私の婚約解消の理由
さて、何故ここまで家族が心配するかと言うと、
私、スティール・キルギスがほんの2週間前に婚約解消したからだ。
原因は相手の浮気。
友人の誕生日パーティーに参加すると、婚約者であるグレンが他の女性と参加していた。
さすがにお互い気まずくあまりはなしをしなかった。
でも、せめて帰り位は一緒に帰ろう、と声をかけるつもりで庭に出たグレンを追いかけると、
「好きだよ」
「私もよ、グレン」
そんな甘い声が茂みの方から聞こえ、声の方に歩いていくと2人が抱き合い、濃厚な口付けをやりだしたのだ。
季節が真夏のせいで、外に出ても昼間の気温が下がりきれず、蒸し暑く、また、灯りに虫が集まり、庭園を散歩するには、いい状況ではない。
だからこそ人けがないのだが・・・。
「もう、グレンたらぁ」
「リリー、可愛いね」
グレンの甘い声の囁きに首を傾げた。
あれ、リリー?一緒に来たのは確か、アンナ様じゃなかった?
ちょうどグレンの背中で、女性が全く見えない。
人気のない庭園の夜とはいえ、煌々と照らす灯りが2人を妙に生々しく照らしいて、私が見ているのは絶対にわかっていないが、ここまで明るいと、どうぞ見てください、と言うぐらい開けっぴろげだ。
逆に見てるこっちが恥ずしくて、隠したいくらいだ。
ともかく、濃厚な口付けは、いつまで経っても終わらずグレン女性をいやらしく触っていたが、女性はそれを楽しむように、動いていた。
どうしようか、声かけずらいな。
2人の密通を見ながら困ってしまった。
元々グレンは女性が大好きで、私と婚約しても色々な女性と遊んでいた。
グレン・グリーン23歳で、伯爵家。茶色の髪に爽やかな顔で優しいから
女性に人気があった。
ちなみに私は20歳で、子爵で、藍色の瞳と髪で、まあまあの顔、かな。
ともかくグレンは幼馴染みのノアのお兄様だ。
お父様とお母様も幼馴染み同士で、とても仲良く、そのまま結婚した。
でもとても相思相愛で、私も2人のような夫婦が理想だと常日頃から思っている。
では、何故同い年の幼馴染みノア、と婚約しなかったかと言うと、もう1人の幼馴染みのアリエッティと婚約したからだ。
この2人はとても仲良しで、誰がもう見てもお互い好き同士だったから、当然の如く婚約した。
婚約が決まったときた、私も嬉しくて一緒に大騒ぎしたもの。
その流れでというか、知っているもの同士婚約した方が後々楽だし楽しいだろうと、はっきりいって安易な考えなのだが、2年前に婚約した。
が!
まさかここまで女性に緩いというか、手当り次第というか、噂以上だとは思っていなかった。
ほぼ毎日女性とデートしていた。
とくに婚約ししてからは酷くなったような気がする。
でも、別に気にならなかった。
なんというか、今更?かなぁ。
グレンの女好きは小さい頃から知っているし、人気があるのも知っている。慣れてしまったな、というのが正しいかもしれない。
だから、お互いデートする事もなく、家族同士て集まる時や、どうしてもパートナーが必要な時だけ顔を合わせるくらいだった。
その結果、今日は友人チュールの誕生日パーティーに参加したのだが、婚約者であるグレンは、チュールを知らない、と思いエスコートを頼まなかった。
ところが、逆にグレンは私がチュールの友人だと知らず、他の女性のエスコートを頼まれ参加したのだ。
ややこしい話だが、ようは、鉢合わせしたのだ。
婚約者である私ではなく、他の女性との参加に、勿論知っている人達はざわめき、チュールは呆気に取られながらも、青ざめた。 ところが当の本人達は悪びれることも無く、
なんだ、お前来ていたのか、
あら、チュールと友達だったの?
と言ってくる始末。
それに対して私も、
見ての通りです。
と、答える程度だった。
さて、話は戻りますが、
ここは見て見ぬふりをするのが1番だな、と自分の中で結論付けその場を去った。
まだ、婚約中だし他の女性と遊ぶのもいいだろう。もしかしたら、グレンは、自分が本当に愛せる人を探しているのかもしれない。
うん。それならわかる。
もし、結婚してからも浮気するようなら、
その時は、
そうだなあ、その時は、
うーん、と考えて、
まあ、どうにかなるでしょう。
離縁するかもしれないし、そうじゃないかもしれないし、その時考えようかな。
「何してるんだ!」
微かな生演奏が聞こえる庭園に、その鋭い一喝は綺麗に響いた。
ガサガサと慌てた音と女性の小さな悲鳴、そして、痴話喧嘩的な騒ぎが始まった。
その声に屋敷の警備員が集まりだした。
少し離れ、振り向くと3人が揉める姿が見え、警備の人も含め、なんだか揉めてる様子を見ても、何の感情も浮かばなかった。
だから、思った。
もし、
もしだよ、
婚約破棄したら、次に選ぶ人は、
平凡な人で、容姿も程々で、でもお互いを大切にして、農家が大好きな人がいいな。
そう思いながら、ホールに戻った。
結果、私の願いは叶ってしまった。
あの時、グレンとリリー様に怒号を浴びせたのは、リリー様の婚約者だったようで、勿論、婚約破棄された。
そして、私もグレンと婚約破棄した。
お父様がここぞとばかりに文句を言ってくれたし、さすがに今回は、他の目もあるので、あまり揉めると世間体が宜しくない、という事で、グレンの家から慰謝料を頂き、円満に婚約破棄した。
ノアと、おじさんおばさんからは平謝りされた。
おばさんは、婚約したら少しは大人しくなると思っていたのに、ととても落ち込んでいて何だか申し訳なかったが、仕方がないだろう。
アリエッティからも、良かったわ、と泣いてくれた。
何だかそれみてあの男はどれだけ最低男だったのか、と呆れた。
ともかく、思っていた事が現実になった。
婚約破棄を聞いて、ほっとし自分の感情に、初めてこの婚約があまり好きではなかったのだ、と改めて知った。
今度は、平々凡々と過ごせる相手を探したいと思います。
それと、お父様の領地は色々な物を栽培している。それを手伝いながら、ほそーく、ながーく、そして楽しく過ごせる、穏やかな人を求めたいと思います。