187 隠れていた呪術師
「サラちゃん! でかした! えらい!」
「見事である! サラ!」
あたしとスイは大声でサラを褒めた。
「よしっ」
ちょうど、そのとき大量の毒水の解毒が終わった。
おかげで、やっと次の作業に取りかかれる。
「一気にきれいにする! ふおおおおおおおお!」
『ル、ルリア様、やり過ぎなのだ!』
クロが叫ぶが気にしない。
解毒を終えたあたしは周囲に自分の精霊力を発散し、みたしていく。
倒れた呪者の死骸、前男爵だった物。
おそらく呪術師が仕掛けたであろう、空中や地面に刻まれた呪者を呼び出す魔法陣に似た物。
それらをすべて浄化し、消し去っていった。
これで呪者が突然現われたり起き上がって襲ってくる可能性は減ったはずだ。
呪者の襲撃の危険を減らしたら、次はダムの補修だ。
いまもスイが、大量の水が流れないよう支え続けてくれているが、そろそろ限界だろう。
「ダムもなおすよ! スイちゃん、もう少しがんばって!」
「わかったのである!」
毒水の解毒はしたが、このままだと鉄砲水が発生してしまう。
濁流が下流へと押寄せ、村にも大きな被害がでてしまうだろう。
あたしはビトの作ったダムを参考に土を盛り上げ、木の枝で補強する。
「岩を使って、しっかり水の流れる部分を作るのである!」
「おお、スイちゃんさすが!」
スイは疲れているのに、器用に岩を魔法で操ってダムから水が流れる部分を作ってくれた。
「ふふふ。スイはさすがであるからな?」
一分ほどがんばって、ダムを修理して、溜まっていた水がゆっくりと流れるように調節した。
一週間ほどかけて、通常の川の水量に戻るはずだ。
「これでよし。スイちゃんありがと!」
「さすがは、ルリアとスイなのだ!」
スイも誇らしげだ。
『だ、だから、ルリア様は、いくら何でも力を使い過ぎなのだ!』
「ごめんな? でも……、まだつかう! レオナルド! ビトのところに」
「ぶるる~」
あたしは大急ぎで、ビトのもとに急ぐ。
レオナルドの背から飛び降りて、ビトに駆け寄った。
「ルリアちゃん、ビトが動かなくなっちゃったの!」
あたしより先にビトの元に駆け寄っていたサラが叫ぶように言う。
サラは汚れるのもいとわず、ヘドロの様なビトの体を優しく撫でている。
「ルリア様、どうかビトを助けてあげてください」
倒れたビトを抱きしめているナザニンも泣きながら言う。
「ビトが、急に、返事しなくなっちゃって……」
さっきまではまだまだ余裕があるようにみえたのに、急激に悪化したようだ。
敵がいなくなって安心し、ナザニンを守るために張っていた気が緩んだのかもしれない。
ビトの呼吸は浅く、意識もない。かなり危険な状態だ。
一刻の猶予もない。あたしは魔法でビトの状態を調べていく。
全身が傷だらけで、毒にむしばまれている。そのうえ呪いをかけられているのだ。
「……ビトはずっとたたかってきたからな?」
おそらくは数十日前からずっと一匹で戦ってきた。
「りゃむ」
ロアが、あたしの頭の上からビトのお腹の上に移動する。
そして、ビトのヘドロの様な体を優しく撫でた。
「ビト、死なないで……また、いっしょにあそぼ?」
「……む」
ナザニンの言葉に反応して、ビトが少し動いた。
「ナザニン、ビトに声をかけ続けてあげてな?」
「はい、ビト、元気出して。元気になったらまたあそぼう? 川もすぐに元に戻るよ」
「ビト。いくよ?」
あたしは解毒から始めた。
大量の毒水を解毒したおかげで、この毒のことは熟知している。
解毒の仕方も毒が引き起こした症状の治し方もはっきりとわかった。
「いける」
あたしはビトを解毒し、むしばまれた内臓や筋肉や脂肪、血管を癒やしていく。
腫瘍を治し、ただれた皮膚を元通りにしていった。
全部治療したあと、解呪した。
まだヘドロの様な物に覆われているが、体自体は治っているはずだ。
「スイちゃん、きれいにしてあげて!」
「任せるのである!」
スイはビトの全身を魔法で作った水で包んだ。
ビトの全身はあっという間に綺麗になり、中からこげ茶色いの可愛い動物が現われた。
あたしとサラとナザニンが優しく撫でると、ビトは目を開けた。
「ビト? わかる? ナザニンだよ?」
「む~むむ~」
ビトは嬉しそうに両手をぶんぶんと前後に動かした。
「ごめんね。ごめんね。ビトだって気づかなくて、矢で射てしまって……」
「む~」
「ありがとう、ビト。みんなをまもってくれたんだよね?」
「むむ~」
謝ってお礼を言うナザニンの頭を、ビトは優しく撫でた。
「ガウガウガウガウ!」
そのとき、少し離れたところにいたダーウが急に吠えて駆けだした。
同時にキャロがあたしの肩の上に乗り、コルコがあたしの前に飛んできた。
「ダーウ?」
「ダーウ、でかしたのである! 逃がすか。愚か者が!」
スイが小さな水の弾丸を飛ばすと「ぎゃっ」という悲鳴があがった。
