会議のその後3
「恐れ入りますイザベリ様。教育育熱心でいつも感服致しますが、今はガルマン侯爵様の伏兵が王宮にひしめいております。あまりにお厳しいと、王妃様のお立場が悪くなります。そこは避けた方が宜しいかと思いますので、今回は多目に見て頂けませんか?」
すっとグラリン様が私の前に立ち、優しい声て言ったが、微かに威圧が含まれていた。
これは明らかに、私の爆発を止めてくれたのだ。
確かにガルマン侯爵様の紋章のマントを着ている人達が見つめているが、それを上手く使い穏便に済ませてくれた。
すぅと、一気に落ち着いてきて、一気に冷や汗が出てきて、何故か、姫様の手をぎゅっと握ってしまった。
驚いた顔で私を見たが、その温もりと、強く返してくるしっとりと汗ばんだ手に安心を覚えた。
「確かにその通りでございますね。覚えの悪い姫様を広めてしまっては、王妃様の立場が悪くなりますね」
自分に都合のいいように考える思考に、拍手したくなった。
違うでしょ。
あなたの暴力的な教育で姫様を虐めているんだよ?そこを王妃様が批難されるんだよ?
ほら、姫様が、どれだけ青ざめていて、手が冷たいか分かってる?
涙に濡れる瞳を私にむけてきて、とても胸が痛くなった。
「仕方ありませんね。今日は特別にこれからは自由時間に致しましょう。本当に王妃様と殿下と違いすぎて困りますわ」
はぁぁ、と馬鹿にした言葉と深いため息。
はあ!?
あんたの教え方が悪いんだよ!!
と、心底思ったが、ぐっと我慢した。
「ご苦労痛み入ります」
グラリン様の変わらない柔らかな物腰と言い方に、大人、だと感心した。
「お互い様でございます。公爵子息の護衛は大変でございますね」
ふん。
公爵子息のほうがまだ、あんたより楽よ。
「お気遣いありがとうございます。宜しければ、こちらのご令嬢の姫様と庭園を散歩を許して頂けませんか?」
「令嬢?ああ、居ましたね、そこに。どなたですか?」
グラリン様が私の前に立ちはだかっているから、イザベリ様の表情が全く見えなかいが、見えなくて良かったと思う。
居ましたね、か。
覚えのない令嬢に興味ない、という言わんばかりの感情が手に取れて、その顔を見た時、私が微笑むことが出来るか自信がなかった。
「とりあえず、ご紹介お願いします」
その言葉が口から出ると、すっ、とグラリン様が綺麗に私の前から離れ、
びくり、
と握られた手が思った以上に動き、慌てて手を離された。
なんだが、
とても寂しい気持ちと、
とても許せない気持ちに、
なった。
「こちらは我が主、トランタ様の大切なご友人でこざいます」
いい振りをありがとうございます。
では、とりあえず、いきますか。
「やっと、私の紹介でございますね。ここに来るまでとても時間がかかったように思いますが、姫様の教育も出来ない程度であれば仕方ありませんね」
にっこりと微笑むとイザベリ様は一瞬何を言われたのが分からず、呆気に取られたが、次の瞬間顔を真っ赤にさせた。
「お初にお目にかかります。スティール・ニルギス、と申します」
名を告げると直ぐに、勝ち誇った顔になり、目が釣り上がった。
「ほお。子爵程度でそのお言葉は聞き捨てなりませんね。私が王妃様直々の教育係と知って、その言い方は王妃様に対して失礼でしょう!」
成程。
この人が何故これだけ偉そうにしているのか、わかった。
説明ありがとうございます。
だから、誰も助けれないのか。王妃様が選んだ教育係なら下手に言えない。もし下手に言って反感を持たれたら、王妃様に楯突いた、という事になりかねない。
そう、考え、分かっているのに、このイラつく感情を抑えられなかった。
「少し声を抑えてくださいませんかぁ?ここが王宮だと、ご存知ですよね?それを、そのように耳障りな声を出されると大変失礼ではありませんか?淑女の教育をなさるなら、感情を抑えることを教える筈ですよねぇ。あら、子爵令嬢の私からの指摘されるなんて、本当にその程度の教育しか出来ないから、この程度の姫様しか出来上がらないのですよ」
耳を抑える様子を見せながら、ため息をついて見せると、さらに顔を赤くし、拳を作り震え出した。
だが、それ以上何も言ってこなかった。周囲が私達に興味を示したようでかなり見ていて、それを気づいたようだ。
そこを、考えて言ってやったんだ。
こういう人達は、高くて見えない程の矜恃を背中に背負っている。
でも、それは諸刃の剣。
狭い空間ならともかく、この広い空間で見せつけようとするならば足元をすくわれない絶対的な確信がないとダメだ。
つまり、自分に少しでも後ろめたさ、偽りがないと自信がなければ、あっという間に簡単にその重みで後ろに、バタン、だ。
「庭園を見てくるのでしたね。では、ごゆっくり」
ぎっ!
