146 精霊力を抑えるルリア
パンを食べ終わったあたしはスイに尋ねる。
「スイちゃんの魔力のおさえかたは、どんなのだ?」
「まず、魔力を隠す感じなのであるからしてー。出るなーって感じなのである」「りゃ~」
ロアはスイの頭の上に載って、一緒に指導してくれていた。
「ほうほう? でるな~。お、だいぶ抑えられたな?」
『めちゃくちゃ出てるのだ』
あたしとして、抑えられたと思ったのだが、全然だったらしい。
「むむう~」
「ルリアちゃんがんばって!」「…………」
サラとミアは絵本を読むのをやめて、応援してくれている。
キャロとコルコも真剣な表情であたしを見守ってくれていた。
そして、ダーウは「はっはっ」と舌を出して尻尾を振っていた。
「ありがと、がんばる。でるなぁ」
『さっきより出てるのだ!』
思ったより精霊力を抑えるのは難しいらしい。
「思ってたより、ルリアは下手くそであるな?」
「え?」
スイが辛辣なことを言う。
「抑えるというより、少しだけ出すという意識の方がよいかもしれないのである」
「ほほう? やってみるな?」
あたしはアドバイスに従って、やってみた。
「むむぅ」
『お、ルリア様、大分抑えられているのだ!』
「こんなかんじか~。コツがわかったかもしれない……。ふんふんふん」
精霊力を抑えた状態で木剣を振り回す。
『お、いい感じなのだ! さすがルリア様なのだ!』
「ばうば~う」
ダーウが嬉しそうに、尻尾を振りながら褒めてくれた。
「おお、凄いのである。ルリア、一気にうまくなったのであるな」
スイも褒めてくれる。
「ふんふんふん、ちゃあ~」
『ちゃあ~じゃないのだ! ちゃあっていった瞬間、精霊力がぶわっと出たのだ!』
「ふんふんふん……ちゃ」
『ちゃあじゃないのだ!』
油断すると精霊力が出てしまうらしい。
『わーいわーい』『おもしろい~』『きゃっきゃ』
小さな精霊達が我慢できなくなったようで、木剣にまとわりつく。
「ちゃんとよけてな?」
『うわーあたった!』『わーわー』『きゃっきゃ』
小さな精霊達はあたしが振り回す木剣に当たるのが楽しくて仕方ないらしい。
精霊達は物理的な体を持たないため、物理的な刺激が全くない暮らしをしている。
だから、あたしがふりまわす精霊力をまとった木剣にぶつかる刺激が嬉しいのだ。
クロによると、あたしの木剣に当たることは、いい刺激になり精霊の発育も良くなるらしい。
あたしは精霊達と遊ぶのが楽しくて、いつの間にか夢中で木剣を振っていた。
「…………ルリアの上達が恐ろしいのである」
『さすがはルリア様なのだ』
「なんかいった?」
「ルリア、もう完璧なのである! がんばったのであるな」
『これなら、いくらでも木剣を振ってもいいのだ!』
スイとクロが褒めてくれた。
「そっか。完璧になってしまったか。この調子で魔法も」
『魔法は別なのだ。抑えると言っても限度があるのだ』
「魔法はだめだったか」
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ~」
あたしがそう言うと、母付きの侍女が入ってきた。
侍女は木剣を振り回すあたしを見て、一瞬ぎょっとした。
「はっはっはっはっ」
そんな侍女に、ダーウが尻尾を振りながら、近づいていく。
「どした?」
あたしは木剣を振り回しながら尋ねる。
「ルリア様、サラ様、それに水竜公閣下。奥方様がお呼びです」
「くぅーん」
ダーウは侍女の手の下に頭を入れている。撫でろと言っているのだ。
侍女も嬉しそうにダーウを撫でる。
「ダーウ、今日も良いこね」
「わふ」
あたしはそれを見ながら考える。
「かあさまがよんでいる……。なにかやったか?」
叱られる心当たりはない。
「やってないとおもう」
「ダーウ、いや、あっまさか、スイちゃんが?」
「あっ」
あたしとサラはスイを見る。
あたしでもサラでもないなら、叱られることをしたのはスイに違いない。
「え、スイであるか? なにもやってないのである」
「スイちゃん、さっきのパンって、きょかもらった?」
「あっ」
サラに尋ねられて、スイは顔を青くする。
どうやらパンはキッチンから無許可で持ち出したものらしい。
「スイちゃん、やっちゃったな?」
「ばぁぅ~」「りゃあ~」
ダーウとロアが同情の目で、スイを見つめる。
「だいじょうぶ。ルリアも一緒にあやまるからな?」
「サラもあやまってあげるね?」
「すまぬのである」
「じゃあ、いこっかー」
あたしたちはしょんぼりしたスイと一緒に母の部屋へと向かった。





