188 襲われる村
◇◇◇◇
ルリア達がダムに到着する少し前のこと。村人達は恐怖していた。
「な、なんだあれは……」
「見たことがない生き物、いや、生き物なのか? 逃げたほうがいい」
「だ、だめだ。囲まれてる」
広い村の敷地の周囲を呪者に囲まれていたからだ。
呪者達の大きさは様々で、大きい物は熊より一回り大きく、小さい物はリス程度だった。
もっとも、村人達が気づかなかっただけで、さらに小さな呪者も存在した。
「ば、化け物……」
呪者を見たことのない村人達は、単に化け物と呼んだ。
村を囲む呪者達は白く、体表は生の脂肪のような質感で、体毛が一本もない。
形状は猿に似ており、尻尾はないが、長い手を前についてゆっくりと歩いている。
手足には鋭い爪が生え、口は後頭部の方まで裂けており、鋭くて長い牙が生えていた。
「ど、どうすれば……」
村を囲まれているので逃げる場所が無い。
「子供達を隠せ! 大人は武器になる物をもって集まれ!」
「壁を作るぞ! 樽でも何でももってこい」
村人達は動き出す。
子供を隠し、武器になる物を集め、村の中心辺りに円形に物を積み上げ、簡易的な壁を築く。
そんな中、呪者達はまるで亀のようにのろのろと、ゆっくりと進んでくる。
二十分ほどかけて、村の中心に人の身長の半分ほどの高さの円型の壁が完成し、武装した村人が立てこもる。
「化け物どもめ! 来るなら来い」
村人達はガクガク震えながらも、呪者を睨み付けた。
「「「「GYA! GYA! GYA! GYA!」」」」
呪者は馬鹿にするように、一斉に大きな声で笑う。
その声だけで、村人達の戦う心はほとんど折れかけた。
震える村人達の歯がガチガチと鳴っている。
逃げたい、だが逃げる場所が無い。子供達もいる。逃げられない。
なけなしの勇気を振り絞って、槍を握って前を見る。
「ひぃ」
熊ぐらいの大きさの呪者が、壁に手をかけてこちらを覗き込んでいた。
「GYAGYAGYA!」
呪者は耳障りな大きな声で嘲るように笑う。
口が大きく裂けて、真っ赤な口内から、耐えがたい腐臭が漂ってくる。
「はあああ!」
一人の勇敢な村人が呪者の頭に向かって槍を突き出した。
「GYAGYA」
呪者はたやすくその槍を口で受けると、かみ砕いだ。
呪者の牙は、金属製の穂先すら砕いていく。
「……ひっ」
自分達の攻撃手段が全く通じないことをわからされて、村人達の心は完全に折れた。
「神よ、お助けください」
「……せ、聖女様。どうかどうか」
村人達は各自の信仰に基づいて祈りを捧げる。
祈りを捧げるほか、できることがなかったのだ。
ある者は教会が祀る唯一神に、ある者は数百年前にいたという伝説の聖女に祈りを捧げた。
急ごしらえで作った壁を呪者は「GYAGYA」と笑いながら、ゆっくりと壊していく。
乗り越えるのはたやすいだろう。だが、あえて時間をかけて壊しているのだ。
それは、村人達の恐怖を煽ろうとしているかのようだった。
呪者が壁を壊し、中へと入ろうとしたまさにそのとき、
「メエエエエエエエエ!」「ブボボボボボ!」
ヤギ達が雄叫びをあげて突っ込んできた。
「GYA?」
呪者達は突進してくるヤギ達を見て、一瞬固まって、
「モオオオオオ!」
勢いよく跳ね飛ばされた。
体の大きなヤギ、猪、牛は、高速で走ってきた勢いのまま突っ込んでいく。
呪者一匹を跳ね飛ばしただけでは止まらない。連続で十数匹を跳ね飛ばした。
跳ね飛ばされた呪者達はゴロゴロと転がり、動かなくなる。
「ホホッホゥ!」「キュイキュ!」
続けて、空から梟たちが急降下してきて、小さめの呪者を爪と嘴で斬り裂いていく。
しばらく、なすがままやられていた呪者達も反撃を開始する。
だが、地上のヤギ達と、空を飛ぶ梟達の方が動きが速く、力強い。
呪者があっという間に数を減らしていった。
それを村人達は涙を流しながら見つめていた。
「神が……我らを救うために、獣を遣わしてくれたのだ」
「……大司教猊下のおっしゃっておられたとおりだ」
「いや、聖女だ。聖女が、我らをお救いくださったのだ」
教会の唯一神が遣わすのは一般的に天使とされている。
これまでは、人より劣った獣を、神は遣わさないとされていた。
だが、最近では教会の偉い大司教が神は獣を遣わして神託を下すこともあると教えている。
そして、その大司教は数百年前に存在した聖女も獣と協力したとも言っていた。
「神よ。聖女よ。奇跡をありがとうございます」
信心深くて、王都に行ったときには必ず教会で説法を聞く村長が感涙にむせび泣いた。
「聖女様は天から我らを見守ってくださっている」
「感謝いたします」
村人達は自分たちを救ってくれた聖女に向かって、感謝の祈りを捧げた。
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