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北部物資について4

「聞きましたか?スティールはオレンジが何処の国のものか言い当てた上に、どうすればより良い状態で届くのか、配送までも気にかけている。それも、無意識に答えることが出来るほどです」

え?

大袈裟な演技ともとれる抑揚をつけた話し方で、私とガルマン侯爵様を交互に見た。

「それは、全てこちらにおられるニルギス子爵様の農作物を育てることに情熱と愛を注い結果。それが全てスティールに受け継がれたのです。それとこれが、ニルギス子爵家の資料となります。堅実なる仕事ぶりで、毎年を少しづつ黒字を出し、領民の生活は何処の貴族の領民よりも裕福だと、私は感服致しました」

な、なんか大袈裟に言ってない?

というか領地の資料までわざわざ用意したの?

「その、ニルギス子爵様の意志を継いだスティールが私に助言したのです。まるで女神かのように、私を叱咤してくれたので」

はあ!?

い、いつ私そんな事したの!?

ゆっくりと私に近づきながら、崇めるように私に微笑む公爵子息が、悪魔に見えた。

「先日王宮で開かれたパーティー時に私に対して無礼だと知りつつも、北部の状態を憂い、涙ながらに訴え来たのです」

泣いてないし、訴えてないし。

まず公爵子息だったなって知らなかったよ。知ってたら無視してた!

「北部の貴族キャーデイ男爵とニルギス子爵は昔ながらの友人であり、その子供達もまた仲の良い友人です。だからより胸を痛め、私にどうにかして欲しい、と詰め寄って来たのです」

「キャーデイ男爵は私も知っている。表立って何かをする性格ではないが、いつも領民のことを思い、よく一緒に汗だくで働いている、良き主だ」

ガルマン侯爵が、感慨深気に静かに呟きながら足を組んだ。

公爵子息は、私の事を全部調べて上手く使ってる。北部に領地を持つ友人がいる、と確かに言ったがキャーデイ男爵、と一言も言っていない。

それも、ガルマン侯爵様がおじ様と顔見知りだと知ってて名を出してる。

「資料に書いているように、農作物の運搬にコンテナの形状がどれだけ大事かを教えてくれました。野菜は生きている。だから、物として扱わず、生き物として扱うよう考えほしい、と私でも理解できるよう単簡に説明してくれました」

生き物だとは言ったけど、そんな説明してないよ。

「資料にも書いておりますが、生き物であれば通気性、つまり空気を与えねばなりません。それに適したコンテナをわざわざ、用意してくれた。また、そのコンテナに入れる量の適量は、季節や温度を踏まえて考えなければない、と丁寧に実践までしてくれました」

いや、あれは視察の時に流れでやっただけで、別に公爵子息に教えたわけじゃない。

「また、」

まだ、あるのぉ・・・

公爵子息は、私の肩を優しく叩くとベランダと向かい、あのミニトマトのプランターを持ってきて、ガルマン侯爵様の前に置いた。

芽が出かけている。

「見てください。私が育てているミニトマトです」

「お前が?」

「はい、これもスティールの助言です。農作物の中にも安易に育てる事が出来る野菜がある。少しでも農作物を理解するには、己の手で育てるべきです、とわざわざ育てかたの説明書まだくれました。これです」

ポケットから出してきた。

「こんなに簡単なのか!?それなら」

喜悦に綻ばせた声で立ち上がるガルマン侯爵を、公爵子息は宥めるように、お茶が入っているカップをガルマン侯爵に近付けた。

立ち上がったガルマン侯爵様の筋肉質で大きい身体に比べ、公爵子息はその身が半分と言っても過言でないのに、

公爵子息の全身から、威信が強く放たれ、ガルマン侯爵様と同等、いや凌ぐ程の存在感を感じた。

だからこそガルマン侯爵は、立場も歳も下である公爵子息の言葉に苛立ちを見せながらも逆らうことなく座った。

というか、それもそんなつもりでミニトマトは教えてない。

なんで?

なんで?

そう話しを折りまげて説明するの!?

