……あなた、今の自分を鏡で見たことあるのかしら?」
その姿じゃ何を言っても可愛く見えるだけよ。
恐れおののく要素ゼロなんですけど?
「それにわたし、術はそれなりに使えるけど、魔力なんてモノは一切ないわよ。テキトーなこと言って仄めかそうとしてるつもりなのだけど、生憎そうはいかないわ」
「違う、MPのことじゃ。わしらの世界ではそれを魔力という。少し紛らわしかったか」
ああ、MPね。
術とかスキルを使うときに消費する、体内のエネルギーのことだったのね。
「確かにわたし、MP量は人並み以上にはあるけれど……肝心のスキルを持ってないし」
「今まで数多くの人間を見てきたが、魔力だけならお主がピカイチじゃぞ。そのスキル? がなんじゃ、もっと自分に誇りを持て。このわしのようにな」
「でも……」
これ以上強くなれる気がしない。
最近は特訓してもメッキリだもの。
きっと今がわたしの天井。
「まあ無理もない。小娘にはまだ早い話であったか」
「ええ、そうよ。だってそんな話いきなり聞かせれても……対抗馬はあなただけ? わたしだけでどうにかしろって言うの? 他に勇者とかは……」
「む? 勇者は世界に一人だけじゃが? 当然じゃろう、何を言っておる?」
……仲間はいないってことね。
「わたし一人だけでなんて、世界は救えないわ」
「ほう、臆したとな。素直じゃな」
「わたしのカトリーヌも素直だったわよ!」
はあ……。
「……ねえ、もしわたしがやらないって言ったらどうするの?」
「そうじゃな。お主の意見を尊重し、別の人間を探すことにする。誰も見つからんかもしれんし、きっと数多くの犠牲者が出るじゃろうな」
なによ、その言い方。
まるでわたしのせいみたいな、嫌な感じ。
「ってことは、あなたとはもうここでお別れってこと?」
「そうじゃな。二度と会うこともあるまい」
「そう……」
それはちょっと困るわね。
だって寂しくなるもの。
この子がいない人生なんてもう考えられない。
「なに、嫌なら無理強いはせん。それにお主はまだ若く年頃の娘、世界を命運を託すにはちと早過ぎるかもしれん」
クルッ
あっ、
「他をあたるとしよう。世話になったな」
トコトコトコ、トコトコトコ
「ピーシャ、待っ」
……チラッ、チラチラッ、チラッ
この子、一体何がしたいのかしら?
「はあ……わかったわよ。やるわ。やるだけやってみるわよ。それでいい?」
「むむっ! よいのか⁉ 本当によいのか⁉」
「こんな話を聞かせれたら普通断れないでしょうに。こんなの後味が悪いってものじゃないわ」
妹や、皆のために何かやれることがあるなら、全力でやるだけ。
今までだってそうしてきたもの。
ほらっ、やらないよりやる後悔って言うじゃない?
「おおう! 流石じゃ!」
「それに、あなたがいれば何とかなるんでしょ? ケルベロスのピーシャさん」
「なる! 絶対なる! わしとお主なら必ずなるぞ!」
こっちに近寄ってきたわ。
ホント、調子の良いこと。
「だけど、約束! わたしより適任がいればすぐその人に代わってもらうから。それでいいなら勇者になってあげる」
「全然構わん! わしは一向に構わんぞ!」
この子、なに言ってるのか分かってるのかしら?
でも、フフッ。
よっぽど嬉しいのね。
ピーシャ、か。
ふーん、意外と可愛いじゃない。
これはこれで、こっちもアリかも?
「よし、そうと決まればさっそく修行をじゃな──」
というワケで、カチャリ。
「……へっ? なんじゃこれは?」
「はい、お散歩の時間よ。ピーシャ」
「お、お主、人の話を聞いておったのか? ペットごっこなんぞしておる場合では……」
「ええ。世界が危ないんでしょ? でもそれはそれ、これはこれ」
「じゃとしてもなぜ首輪をつける? 別にわしは逃げたり……」
「なによ、今日のおやつは抜きにするわよ」
「ッ⁉ な、なんじゃと⁉」
あら、世界の終わりって顔ね。