会議後1
大笑いと共に部屋を出ていった途端一気に静寂が訪れ、どっと疲労感が体を襲った。
「皆、お疲れ様。スティール様、と呼んでも構わないかい?」
机に突っ伏しそうになるのを我慢していると、斜め前に座るアトラス王子が穏やかに聞いてきた。
「も、勿論でございます」
誰かさんと違って丁寧だ。
「私達の執務室に移ろう。イグニス以外は皆、下がりなさい」
アトラス王子の一言で、部屋にいた警護の方や召使い達が頭を下げ出ていった。
そうして私達も部屋を出た。
豪華な執務室に案内され、その部屋に置かれているソファに座ると、手際よくイグニス様がお茶や菓子を準備してくれた。
誰もが疲労の為か沈黙だった。熱いだろうお茶を私もそうだけど、皆が一斉にカップを持ち飲んだ。
少し熱いが美味しいお茶が喉を通り、気が抜けるように肩が落ちた。
気持ちが落ち着くと、目の前に座る疲れた顔の公爵子息にだんだん腹が立ってきた。
初めて出会った時も、今考えれば私を待ち伏せしてたんだ。
お茶の招待も、わざわざアトラス王子の名前を使って、騙した上に、意地でも私に絡んでこようとした。
私が領地の農産物を卸している店に行く、と言った時も、きっと、しめしめ、みたいな感じでついてきたんだ。
それで、それで、こうなったんだ!
「どうした?何を睨んでるんだ?」
公爵子息の、素朴に質問してきた素朴な顔がにカッチンときた。
「誰のせいだと思ってるんですか、公爵子息!?」
「トランタ、と呼んで欲しいな」
何故ここで拗ねた顔になるのよ。
「呼べませんよ!それに今、名前なんてどうでもいいでしょう!?」
「良くないよ。名前を呼び合う仲、という関係なりたいんだ。そうすれば俺達はそういう仲なんだ、の思われるだろ?」
「思われたくありません!私達に面倒な事を全部ぶち込んで来ましたね!!」」
「クソジジイが言った言葉だな。君が言うと可愛いね」
ゾゾっと背中が寒くなった。
「まあまあ、怒るなよ。それよりも俺はスティールとは仲良くなりたいんだ。前にも言ったが、俺は、顔よし、頭よし、血筋よし、の三拍子揃ってる、いい物件だと思わないか?」
「だから、私は興味ありません!まず、イケメンにいい人はいません!!」
元婚約者のグレンといい、公爵子息といい、絶対にイケメンの言葉は信じない。
「イケメンと認めてくれているのは嬉しいが、酷い言いようだ。俺はこんなにスティールの事を想っているんだ。朝起きた時から夜寝るまで、ずっとスティールの事を考えているんだ」
「きもっ」
真面目に答える公爵子息に、一気に引いたが、またその様子を楽しそうに笑うのが腹が立った。
「何を言うんだ。好きな女性を四六時中考えるのは普通だろ?どうせなら考えなくてもいいように、ずっと側にいてくれるたら嬉しいんだけどな」
「だから、それは公爵子息に興味のある女性に言ってください。はぁ、もういいですよ。そうやって話しを変えて誤魔化そうとしているんでしょうけど、もういいです」
「何が?俺との仲を認める決心をしてくれた?」
しつこいな。
「もういいですってば。要は、公爵子息はガルマン侯爵様と反りが合わないんでしょ。だから、今回物資事業の変更はあえて私とお父様が考えた、と言った。その方が角が立たないし、ガルマン侯爵様を我が家にぶち込む事でやっかい払いをしたんでしょ」
「ご名答。いやあ、聞いたかアトラス、イグニス。俺が見初めた女性は可愛いだけではなく、話も早い、ときた」
感服しました、と素直な感情だが、やっぱり詐欺師にしか見えない。
「おふたりの会話を聞いてたら、誰だって分かりますよ」
「ごめんね、何か巻き込んじゃって。イグニス、スティール様にさっき資料渡して上げて」
疲れた瞳でありながら、それでも全く感じさせない気品溢れる微笑みに、誰かさんとは違う、と見惚れてしまった。
「アトラスを見るんじゃなく俺を見ろよ」
「目の保養になるのアトラス王子ですよ。誰かさんみたいに雑で、無鉄砲な方とは違うんです。ありがとうございます」
イグニス様が苦笑いしながら資料を渡してくれたのを受け取った。
机に置きっ放しだったし、こんな大事になるなんて思っていなかったから、中見をあまり見ていない。
「申し訳ないけど、軽くでいいから中見を確認してもらえるかな。時間があまりないから」
でしょうね。
ぎっと公爵子息を睨むと、嬉しそうに私にお菓子を指さしてきた。
「もういらないでよ、さっき、いや、スコーン食べます」
今ならゆっくり食べれる。
「ジャム、塗ってやろうか?」
「いりません」
素っ気なく答え、スコーンを食べながら資料を読んだ。勿論、こぼさないように、汚さないように気をつけながら読んだ。