「ガルマン侯爵のそのお気持ち、お察し致します。私も同様にこれなら全ての民に渡せば、少しでも食糧難を解決する事ができる、と興奮致しました」

この方、演劇でも習ったのだろうか?

絶対詐欺師になれると、拍手喝采したいくらい真剣な顔が上手すぎて蹴りたくなるくらいだった。

「だが、ここでまたスティールの助言を頂いたのです。安易に期待を持たせてはいけない。場所が変われば、育ち方、実の付け方が違う。そうなった時、どれほど民が絶望するかを考えて欲しい。まずは貴族と、何人かの民に実験と称して進めるべきだ、と。その際はキャーデイ男爵家ならば、ニルギス子爵様と懇意なる仲のため、指導者として相応しいでしょうし、領民と手を取るキャーデイ男爵ならばその言葉を聞きいれてくれる」

あぁ・・・。

ごめん、おじ様。今度ゆっくり謝るよぉ。

あの方も表舞台に立ちたい人では無い。お父様と同じ、領地だけを考えたい人だ。

はぁ。

「公爵子息のように、上辺しか知らない上級貴族の言葉はどうしても民の心に響きません、ととても辛そうに教えてくれました。スティールは慈愛に満ちた叱責を私にしてくれたのです」

公爵子息の、またまた、崇めるうな甘い眼差し、

ガルマン侯爵様の、羨望に変わった眼差し、

お父様の、どういう事だ!?と言う相も変わらず睨みをきかした眼差しに、

認めざるを得なかった。

この人、

私を、いや私達を巻き込んで来てる!

私がちゃんと、穏やかに過ごしたい、と言ったのに、

全部、

全部、

私のお陰だ、と、お膳立てしている!

ああ・・・。

何故、アトラス王子とイグニス様があんなに私を憐れんだ顔で見ていたのかわかった。

「という事で、夜はニルギス子爵家で晩餐を考えております。その時、ニルギス子爵様よりご指導ご鞭撻を承りたいと思います」

にっこりと無邪気微笑む公爵子息に、

「はぃぃぃぃ!?」

お父様が真っ青な顔で悲鳴あげ立ちがった。

「そ、そんな晩餐など、やった事ありません!!」

悪魔がここにいる、と本気で思ったのは私だけでなく、お父様、そしてアトラス王子、イグニス様も同じ気持ちなのだ、皆の顔を見て、頭が痛くなってきた。

「御心配いりません。ニルギス子爵様が屋敷を出発された後、入れ違うように王宮より手配した者達が屋敷に到着しております。私の家より向かわせた騎士団、そしてアトラス付きの騎士団が警備を万全にし、また、晩餐の食事も王宮専属の料理長を手配しております。料理も、ニルギス子爵様の屋敷に保存している野菜をふんだんに使用し、ニルギス子爵様の領地の素晴らしさをガルマン侯爵殿に振る舞うよう指示しております」

恐ろしい程に用意周到だ。

「あ、あの、ですが、我が屋敷程度では、部屋にしても召使いにしてもご満足頂けないと思います」

「心配するな!私はニルギス子爵殿の屋敷がいい!!色々話しを聞きたい!!」

ガルマン侯爵様が揚々と言った言葉と、爛々と輝く瞳に、お父様は言葉を飲み込んだ。

「いやあ、この資料の内容は素晴らしい!こいつが考えたのなら胡散臭いと認めなかったが、ニルギス子爵殿とその令嬢の案と聞き、また、このニルギス子爵殿の領地での手腕、全てに置いて素晴らし!!いやあ、何を叱咤されるか楽しみだ。さあ、行くぞニルギス子爵!!」

「ええ!??」

思いっきり拒否の顔と言葉だったが、我関さずとばかりに、ガルマン侯爵様はお父様に近くに行くと腕を引っ張った。

「我々は先に向かう。お前らは後から来い!!」

「はい、ガルマン侯爵殿」

公爵子息は、まーた胡散臭い微笑みを浮かべ、頭を下げた。

そうして、お父様は、

連れだされた。

お父様、ごめんなさい。

今謝っとくから、許してね。

後で怒らないでね。




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