143 解決
◇◇◇◇
王と王太子が合流した後、ルリアとサラ、スイと守護獣たちは王の私室へと向かった。
ルリアたちを見送った後、王は近衛騎士達に向かって言う。
「そなたたちの中には、あの狐仮面の正体に気づいた者もいるだろう」
近衛騎士の大半は気づいていた。
あの方はヴァロア大公家の末娘ルリア・ファルネーゼ様だ。
背格好が同じだし、声も同じだ。大きな犬を連れているという噂の通りだった。
「だが、口外してはならぬ。狐仮面は正体を隠しているのだからな」
「御意」
王がそういった理由も、近衛騎士達は理解できた。
あれほどの力があると知られれば、悪用しようとするものが必ず現われるだろう。
魔法も、治癒魔法も解呪の能力も、全てがあり得ないほどの水準だった。
この目で見なければ、信じられなかっただろう。
「そのうえで頼む。もし、狐仮面が窮地に陥るようなことがあれば、助けてやって欲しい」
王がそういうと、近衛騎士たちは跪く。
「陛下。狐仮面様がいらっしゃらなければ、我らも無事ではすまなかったでしょう」
近衛騎士達は狐仮面は命の恩人だと語る。
「命に替えましても、お助けすることを誓います」
「ありがとう」
王にお礼を言われて、近衛騎士たちは驚いた。
◇◇◇◇
王と王太子は後始末で忙しいらしいので、あたしたちは王の私室へと向かった。
あたしとサラ、スイとダーウ達も一緒だ。
ちなみにコンラートは王太子宮に戻っていった。
「うまいうまい」
「ばうばう」
王の私室には沢山のお菓子が用意されていたので、バクバク食べた。
ダーウもうまいうまいと食べている。
「やっぱり、魔法を使うと、おなかがへるのだなぁ」「ばう~」
「ルリアちゃん? さっきおやつに毒が入ってたのに、こわくないの?」
「ないよ? だってくさくないもんな? ダーウ」
「ばう~」
サラだけでなくスイも警戒しているようで、まだ食べていない。
「ほんとに大丈夫であるか?」
「うん。だいじょうぶだよ!」「ばうばう」
「そっか、ならば、スイも……うまいのである!」
「なーうまいな? サラちゃんもたべよ」
「う、うん。あ、おいしい」
「サラちゃんも動いたからお腹すいたでしょ」
「すいた」
一度食べ始めると、サラもバクバク食べる。やはりお腹が空いていたようだ。
「キャロとコルコ、ロアも食べるといい」
「きゅ~」「こここ」「りゃありゃ」
「ミアには精霊力をあげよう」
「…………」
おやつを沢山食べてお腹いっぱいになると眠くなってくる。
「ふわ~おひるねしよ」
『それがいいのだ! ルリア様は力を使いすぎたから寝た方が良いのだ!』
「クロもそうおもうか……」
そして、あたしとサラは、横になったダーウの背中で眠ったのだった。
◇◇◇◇
ルリアたちが昼寝を始めてから三十分後、
「ルリア!」
王の私室にルリアの父、グラーフとアマーリア、それにマリオンが飛び込んできた。
「……二人とも寝てるのか」
グラーフはルリアたちの無事な姿を見て胸をなで下ろし、
「よかったです」
マリオンはサラをぎゅっと抱きしめた。
「よく眠っているわね」
アマーリアはルリアを抱きあげる。
「んみゅ? ごはんか?」
「そうね、帰ったら御飯にしましょうね」
「うん」
一瞬目覚めたルリアは、すぐにまた眠った。
「……陛下から連絡が来たときは肝が冷えたぞ」
そういって、グラーフはダーウを撫でる。
「ばう」
ダーウはグラーフの手をベロベロ舐めた。
「ダーウ、キャロ、コルコもルリアを守ってくれたんだろう? ありがとう」
「ばう」「きゅ」「こ」
「水竜公も……」
「もうたべられないのである~」
スイは仰向けで眠っていた。
そして、グラーフたちはルリアたちを連れて屋敷へと戻る。
ルリアはアマーリアが、サラはマリオンが抱っこして、スイはグラーフが背負って馬車まで運ぶ。
馬車の中でマリオンがグラーフに尋ねた。
「これからどうなるのでしょう? 内乱が起こるのでしょうか?」
「それは大丈夫だ。今頃、ナルバチア大公の城は落ちているはずだ」
王が兵を動かして敗北が必至になったので、クーデターを起こしたのだ。
宰相も、ナルバチア大公が捕縛されれば、裏で繋がっていることがばれることを恐れた。
それゆえに、宰相はクーデターに賛同したのだ。
それに「北の沼地の魔女」に関しても、追い詰めつつある。
壊滅するのは時間の問題だ。
「今回のクーデターは窮鼠が猫を噛もうとしたものだ」
窮鼠はいいところまで、猫を追い詰めた。
王が死んでいれば、情勢は大きく動いただろう。
「内乱に至らなかったのは、陛下と兄上が無事だったからだ」
つまり、内乱を防いだのは、ルリアたちの功績である。
「本当にたいした娘達だ」
グラーフは愛娘の頭を優しく撫でた。
「……ぜんぶたべていいのか?」
ルリアは寝言を呟いて、よだれを垂らした。
今回の話で三章はおわりです