直後ダーウが、悲鳴のあがった場所に到着し、
「ガウガウガウガウ!」
何者かを押さえつけた。
「ダーウ。お手柄であるな!」
スイがそういいながら、魔法を駆使して、水を操りそいつを縛りあげた。
そして、スイがそいつを引きずってつれてくる。
「逃げ遅れた間抜けな呪術師なのである!」
「がうがう!」
あたしはダーウの頭を撫でる。
「ダーウ。だいかつやくだな? 今日はダーウに頼りっぱなしだな?」
「わふぅ~」
「キャロとコルコもありがと」「りゃむ~」
そして、キャロとコルコをなでる。ロアはあたしの頭の上からお礼を言っていた。
キャロとコルコは、あたしとロアを守るために咄嗟に動いてくれたのだ。
あたしは呪術師をみた。
「ビトたちを呪ったのも、前男爵をあんなふうにしたのもおまえか?」
「…………」
呪術師は応えない。
「おまえ、呪いをかくして毒をつかったな? 呪術師なのに、なんでだ?」
呪いを使ったのは最後の最後。あたしたちがやってくる直前だ。
それまでは毒を使って、あたしやクロ、守護獣達に呪術師だと気づかれないようにしていた。
まるで、あたしやクロがいると知っていたかのような動きだ。
「呪われろ! おぞましい娘! 厄災の悪女め!」
「ガウガウガウガウガウ!」
ダーウが棒を離して、呪術師の首根っこを咥えると、ぶんぶんと首を振る。
おかげで呪術師は振り回されて、目を回す。
「ダーウ、ありがと。でもひつようない」
そういうと、ダーウは呪術師から口を離して、棒を咥えなおした。
「…………はぁはぁ、おぇ」
ダーウに振り回されて、吐きそうになっている呪術師にあたしは言う。
「こたえになってないな?」
「わかった。話す。だがお前以外に聞かれたくない」
「えー、みんなにもはなせばいいよ?」
「……今頃、呪者が村を襲う準備が整った頃だ」
「なに?」「え?」
あたしとサラが同時に声を上げた。
「止める方法がある……教える代わりに俺を助けてくれ」
「情報が役にたてばな? 命は助けてあげられるかもな?」
「だが、裏切り者は許されない。どこに耳があるかわからないんだ。だから」
だから、あたし以外に聞かれたくないと言うことらしい。
「仕方ないなぁ。なに?」
『不用意に近づいたらだめなのだ!』
あたしは、クロの忠告を無視し、サラやスイに少し離れてもらって呪術師に近づいた。
確かにクロの言うとおり、不用意に近づくのは危険だろう。
だが、村が襲われようとしているなら、少しでも情報が欲しい。
情報を得られる可能性があるなら、危険ぐらい冒すべきだと思ったのだ。
「……ここにいた全てはおとりだ。守護獣を呪者にする技法が今にも完成する」
「なんだって?」
「それを応用すれば、精霊を結晶化することもたやすい」
そういって呪術師は、にやりと笑う。
「技法を完成させるために、残った唯一のモノを手に入れるために我らは動いている」
そう言って、呪術師はさらに声を潜める。
「ゆいいつのものってなんだ?」
「……それは」
さらに声を潜めたので、あたしは呪術師の口元に耳を近づけた。
「お前だ! ぶぶえ」
次の瞬間、呪術師の頭が破裂した。
呪術師の頭の中にあったらしい、金属質の塊があたし目がけて飛んでくる。
「汚たな!」
あたしはベシッと、その塊をかっこいい棒を使って、地面にたたき落とした。
「ココ!」
落ちた塊はコルコの爪で斬り裂かれて動かなくなった。
「しんだのであるか?」
『自分の中に呪者をうめていたのだ』
「怖いことするなぁ」
『ルリア様! 呪術師に不用意に近づいたら危ないのだ!』
「ごめん」
「ルリアちゃん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだ」
あたしとサラが話している間も、クロは金属の塊を調べていた。
『……これは人を呪者とする技法を使っている? いや、となると』
「クロ?」
『こいつの言っていたことは、きっと事実なのだ』
「言っていたことってどれ? 村がおそわれるってこと? それとも」
守護獣を呪者にしたり、精霊を結晶化する技術が完成間近と言うことか。
『両方なのだ』
「なに?」
「たいへんだ。ルリアちゃん、村にいそがないと」
「そだな」
その後、サラが素早く皆に指示を出す。
ナザニンはサラと一緒にサンダーに、狩人父はトマスと一緒に馬に乗る。
ロアはいつも通りあたしの頭の上だ。
そして、ビトはスレインに乗ることになった。
キャロとコルコにはサラの護衛のためにサンダーに乗ってもらう。
「ルリアちゃん、先頭をおねがい! サラ達がおくれても気にしないで!」
「サラの護衛はスイとトマスに任せるのである!」
「わかった! レオナルド! ダーウ、いくよ!」
「ブルルル!」「わふわふ!」
あたしはレオナルドに乗って、村に向かって走り始めた。





