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【完結】本当の犯人は?  作者: 嗣藤結子
3/7

 

『拝啓、二十四歳の俺へ



 お元気ですか。社会人生活は楽しいですか。


 仕事とかしてそれなりの月給を稼げているはずなので、さぞや充実した日々を送っていることでしょう。


 今の俺は少し財布の中身が乏しく、勉強、強制的に選ばされた体育会系の部活動、深夜の塾通いで気が滅入りそうです。


 早く貴方の年に追いつき、少しでも自由な生活を送れたらと思います。



 敬具




 『拝啓



 春暖の候 ますますご清祥のこととお喜び申し上げます


 こちらは特に怪我もなく、体調に問題はありません。


 まことに申し上げにくいのですが、現在、私は会社員ではございません。


 ささやかな趣味を堅持するため、目減りする貯金と就職活動との戦いの日々を送っております。


 充実した日々とは、如何様なものでしょうか。貴方様にこの虚しい時間を差し上げることができれば宜しいのですが。


 強制的に与えられる予定というものは、煩わしく思われるかもしれません。ですが、人によっては大変得難いものであることを留意すべきです。


 どうぞご自愛ください。



 敬具



 追伸 二十四歳になっても酒飲める以外、なにも良い事ないぞ。就活中に警察に連行されたり、な。』






 ドンッ!


「そんじゃ何か、十四年も前に埋めた五百円玉ぽっちを取り出すために、あんなところで土掘ってたってのか?」

「だから、さっきからそう言ってるじゃないっすか、刑事さん」


 この刑事のおっさんは机を叩き慣れているのだろうか。結構大きい音が鳴ったのだが、痛くはないのだろうか。

 四畳程度の部屋の中央に事務机が鎮座した、いわゆる取調室らしき所で、俺は二人の刑事より事情聴取を受けている。

 俺の目の前で脚を開いて座っている、くたびれたスーツを着て、白髪交じりの髪をオールバックにしたいかにもベテランといった風のでかいおっさんが、呆れ交じりに遺体発見までの経緯を根掘り葉掘り聞いてくるのだ。


「タイムカプセルなんてもん埋めるようなかわいいガキだったんだなぁ、お前さん」

「男にかわいいとか言わないでくださいよ、刑事さん」

「もしこの話が本当なら、お前さんも難儀なもんだなぁ。小金を掘り出すところを、死体を埋める場面と勘違いされたってわけか。如月(きさらぎ)、お前も早とちりしたな。後で始末書もんだぞ」


 俺を引っ張ってきた張本人であるもう一人の刑事の兄さん、もとい如月さんは、おっさんの頭越しにある扉の傍で、ノートパソコンを開いていた。俺より三、四歳くらい年上だろうか、すらっとした体形で、身長がそれなりにある。真っ黒なストレートの髪を七三の左分けにして、メタルフレームの眼鏡をかけていた。だが、刑事って職は犯人を取り押さえたりと、荒事が多いはずなのに眼鏡なんかかけていて大丈夫なのだろうか。目が悪ければコンタクトにするのでは? いや、伊達という可能性もある。お堅い刑事さんもオシャレをするのだろうか。女受けしそうな兄さんである。


「そこの刑事さんにこんな所に連れてこられたせいで、就活に影響が出たらどうしてくれるんですか」

「任意同行では影響は出ないと思いますが、須藤さんの身の潔白が確認でき次第、改めて謝罪を」

「悪いな須藤さん、長いこと付き合ってもらってよ。一応死体の関係者じゃないか調べなくちゃならんからな。こいつもこんな不愛想だが、悪いとは思ってるんだ」


 このいけ好かない兄さんとは違って、おっさんは気のいい人である。おっさんが聴取の相手で良かった。でなければ、舌打ちの一つや二つはしていたことだろう。


「失礼いたします」


 突然部屋の扉が開いて、男が如月さんに資料を渡して去っていった。

 如月さんはそれに目を通すと、おっさんに手渡してこう言った。


「人骨の主は、十四年前に行方不明になっていた風音桃花さん、当時十二歳のものでした。遺骨の状態から、他殺の線が濃厚です。彼女に心当たりはありませんか」

「風音桃花……いや、知らないと思いますよ。俺十四年前っていったら十歳だから年齢も違うし」

「お前さんさっき五百円玉を十四年前に埋めたとか言ってなかったか? 埋めた時の前後に彼女に会ってたりとかしたんじゃないのか」


 当時のことを思い出そうとしてみるが、ずいぶん昔のことだ、はっきりとは覚えていない。だが、硬貨を埋める際、誰かに盗られないよう周囲には気を付けていたはずなので、道中一人でいたと思う。また、誰かが先に来て隠れていたとしても、確か山道に足跡はなかったのでその可能性は低い。


「いや、会ってはいないと思いますよ。お宝を守るのに必死でしたし、周囲に気を配っていた記憶がうっすらとあるので」

「そうか。じゃ、ガイシャ(被害者)がマル被(被疑者)にやられた日とは別日かもしれねぇな」


 おっさんはそう言って立ち上がった。見上げると、彼の顔に影が差している。取調室に来たころより、だいぶ外は暗くなっていた。


「ありがとよ、須藤さん。一応事件に関連がないか、こちらでお前さんの過去のことを調べさせるが、まあ、許してくれな」

「聴取にご協力、ありがとうございました」


 やっと帰れるようだ。

 俺の経歴は隅々まで探られそうだが、俺なんかのろくでもない人生なんて調べても無駄足だと思う。けれど、それが仕事のようなのでしょうがない。

 そうか、俺の過去か……嫌なことを思い出してしまった。

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