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【完結】本当の犯人は?  作者: 嗣藤結子
2/7

 

 青い空と、白い雲。柔らかな日差しが降り注ぎ、温かな風が心地よい。

 もう何年目ともなる就職活動に追われる事となり、大いに荒んだ心も少しは前向きになる今日この頃。いつもと違い、遊ばせた黒髪、ジーンズにTシャツと軽く上着を羽織った出で立ちで、俺は人里より少し離れた山奥を歩いていた。

 記憶は(おぼろ)げだが、確かに懐かしく思う山道を、満開であろう一本の桃の木を目指して進む。まさか、田舎にしては一時期話題になった、小説のモデルであるあの木が切り倒されていることはないだろう。ここへ足を踏み入れるのは約十年ぶりか、いや、あんな事をしてからもっと経つ。

 そんな感傷に浸っているうちに、目当ての場所へとたどり着いた。

 以前と変わらず、不思議と周囲は草ばかりの開けた場所で、一本の薄桃色の木が(たたず)んでいる。

 吸い込まれるように近くに寄り、ほんの一時、その美しさに見惚れた後、


「よし、掘るか。」


 と少し気合を入れてから、俺はショルダーバッグを手元に寄せた。ジッパーを開け、先日百均で買ったばかりのシャベルを取り出し、桃の木の根元を掘り始める。サクサクと良い音を鳴らし、リズムよく掘り進めていく。土地よって呼び名が違うようなので一応明記するが、俺の出身地ではスコップが大きい物で、シャベルが手持ちサイズの物である。


 さて、もうお気づきであろうが、俺は花見をしに探し物ならぬ探し場所をしに来た訳ではない。

 実は、昔この場所に埋めたはずの五百円玉がどうなっているのかを確認する為に、再訪したのだった。

 

 何故そんな事をしたのかって? それは昔町を騒がせた小説の作中で、この桃の木の根元という場所は特別な意味を持つからだ。貧しい家に育った主人公が、親に内緒で貯めたへそくりをタイムカプセルに詰め埋めた場所であり、さらに言うと、終盤そのタイムカプセルの中の金額が何の奇跡か増えて大金になっており、主人公のマイホーム購入を助けるという、ありがたい桃の木様なのだ。最寄りの駅で偶然拾った五百円玉をこの木の根元に埋めるという行為は、その物語を知った幼き少年の夢が大いに詰まっていたのである。

 

 いい年になって宝探し、しかも五百円玉という今にしては少ない金額、何をトチ狂ったことをと思うだろう。後になって思い返せばそうとしか考えられないが、まあ、気晴らし程度にはなるということさ。


 大人の平均体型より少し背が低く、瘦せているとはいえ、子供が掘った深さなど大したものではない。すぐ見つかるかと思っていたのだが、濁った金色の硬貨は、なかなか姿を現さない。掘り始める前に周囲がいじられたのかもしれないが、まさか当時の自分と同じように、フィクションを信じて物を埋めるような人物がいるとは思えない。念のため自分の気が済むまで掘り進めて見ようと、遠くからやってくる足音に気付かずに夢中で腕を動かし続ける。


 サクサク、サクサク――カツン!


「ん?」


 今まで聞こえなかった音がしたため、思わず声を漏らしてしまったが、なんだこの感触は。

 岩盤や固まった土とは少々異なる感触がする。

 これは当たりか? とはやる鼓動を抑えつつ、周囲の土を一気に掘りおこした。

 ふわりと土が舞い上がり、その一部を明らかにする。

 彼の目に入ったもの、それは小さなお宝でも、ましてや豪華な財宝でもない。白く、そしてそれなりの大きさである――



「……ほ、骨、なのか?」


「おい。君、そこで何をしている」



 人骨であった。



 


 その後のことは、ほとんど覚えていない。

 声をかけてきた男性が休暇中に居合わせた刑事で、警察手帳を見せられたり、事情聴取のため署で詳しく話を聞きたいと言われ、引きずられるようにして応援のパトカーに乗せられたりしたらしいが。

 俺はその間、ずっと呆けていたそうだ。


 須藤(すどう)健也(けんや)、二十四歳。ささやかな夢を追いかけていたら、殺人と死体遺棄等の容疑をかけられました。

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