お茶会の相手3
この国で、ヴェルディ、という名は王族の血を引く公爵家の一族で、
そして、
トランタ、
とは、そのまさに本家ヴェルディ公爵家の子息で、さすがに私でも知る次男の名前だ。
この国を支える2大公爵家のひとつヴェルディ公爵家は、代々外交事業を得意とし、その実績を培った知識を使い、今の御当主は外交大臣としてほぼ海外を回っていると聞いている。
何年か前からは、嫡男、アルインナ様を同行させ、自分の後継者だと知らしめているらしい。
そして、もう1人の子息、トランタ様。
この国の王子、アトラス様の学友であり親友であり、片腕であり、参謀だと噂されている方だ。殆ど表に出ないが、アトラス様を強固な足場を造る頭脳明晰な方だ、と誰かから聞いた。
そう。
聞いた、
程度くらいの、私にとっては雲の上の存在だ。
その人が、
まさか、
ここに?
「同姓同名?」
こぼれた言葉に、その人は目を細め笑った。
「くっくくくく、そう来るとはな。ということは、俺の名前は知っている、という事。いいぜ、それで十分だ。残念ながら、本人だ。さて、俺の紹介は終わったから、次は、可愛らしくむくれるご令嬢の紹介をお願いしようか?」
馬鹿にしているとしか思えない言い方に、心の中のむっとしたのが顔に出たていたようで慌てて、にこやかに微笑んだ。
「失礼致しました、公爵子息。私は、スティール・ニルギスと申します」
途端、公爵子息は残念そうな顔をした。
「名前で呼んで欲しいな。俺も、既にスティールと呼んでいるだろ?それに、会った時はもっと砕けた喋り方だったし、今っだって、砕けた言い方の時もあった。俺はその方が好きなんだ」
「恐れ入りますが・・・それは出来ません」
私だって、こんなムカつく男に礼儀正しく何てしたくないが、公爵子息、となればそうもいかない。
「公爵子息が許した、と言えばそれまでですが、ご存知では無いかもしれませんが私の家、ニルギス家は子爵という爵位はあるもの平民と変わらない立場でございます。そのような立場の者が、公爵子息を名で呼べば私よりも公爵子息の尊厳を脅かし、それはヴェルディ公爵様の高潔なる存在を汚すこととなります」
分かりますよね?とばかりに首を傾げながら、大変申し訳なさそうに言ってみた。
「ふうん、以外に頭固いんだな」
違います。関わりたくないんです。
「まあ、今はそれでいいか」
いいえ、呼ぶ事はありません。
「ともかく、お互い知り合ったわけだし、お茶でも飲もうか」
なんでよ!!
「あ、あの公爵子息、先程申したように、ちょっと、話しを聞いてください!私、ご一緒にお茶をする気はありません!」
全く人の話を聞く気がないように、私の腕を引っ張り席に座らせた。
「せっかくスティールの為に珍しい菓子を用意したんだ。まあ、少しは食べていけよ」
既に、イグニス様がポットにお湯を入れ出していた。
確かに目の前に並んでいるお菓子達は見たことも無い形ものばかりで美味しそうだ。
チョコにスコーン、クッキー、プルプル揺れるゼリーに新鮮な果物がのったケーキ。
外国から取り寄せしたのだろう。
「手土産の菓子はこれとは別の物を用意しているから、ここで食べないといつ食べられるか分からないぞ」
そう言われると、食べないと損な気分になる。
「では、少しだけ」
目の前に綺麗に並べられたチョコをひとつ。
美味しい!
中にベリー系が入っているのだが、変に甘くせず素材を生かし、またそれに合うようにチョコの甘さを考えている。
これは、クランベリーだな。
じゃあこっちのチョコは?
こっちも美味しい!!
生クリームが中に入っているだけのシンプルなのだが、ミルク本来の味が下に残りながらも、チョコの甘さを邪魔しない。
それに後味が重たくない。
こっちのクッキーは、どうだろう。
これも、美味しい!
こっちは?
美味しい!
「喜んでくれてよかった」
私の様子に嬉しそうに答え、公爵子息はこのお菓子やお茶をどこから取り寄せたのか、など他愛のない話をしてくれた。何となく、私のレベルに合わせてくれたのだと思ったが、逆にそこまで私とは差があるという事だ。
少しして、仕事があるからとお開きになった。約束通り手土産として、お菓子を沢山くれた。
帰りは同じ公爵家の紋章が入った馬車で、ただイグニス様ではなく、本物の従者が送ってくれた。
ちなみに、イグニス様は王子と公爵子息の秘書官らしい。だから、王子を名前で呼べたんだ、と納得した。
家に帰るとお母様とカッフィーが心底心配して待っていた。
2人とも紋章がヴェルディ公爵家の物だとわかり、急いで私に教えようとしたがさっさと馬車に乗せられたから出来なかった。
ともかく、私は今日の出来事を説明し、お父様に急いで文を書いた。
ヴェルディ公爵家への正式な謝罪を免れたのは良かったが、
どうして大人しくしなかったの!?
どうしてお嬢様は、余計な事しかしないのですか!?
お姉ちゃま、大丈夫!追い出されたら私が養ってあげるからね、
と、
散々に言われた。
ほらあ、やっぱり公爵子息の名前聞いても、全く役に立たないじゃない。どこが聞いて損は無いよ。
ちっ、
だよ。