とちゃんと最後に私を睨みつけ、腹立たしい様子で去ていく姿を見ながら、
勝った!
ガッツポーズを心でした。
「やめてくださいよ、子爵令嬢。あのように喧嘩を売られると、ご令嬢の立場が無くなりますよ」
はあ、と溜息をつきながらグラリン様が本気で心配している顔で私を見て、歩いてください、と手を出し促した。
「・・・すみません、私のせいでご迷惑をおかけしました。私が覚えが悪くて逃げてしまったから・・・子爵令嬢に、ご迷惑をかけてしまいました。イザベリに目をつけられた令嬢は直ぐにお母様に報告され、社交界では・・・とても辛い立場になります」
とても心配そうにしゅんとなり、また下を向くと、とぼとぼと姫様は歩き出した。
まるで俯く事しかしら知らないようなあまりに自然な仕草に、ふくよかなのにとても小さく見えた。
今の話しでよくわかった。
これまでに姫様の事を心配して声を出したにも関わらず、潰された、という事ね。
だから、とても私のことを心配してくれているのか。
でも、あまりにも酷い言い方にどうしても我慢できなかった。
確かにすぐ俯きがちになるが、
私とぶつかった時の倒れ方、
グラリン様の手を取り立ち上がる姿、
そして立ち居振る舞い、
優雅な話し方。
どれをとっても素晴らしい。
イザベリ様の言葉に恐れビクビクしているが、十分気品溢れる姫様だ。
それに、今の話をよくよく考えてみた。
私に立場がいる?
あれ、これってつまり、
私、今、
楯突いたよね?
喧嘩売ったよね?
王妃様に告げ口するイザベリ様に文句言ったよね?
あれ?
まってよ。
つまり、楯突いて私の印象が悪くなったら、アトラス王子に会う事も無くなり、王宮に出入り禁止になる。
あの公爵子息にも会う事もなくなる。
それって、私には好都合じゃない?
権力から除外され、細々と領地で過ごすと言うことでしょ?
今回北部物資事業に参加はしたけれど、それはそれで、終わればおしまい。
その後は、全く社交界から離れて、これまで通り慎ましく過ごせばいいのよ。
つまり
ふっふふふ。
これって結果オーライじゃない。
公爵子息からおさらばできるじゃない♪
「何故そのように嬉しそうにされているのか分かりが、ともかく、姫様申し訳ありませんが、急ぎましょう。実はこの後、子爵令嬢はガルマン侯爵様と晩餐を控えてります」
そうだった。出来たら参加したくはないが、今回私のせいなのだから、お父様達だけを生贄には出来ない。
「まあ、それは、大層な事ですね。もしかして、兄様が仰っていた、隠し球、とやらがスティール様ですか?あ、申し訳ありません、お許しを頂いておりませんのに名前で呼んでしまいました。その、スティール様、とお呼びしても宜しいですか?」
まだ目が赤いながらも、是非に、とキラキラさせながら言われると断る理由はない。
「勿論でございます。私も、姫様、と勝手に呼んでしまってます。お互い様ですよ」
「まあ、本当ですわ。令嬢で姫様、と呼んでくださる方は少ないのでとても嬉しいです」
歩きながらそんな他愛のない話が、姫様にはとても楽しそうだった。
泣いていた時の頬の赤さではなく、紅潮させた頬の赤みが見えて、なんだが安心した。




