164 具合の悪い姉
あたしはレオナルドから飛び降りると、姉に駆け寄った。
スイもスレインから飛び降りて、ついてくる。
サラも飛び降りようとして、トマスにとめられていた。
普通の五歳児が、大きな馬の背から飛び降りたら危険なので仕方がない。
「ねーさま、だいじょうぶか?」
「ちょっと、酔ったみたい」
姉が、少しふらついたので、あたしは太ももあたりを支えた。
もっとしっかり支えたいが、背が低いので無理だった。
「わふ」「任せるのである」
ダーウとスイが姉にそっと体を寄せて支えてくれた。
「ありがとう、ルリア、スイ、ダーウ」
「無理しなくて良いのである」
「…………ルリア、また大きな動物と仲良くなったの?」
姉はレオナルドを見ても大して驚かなかった。
「そうなの。馬小屋にいたから友達になった。名前はレオナルドにした」
「そう、レオナルド。お母様が喜びそうね」
そういって姉は微笑む。
「ねーさま、マリオンはどした?」
「マリオンは村長の家でお仕事中よ」
具合が悪くなった姉だけ、送り届けてくれたようだ。
そのため、馬車はまたマリオンを迎えに戻るらしい。
「レオナルドは馬小屋に戻っていてな? ルリアはねーさまをかんびょうするからな?」
「ぶるる~」
「大丈夫。それより馬に乗ったあとの手入れは、自分でやらないとだめよ?」
「でも……」
「私はただの車酔いだから休めばすぐに楽になるわ」
「そうか……。でもぐあいがわるくなったら、すぐルリアをよんでな?」
「ふふ。ありがと」
そして、あたし達は姉を侍女に任せて、馬の世話をすることにした。
レオナルドをブラッシングして、水と餌をあげる。
レオナルドは空いている馬房を二つつなげて使うことになったようだ。
馬小屋の壁は取り外すことができる仕様になっていたらしい。
「ありがとうな」「ぶるるる~」
あたしは大急ぎで馬房を用意してくれた厩務員にお礼を言うとレオナルドもお礼を言った。
あたし達は馬達の世話を終えて、屋敷へと戻る。
「たのしかったねー」
サラは本当にご機嫌で、ミアと一緒にぴょんぴょん跳ねながら歩いて行く。
「スイも楽しかったのである!」
「たのしかった。してんが高いし、はやいのもいいな?」
「ばう~」
「ダーウはでかいから、うまに乗るのはむりだよ?」
「わふ~?」
ダーウの背中には、キャロとコルコ、ロアが乗っていた。
屋敷に戻ったあたし達は食堂に向かった。おやつを食べるためだ。
「ねーさまも元気になったかな?」
「なってるとおもう。馬車よいだし」
「リディアはもうおやつをたべたであるかなー?」
そんなことを言いながら、あたし達は席に着く。
「ねね、ねーさまは? おやつたべた?」
「リディア様は、食欲が無いとのことで、まだお休みですよ、でも心配はいりません」
侍女が笑顔で教えてくれた。
一昨日、この屋敷に到着する直前も姉は馬車酔いしていた。
そのときは、すぐに治っていたのに、今回は少し長引いている。
「そだな! すぐに治るな?」
「ルリアちゃん、あとでおやつもっていってあげよ?」
「うむ。一緒に食べるのである!」
そんなことを言いながら、あたし達はおやつをむしゃむしゃ食べた。
今日のおやつはリンゴを沢山使ったタルトだった。
「うまいうまい。……これが特にうまいから、ねーさまに多めにもっていこう」
「大丈夫ですよ? リディア様の分はちゃんとご用意してございますから」
そういうことなら、安心して食べられるというものだ。
「この木の実うまいな? 王都でたべたやつよりうまい気がする」
「そうだね、おいしいね!」
「違いはよくわからないけど、全部うまいのである」
サラもスイもうまいと言っている。
「ロアと、キャロ、コルコも食べてな? おいしいよ」
「りゃむ」「きゅきゅ」「ここ」
「ダーウもうまい?」
「わふ~」
みんなもうまいと言っていた。
「タルトに使われているリンゴは、この領地で採れたものです」
「おお、サラちゃんの領地、いいね!」
おいしいリンゴが採れるし、馬をはじめとしたいろいろな動物たちもいる。
「ここで、のんびり暮らしても……いいかもしれない」
「えへへ。ルリアちゃんもここにすむ? サラは大きくなったらすむ」
領主は、王都と自分の領地に交互に住むのだ。
社交の季節は王都に、それ以外は自分の領地に住むのが一般的である。
王都に在住している父のほうが珍しいのだ。
「もし、万が一のときは、ほんとうにルリアがここにすんでいい?」
「いいよ!」
「やったー」
もし、何かあっても、ここでのんびり暮らせたら楽しそうだ。
「スイもスイも! 一緒に住むのである!」
「スイちゃんもいいよ!」
サラにそういわれて、スイは嬉しそうに尻尾を揺らす。
「わふわふ~」
「ダーウは、とうぜん、ずっとルリアと一緒だよ?」
そういって、あたしはダーウのことを撫でまくったのだった。