184 決壊するダム
あたしに頭部を、ダーウに足を切断された化け物は、
「ギザマ!」
勢いよく転倒しながら、あたし目がけて右腕を伸ばす。
「おそい!」
その腕をあたしは切断した。腕は勢いよく、溜まった毒水へと飛んで行く。
化け物本体は両足と、右腕を失い、河原に倒れこんだ。
「倒したのであるか!」
「わかんない! とどめをさ――」
あたしがそう叫んだ次の瞬間、強烈な爆発音が響いて、ダムの一部がはじけ飛んだ。
飛んだ化け物の腕が毒水の中で爆発し、ダムを破壊したらしい。
「あれは、わざととばしたのか!」
化け物は死ぬ間際に嫌がらせをしていったのだろう。
本当に厄介なこと、このうえない。
「ま、まずいのである! ぬおおおおおおおおお!」
ダムの壊れた部分から、流れ出した大量の毒水をスイが水魔法を駆使して食い止める。
「ルリア! 思ったよりきっついのである! 速く解毒するのである!」
「わ、わかった!」
見た目よりも水量が多かったらしく、スイでもギリギリなようだ。
あたしはスイが食い止める毒水に向けてかっこいい棒と木剣を向ける。
『そうなのだ! そのまま棒と木剣を通じて治癒魔法を毒水にかけるイメージなのだ!』
「わかった!」
『解呪するイメージでも良いのだ! ルリア様の精霊力はそれ自体に解毒する力があるのだ』
「がんばる!」
『クロも力を貸すのだ!』
「ありがと!」
あたしはクロの指導と援助を受けながら、大量の毒水を解毒していく。
「りょ、りょうが多すぎるな?」
「そうなのである! だから、きっついのである! 精霊もいないし!」
目測がこれほど当てにならないとは思わなかった。とにかく水量が多かった。
「スイちゃんがんばって! ルリアもいそぐな!」
「うむ!」
あたしはダムの上流側の河原で、レオナルドに乗ったまま、毒水を解毒していく。
スイは下流側の河原でダムの崩壊した部分から流れ出そうとする水を魔法で食い止めている。
ダムの崩壊した部分の幅は父の身長の二倍ぐらい。高さは父の身長より少し低いぐらいだ。
そこに、溜まった大量の水が一斉に流れ込もうとしている。
スイが魔法で固定している部分にかかる圧力は相当なものだろう。
「しかも呪者! ダーウ!」
「ばうばう!」
あたしとスイが毒水への対処をしているところに、上から呪者が現われて襲ってくる。
だが、ダーウが素早く反応し、呪者を倒してくれた。
「ありがと。急に出たな?」
「召喚とかそういうやつなのである! 多分!」
必死の形相で毒水を抑えながら、スイが叫ぶ。
ダーウはあたしと化け物の間に立って、化け物が襲ってこないよう警戒してくれている。
あたしは倒れた本体をちらりとみた。ピクリともしていない。
「ダーウ、レオナルドもゆだんするな! いつまた、あらわれるかわからん」
「ばう」「ぶるる」「りゃあ~」
ダーウは警戒して、姿勢を低くし鼻をヒクヒクさせている。
レオナルドは耳をピンと立てて、警戒していた。
あたしの頭上にいたロアは、今はレオナルドの鬣にしがみついて警戒してくれている。
あたしは警戒をダーウとレオナルド、ロアに任せて、必死になって解毒する。
「たいりょうすぎるな?」
『精霊力がいくらあっても足りないのだ!』
「いそぐのである!」
スイが水を食い止め、あたしが必死になって解毒している中、
「ガウガウガウ!」「ブルル」「リャアア!」
「キュキュキュ」「ココゥ」
ダーウ、レオナルド、ロアと、キャロとコルコが一斉に鋭く鳴いた。
今度はサラ達の頭上に、突然呪者が二体現われたのだ。
それは羽の生えた白い猿に似た呪者だった。
「キュキュ!」「ココココッ!」
キャロとコルコが素早く反応し、急降下してきた呪者に反撃する。
キャロは飛びついて牙と爪で切りさいて、コルコは飛んで爪とくちばしで仕留めた。
「サラちゃん! だいじょうぶ?」
「うん! ルリアちゃん、こっちはだいじょうぶ! あんしんして!」
サラはびっくりした様子だが、怪我はなさそうだ。
「急にあらわれたな? どういうこと?」
呪者はやってきたというより、その場で発生したように感じた。
こんなことは初めてだ。
『わかんないけど、このあたりにはいろんな仕掛けがあるっぽいのだ!』
「むむ? キャロ、コルコ、きをつけてな!」
「きゅ」「こ」
キャロとコルコは「こっちはいいから、解毒に専念しろ」と言っていた。
「ダーウ、サラちゃんの護衛に」
「……」
だが、ダーウはあたしの命令を無視した。全く動かない。
「ダーウ? どした?」
次の瞬間、今度は十匹を超す呪者が現われてサラ達を襲う。
「キュキュ!」「ココッコ!」
キャロとコルコが素早く動くが数が多い。
さすがのキャロとコルコでも、全てを迎撃できず、三匹逃した。
「…………」
そのうちの一匹、サラに襲いかかった呪者はミアが素手で殴り倒した。
もう一匹は、トマスが剣で斬り、地面にたたき落とす。
落ちた呪者は、即座にキャロがとどめを刺した。
最後の一匹は狩人を襲う。
「ば、化け物」「た、助けて」
狩人親子は間近で呪者をみて、恐怖で悲鳴をあげた。
弓を構えることすらできていない。
狩人親子は恐ろしい獣を相手にしたことはあっても、呪者と戦ったことはないのだ。
動けなくても当然だ。
最後の一匹の呪者は、狩人娘ナザニンに狙いを定めたらしい。
「……ママ、たすけて」
ナザニンは、恐怖のあまり目を瞑って身を竦ませる。
「まずい――」
あたしは解毒しながら、魔法を放ってナザニンを助けようとしたが、
「む! む!」
呪者とナザニンの間に入った者がいた。
そいつはナザニンを斬り裂こうとする呪者の爪を腕で掴んで止めたのだ。





