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【コミックス2巻発売中!】転生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる  作者: えぞぎんぎつね
四章

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168 風邪をひいたマリオン

 次の日の朝、あたし達が食堂に向かうと、マリオンまでいなかった。


「ママは?」


 サラが尋ねると、侍女の一人が笑おうと努力している引きつった顔で教えてくれる。


「閣下は、風邪をひかれまして……」

「え? 大変だ!」

「お待ちを! 閣下から、サラ様は近づけるなと!」


 走り出したサラの腕を、慌てて侍女が掴もうとし、ひょいと躱される。


「サラちゃん、まってな?」

「…………」


 だからあたしとミアがサラを捕まえた。


「でも、ルリアちゃん。ママが死んじゃう!」


 サラは少しパニックになっているようだ。


 少し前までマリオンは大病を患っていた。

 大病ではなく呪いだったのだが、サラは治るまでずっとマリオンが病気だと思っていたのだ。


 また病気になったと聞いて、慌てるのも無理はない。


「大丈夫、いざとなったら、なんとかするからな? ルリア、治すのは凄く得意」


 あたしはサラの耳元でささやいた。


「……うん」

「ねね? マリオンはどんな感じだ?」


 落ちついたサラの頭を撫でながら、あたしは侍女に尋ねる。


「いえ、大した症状では」

「正直におしえてな? そうじゃないとお見舞いしたくなるからな?」


 あたしはそう言って、じっと侍女の目を見つめた。

 侍女はあたしをみて、それから不安そうにしているサラをみた。


「サラ様。いえ、男爵閣下。男爵代理閣下から私どもへのご命令をお教えいたしますね」

「うん」


 侍女はあえてサラを爵位で呼んだ。

 きっと、責任ある振る舞いをしてほしいという願いからだろう。


「代理閣下は、男爵閣下に万一がないよう、近づけないように厳命なさいました」

「でも……ママが……」

「代理閣下が倒れられた今、男爵閣下まで倒れられたら私たちはどうすればいいのですか」


 侍女は膝をつき目線を合わせると、サラの肩に手を置いた。


「どうか。どうか。お願いいたします」

「……わかった」


 サラの返事を聞いて、侍女はほっとした様子を見せた。


「それで、マリオンのようすをおしえてな?」

「発熱と咳、頭痛と嘔吐で……閣下は仕事を続けようとされておりましたが……」


 医者によって止められたのだという。


「閣下ご本人は仕事を続けたいと思われたほど、元気と言うことですよ、サラ様」

「うん」

「お医者様が仕事を止めたのは、無理をして悪化したら大変だからです」


 ただの風邪に過ぎないから心配はいらないと侍女は強調した。


「ふむ~。侍女たちにも風邪がはやっているのな?」

「ルリア様、なぜそれを?」

「昨日より、人がすくないし? それに昨日も少し様子がおかしかったからな?」


 あたしがそう言うと、侍女は悲しそうな自然な表情で頷いた。

 最初、笑おうとしていたのは、サラを不安にさせないためだったのだろう。


「そっか……。とうさまとかあさまには?」


 あたしは近くにいた従者に尋ねた。


「大公殿下と妃殿下には毎日書簡で報告しておりますゆえ」

「なら、大丈夫。サラちゃん。すぐになんとかしてくれるよ?」

「うん」


 あたしはサラを元気づけるためにそういった。

 だが、そう簡単ではないのも確かだ。


 大公邸まで馬車で二泊三日も離れているのだ。

 もちろん、早馬を使って、馬を交換すれば、もっと速く移動できる。

 それでも、一日以上かかるだろう。


 昨日までに大公邸に届いたのは姉が風邪をひいたという報せだけ。

 マリオンと侍女が沢山倒れたと報せる書簡が出発したのは今朝のはずだ。

 それが、父の元に届くのは明日のお昼ぐらいだろう。


 父がどれだけ大急ぎで対応策を練っても、数時間はかかる。

 医者や薬、侍女やマリオンの仕事を手伝う行政官を用意するのだ。


 応援の人員が、明日の夜に向こうを出発できれば、相当早いと言っていい。

 それから、こちらに大急ぎで向かって、到着するのは明後日の深夜ぐらい。

 行政官や侍女達は馬車だろうし、もっと遅いだろう。


「サラちゃん、大丈夫。ルリアがいるからな?」

「スイもいるのである! サラは大船に乗ったつもりでいると良いのである」


 スイがサラのことをぎゅっと抱きしめると、ミアもぎゅっと抱きしめた。


「うん。ありがと」

「じゃあ! ごはん食べないとな? 今日のごはんもおいしそう!」


 あたしは目一杯明るく言った。


「うん!」

「うまそうなのである!」


 あたし達はおいしい朝ご飯を沢山食べた。

 あたしもスイも、そしてサラも笑顔だったが、どこか無理している感じがあった。



 朝ご飯を食べた後、あたし達は馬小屋に向かった。

 レオナルド達の世話をするためだ。


「わふわふ」

「かっこいい棒もってきたのか?」

「わふ~」


 ダーウはレオナルドとかっこいい棒で遊ぶのが楽しみらしい。

 棒を咥えて、元気にぶんぶんと首を大きく振っている。



 あたしたちが馬小屋に入ると、厩務員達が忙しく働いていた。


「お嬢様方、申し訳ありません。馬達が病気なようで……お構いできません」


 厩務員の長が申し訳なさそうに言う。


「それはいいけど、うまたち、病気なの? だいじょうぶか?」


 あたしは馬房の中を観察しながら尋ねた。

 サラとスイも心配そうだし、ダーウも棒を振らずに大人しくしている


「はい、軽い下痢です。その程度ならば珍しくないのですが……」


 一斉に下痢になったので、原因を調べたり薬を飲ませたりして忙しいようだ。


「お嬢様方の馬達は元気なので、ご安心ください」

「そっか、手伝えることがあったら、言ってな?」

「ありがとうございます」


 厩務員達が忙しいなら、なおさらレオナルドの世話は自分でしなければなるまい。


「レオナルドはげりじゃないな?」

「ぶるる~」

「あ、サンダーも元気みたい」

「スレインもである! スイの水を飲むのである!」


 サラとスイが嬉しそうにそう言った。

 厩務員からは元気だと言われていたが、実際に見るまで不安だったのだろう。


 あたしは、レオナルドのご飯を用意して、水を交換しブラシをかける。


「む? レオナルド、ぜんぜんみずのんでないな?」

「ぶるる~」

「え? まずいか? むむぅ~? レオナルドはグルメだなぁ?」

「ぶるるる」

「そだな、あとでスイちゃんに水だしてもらえばいいな?」

「任せるのである! 少し待つとよいのである!」


 スイが出した水はとてもおいしいのだ。

 レオナルドがスイの出した水以外飲みたくないと言う気持ちもわかる。


「ルリアも、スイちゃんの出した水、すきだな? うまいからな?」

「ぶる~」


 レオナルドのお世話が終わる頃、スイがやってきた。


「ほれほれ、うまい水なのである。しっかりのむのであるぞー」

「ぶるるる~」

「サンダーにもやるのである! あ、他の馬たちにもあげるのである!」


 そういって、ご機嫌なスイが馬たちに水を配っていると、屋敷の方が騒がしくなった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様&ありがとうございます いよいよ毒も領地に蔓延してきましたね。二人の周りはスイが水を確保していますから、まず病気にはならないのは幸いですね …で、今馬から少しだけヒントが出ましたが、こ…
これは、水源に異常が発生したか、なにか外的に影響を与えたものがいるか…。 何やら不穏さを感じる事態で読んでてソワソワしてきますね、おこちゃまを中心に一騒動ありそうです。 原因を究明の上、体に負荷をか…
発熱、咳、嘔吐、頭痛にも関わらず仕事をしようと元気? 何も知らない子供だからと、これはちょっと…… そしてレオナルドの水が不味いは呪いとは違うんだろうな だから精霊たちもわからない 水源に毒が回って…
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